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第6章 ヘルンリヒュッテへ

◎プレッシャー

 7月17日。

 前夜は寝苦しい夜だった。胸の上にずっしりと、プレッシャーがのしかかる。今まで山に登るのに、プレッシャーなど感じたことないが、はるばる日本から出かけてきたし、出発前に絶対登ってこいよなどと言われて来たのが、かえって重荷になっている。早くマッターホルンに登って、楽になりたいと思った。

 昨日の疲れが出たのか、下痢気味で、腹の調子がおかしく、体調は最低。

◎ガイドの手配

 この日は、ヘルンリ尾根の中腹にあるヘルンリヒュッテまで行き、翌日マッターホルンにアタックという計画だ。

 今回のマッターホルンの計画では、Kさんと、Hさん、そしてO夫妻がそれぞれ自分達でパーティを組んで登り、Mさん、Yさんと自分はそれぞれガイドを頼んで、登ることにしている。

シュヴァルツゼー

シュヴァルツゼーにて→

 朝、ホテルを出て、ガイドの手配の確認のため、ガイド組合へ直行。行くと、これから調整するので、10時にもう一度来いという。あらかじめ予約してたのにね。

 10時まで時間があったので、ガイド組合前のスーパーで、買いだしをする。しかし、スーパーに入ったとたん、ヨーロッパのスーパー特有のムンとする肉のにおいで、思わず吐き気を催す。下痢のため体が油っこいものなど全く受け付けないようだ。

 10時に改めて、ガイド組合に行くが、ガイドは既にヘルンリヒュッテにいると言うことで、自分等3人(自分、Yさん、Mさん)は上へ向かった。他のメンバーは先にヘルンリヒュッテへ上がっていて、この日はマッターホルン下部のルートの偵察をすることになっていた。

◎ヘルンリヒュッテへ

シュヴァルツゼーよりマッターホルン

←シュヴァルツゼーよりマッターホルン

 ツェルマットから、ロープウェーを乗り継いで、シュヴァルツゼー(Schwaltzsee)へ上がった。

 今日もマッターホルンが隠すところなく見えている。シュヴァルツゼーから見たマッターホルンはまるで絵のような美しい景色だ。しばしスケッチしたりしてのんびりしてからヘルンリヒュッテへ向かって歩いた。

 シュヴァルツゼーからヘルンリヒュッテまでの道は、ハイキングでも行ける。日本アルプスの縦走路みたいなもの。だから観光客もよく歩いている。

 7年前ツェルマットに来たとき、最初にハイキングで歩いたのがこの道だった。ツェルマットへ着いた時は天気が悪くて上へ上がっても何も見えなさそうだったのだが、それでもとにかくマッターホルンが見たくて、登っていった。最初はマッターホルンは見えなかったのだが、やがて雲が切れて頭上に頂上が現れた。何て高い山だと思った。しかしもっと雲が切れてくると最初に頂上だと思ったところは、まだ中腹で、本当の頂上はもっともっと上にあることがわかったのだった。マッターホルンは、自分の予想を越えた大きさを持った山だったのだ。

 今回は最初からマッターホルンが、隠すところなく見えている。やはり大きく、高い山だ。

ヘルンリ尾根取付きよりマッターホルン

ヘルンリ尾根取付きよりマッターホルン→

 道はしばらくなだらかだったが、ヘルンリヒュッテへの急登になるとバテてきた。いつしかOさんやYさんからも遅れ、一人になる。

 ザックをおろして休んでいたら、山から降りてきたアメリカ人が「マッターホルンへ登るのか」と言う。そうだと答えると、へそのあたりを指差して、「まだこのあたりだ、がんばれよ」と言った。「まだへそかぁ、先は長いなぁ」と思った。

 バテバテになって、ほうほうの態で、ヘルンリヒュッテへ着いたのは、14時40分。コースタイムをかなりオーバーしていた。これで明日マッターホルンに登れるのだろうか、心配になってきた。

◎ヘルンリヒュッテにて

ヘルンリ小屋よりマッターホルン

ヘルンリ小屋よりマッターホルン→

 ヘルンリヒュッテでは、Oさんがいて、K、H両氏のコース偵察を双眼鏡で眺めていた。自分も一緒にずっと眺めていたが、ずっと、上を見上げていたので、しまいに首がいたくなってきた。

 昨日、ブライトホルンで会ったのん気な夫婦も来ていた。やはり明日頂上を目指すという。その他にも、各国折り混ぜて、明日頂上を目指すグループがいる。無事頂上に登れるといいですね、等と声をかわしていった。

 まだまだシーズン前で、ヘルンリヒュッテも客は少ないらしく我々だけで、1室を占領できた。

 ヒュッテで、一応フルコースではあるがあまりおいしくない夕食を取っていると、我々のガイドがやって来た。

 自分のガイドをしてくれるのは、ウィリッシュ・ガブリと言う人。ウィリッシュのピッケルを作ってる人の兄になるそうで、もう300回はマッターホルンに登ったそうだ。年は良くわからないのだが、40才くらいか。Oさんや、Mさんのガイドも紹介してもらって、しばし話をした。

 ガイド達が言うには、明日も天気は上々らしい。体調はどうかと聞くので、腹の具合が悪いと答えると、そんなものは大丈夫だと言ってくれたので、なんか安心した。

 Mさんが、明日はどんな装備を持っていけばいいかと聞いたら、ザックを見せろということになり、我々の部屋へ上がっていく。

 実は、部屋ではKさん達が、ひそかにみそ汁を作っていた。やばいと言うことで、すぐに部屋へかけ上がり、ガスと、みそ汁を窓の外へほりだした。後で、Mさんは、余計なことを言うんじゃないと皆にせめられていたのだった。

 ガイドにザックを見てもらったが、彼はこれはいらん、これもいらんと中にあったもの全てほうりだして、結局必要な装備は、アイゼンと、手袋、ヘッドランプ、サングラスと、あとビスケットでもあればいいのだそうだ。ガイドに全てまかせろということらしい。

【コースタイム】

  ツェルマット(1050) −−− シュヴァルツゼー(1120,1220) −−
 −−− ヘルンリヒュッテ(1442)


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