ばっくなんばー8
37.降 魔 証明を迫るパーピマンを無視するかのように、シッダールタは静かに結跏趺坐のまま瞑想をしていた。 「おいおい、証明するものが思いつかないのか?。それじゃあ、お前が仏陀になった、などとは言えないぞ、残念ながらな。ふっふっふ・・・。」 パーピマンはニヤニヤしながらシッダールタに迫ったのだった。 (いいぞいいぞシッダールタ。その調子だ。迷え、迷え、シッダールタ。迷って迷って、自信を無くすのだ。そうだ、お前はブッダなどではない。単なる勘違いをしただけだ。さぁ、もっともっと迷うがいい。迷って迷って迷いの底へ堕ちていくがいい。クククク、ハハハハ・・・・)。 パーピマンは、心の中で呪っていたのであった。 その時であった。おなかの辺りにあったシッダールタの右手が、ゆっくりと膝のほうへと向かい、そして手の甲をパーピマンに向け、中指で大地に触れたのだった。 「私がブッダになったという証明は、この大地がしてくれるであろう。」 シッダールタがそういうと、大地が大きく揺れたのであった。地震である。 「う、ううわ、これはいったい、どうなっているんだ。う、うわ〜、落ちる、落ちる〜!。」 大地が大きく裂け、パーピマンは、その裂け目にはまってしまった。あやうく、大地に腕をかけ、裂け目の底に落ちるのを防いでいたパーピマンにシッダールタは言った。 「パーピマン、汝は敗れたのだ。私は一切の魔を降伏(ごうぶく)したのだ。」 「くそ、くっそ〜、覚えていろ、わしは必ず蘇って、お前に死の恐怖を与えてやる。幾度となくな!。」 大地がまた揺れた。パーピマンは、苦しそうにもがきながら、裂け目から顔だけをだして、そう毒づいた。 「パーピマン、私には死の恐怖は無い。しかし、私でもいつかは、死を迎える。肉体を持っている以上、この肉体が滅ぶときは来るであろう。そのとき、汝と会うことにしよう。」 「ふふふ、わははは。そうだな、シッダールタ、それがいい。お前の寿命が尽きるとき、わしは再びお前に囁いてやる。死の恐怖を復活させるためにな。それまで待っているがいい。わはははは〜。」 パーピマンは、不気味な笑い声をあげ、大地の裂け目へと落ちていったのであった。 「おぉ、さすが、大菩薩様。いや、ブッダ様だ。見事にブッダになられた証明をされた。」 天界からこの様子を見ていた神々は、安堵の声を漏らした。 「いやいや、こういうことでしたか。ブッダになられると、このようなこともおできになるのですなぁ・・・。」 「どうです、皆様、そろそろブッダになられたお祝いに行きませんか?。」 「そうですな。そろそろ参りましょうか。」 帝釈天がそう言ったときであった。 「待たれよ。みなの者、しばし待たれよ。」 と声をかけたものがいた。帝釈天を始めとする神々は、その声のしたほうを見た。それは大梵天であった。 「こ、これは大梵天様。このような低い天界に来られるとは・・・・。」 大梵天は、帝釈天たちが住まう三十三天よりもはるか上位の世界の神であった。 「帝釈天、人間界に行くのは待たれよ。よくブッダ様をみるがいい。」 「ブッダ様を・・・?。」 大梵天に言われ、帝釈天は人間界でたった今、魔を滅ぼしたシッダールタを見つめたのであった。 「あぁ、ブッダ様は、再び瞑想に入られる・・・。」 「そうじゃ。帝釈天よ、瞑想の邪魔をしてはならぬ。ブッダ様は、さらに深い覚りへと向かわれるのじゃ。ほかの神々も、しばし人間界に行かれるのは待つがいい。」 「わかりました、大梵天様。そういうことであれば、我々も静かに待ちましょう。」 いつもは我が侭である帝釈天も、大梵天の指示に従って、三十三天の中心にある帝釈天の座に落ち着いたのであった。その様子を見て、大梵天も自らの世界へ戻っていったのであった。 シッダールタは、再び瞑想に入っていた。 (確かにこの世、いや、すべての世界は常ではない。絶えず変化している。生まれたものは、かならず滅びへと向かい、変化しているのだ。これは、物質面でも精神面でもいえることであろう。心も移ろいやすいものであるから、常に一定の状態を保ってはいない。 そうであるから、すべての存在には我はない。永遠に残る我というものは無いのである。 しかし、その我に固執するがゆえに、みな苦しむのだ。あらゆる存在、物質も精神も含め、それらに執着し、思うようにしようと欲望が働くから苦しむのである。つまり、一切の苦しみのもとは、欲望なのだ。そしてさらには、欲望が苦しみのもとであるということを知らぬ愚かさなのだ。 そうであるなら、その欲望を捨てれば、苦しみからは解放される。そこまではいい。それは、真理である。 しかし、欲望は簡単に捨てられるものではない。それにだ・・・・。 そもそも何ゆえ、存在するようになったのか。そこがまだ解き明かされていない。これでは、まだまだ完全な覚りとはいえぬ。 そうか・・・。私が覚ったのは、ほんの入り口なのだ・・・・。) (何ゆえ存在があるのか・・・。 たとえば、この世に生まれたきっかけとはなんだ・・・・。それは輪廻による。罪を犯したがゆえに、それに応じて、それぞれの生まれが決まっていくのだ。つまり、それは前世の行いによる。 己の欲望に従い、他の命を粗末にしたり、盗みを働いたり、邪淫にふけったり、騙したり、すかしたりして、他を不幸に落とし込めば、地獄の存在となるであろう。モノを惜しみ、自分さえよければいい・・・と、欲深くモノに執着しすぎれば、餓鬼の存在となろう。怠けたり、性行為などの快楽のみを追及していれば畜生となってしまう。争いに明け暮れ、心が怒りや恨みに満たされていれば、争いの絶えない世界へ生まれいくであろう。あらゆる生あるものを大切にし、施しを、善行をすれば天界へと生まれ変われるのだ。中には、神の座につくものもいるであろう。善悪をよく理解し、自分のためや他のために、慎ましく生活を送れば、人間へと生まれてくるであろう。 そうだ・・・・。 今の存在は、命は、すべて前世の行いよって分かれてくるのだ。人の幸・不幸もそうであろう。すべては前世の行いに影響を受けているのだ。前世の行為の善悪の報いが、現世に反映されているのだ。 なにゆえ、悪の行為に走ったか・・・・。それは・・・・やはり欲望だ。他の命を奪うのも、盗みを働くのも、邪淫に耽るのも、間違った欲望があるからだ。愚かなる欲望が原因で、悪の行為を行ってしまうのだ。 その欲はどこから生まれるか。それは、真理を知らない愚かさがゆえに、だ。こういう欲望を出せば、このような苦しみを受ける、という真理を知らぬからだ。 なるほど・・・・。この世の存在は、こうして生まれてきたのだ。すべては真理を知らぬ愚かさが原因なのである。) (が、しかし・・・・。その始まりはどうであったのか。それはわからぬではないか・・・・。ということは、もっともっと深い真理があるに違いない。もっと深い覚りがあるに違いない・・・・。) そう考えたシッダールタは、さらに深い瞑想へと入っていった。深く、深く、深く・・・・。 シッダールタの魂は、その肉体を離れつつあった。さらに深い瞑想に入った。ついに、魂はシッダールタの肉体を離れた。その魂は、上昇した。いや、移動しているわけではない。精神世界を上昇したのだ。 大地が小さく見えた。広大な海が小さく見えた。そして、丸く青いものが暗闇の中に浮かんでいるのが見えた。これは・・・・生命が住む大地と海だ。シッダールタはそう理解した。そこは静寂であった。 月が・・・月とは、このような姿だったのか。遠くで見るのと近くで見るのと大きな違いだ・・・・傍らを通り過ぎていった。太陽が近づいた。暑さは感じなかったが、暑さが理解できた。 眼で見ているのではないが、すべてを見通していた。 耳で聞いているのではないが、すべてを聞いていた。 肌で感じているのではないが、すべてが感じられた。 さらに星々が通り過ぎていった。宇宙が流れていったのだった。 巨大な門があった。その門の横を通過した。門の中が見えた。そこには、四天王がいて、五体倒地をして平伏していた。 突如、巨大な城壁が見えた。その傍らを通過した。城壁の中が見渡すことができた。そこには、三十三の国々があり、その国々を統治する神々が、王として存在していた。その王である神々の下には、その世界へ生まれ変わることができた生命であふれていた。天人や天女たちである。 国々の王である神々たちは、口々に叫んでいた。 「あれは、ブッダ様!。ブッダ様が上空へ行かれる。どこへ行くのか・・・。」 「あぁ、ブッダ様じゃ、ブッダ様じゃ。」 「はて、これはどういうことだ。ブッダ様の身体は、ピッパラ樹の下にいらっしゃるのだが・・・。」 「魂だけが、ここを通過されるのだよ。みなのもの、五体倒地せよ。」 帝釈天の言葉に、神々は、次々に五体倒地をして平伏していった。 さらにシッダールタの精神は、魂は、上昇した。 大梵天を始めとする上位の神々が深々と頭を下げていた。その姿を眺めつつ、さらに上昇した。 「よくぞここまでこられました。どうぞ、また後でお寄りください。」 大梵天の横を通過するときに、その声が聞こえた。 さらに、さらに、さらに、シッダールタの魂は、深く、深く、深く、上昇したのであった。そして、その先には、直視できないほどの輝きを放った巨大な球状の塊があった。その巨大な塊は生きていた。そして、うごめいていた。その塊の中心に一つの影が見えた。その影は、次第に人が結跏趺坐したような影になった。 白光を放つ巨大な球状の塊を背に、その影が言った。 「ようこそ、待っていましたよ・・・・。」 と。 38.不 二 その声は、声として聞こえてきたわけではない。また、その声を耳で聞いたわけではない。魂そのものが受け取ったのだ。魂そのものに響いてきた、染み込んできたのだ。 「あなたを待っていました。シッダールタ・・・。」 その影は、そう言った。シッダールタの魂は、その影と向かい合った。 「私を待っていた?。あなたはいったい・・・。」 シッダールタの魂は、その影に問い返した。 「私はあなたですよ。」 「あなたは・・・・私・・・?。」 「後ろを振り返ってみてください。わかりますか?。」 影にそういわれてシッダールタは、振り返った。そこには、ピッパラ樹の下で結跏趺坐しているシッダールタの身体が小さく見えた。 「あれは、あなたですが、あなた本体ではない。わかりますか?。」 「そう、あれは私本体ではない。あれは仮の姿にしか過ぎない。否、あれは抜け殻だ。あの抜け殻の本体は、ここにある。」 「そう、あの身体、シッダールタと呼ばれていたあの身体の本体は、ここにある。それは、あなたであり、私でもあるのだ。」 「あぁ・・・なるほど、そういうことか。あなたは私であり、私はあなたであるのだ。」 「そういうことなのだ。しかし、私はあなた、あなたは私、であるが、今はあなたと私は二つである。」 「そうだ、一つであるはずが、二つになっている。」 「本来の魂の源は、すべてこちらの世界にある。あなたがいた世界、殻に入った魂が存在していた世界は仮の世界なのだ。」 「そう、仮の世界だ。真実の世界は別にあるのだね。」 「そう、真実の世界は別にある。しかし、真実の世界と仮の世界は、影響しあっている。鏡の如く・・・。仮の世界で魂が穢れれば、真実の世界の魂も穢れるし、仮の世界の魂が清らかになれば、真実の世界の魂も清らかになる。」 「なぜなら、仮の世界の魂も真実の世界の魂も、本来は一つであるからだ。だから、お互いに共鳴しあうのだ。」 「そうなのだよ、仮の世界のシッダールタ。」 「そうだったのだね、真実の世界のシッダールタ。」 そして、二人は同時に叫んだ。 「ようやく、会うことができた。ようやく一つになることができる。この時を待っていた・・・。」 その影は、影ではなくなっていた。 「本来の世界の魂と仮の世界の魂は、不二一体(ふにいったい)である。しかし・・・。」 「しかし、その魂は、出会うことは無い。」 「そう、ブッダにならない限り。」 「ブッダのみが、本来の魂と出会い、不二一体となるのだ。」 「そうだ、その通りだ、本来の私よ。最高の覚りを得たものだけが、仮の世界でブッダとなったものだけが、本来の魂と一体となり、本来の姿を得る。そして、すべてを知るのだ。」 「その通りだ、仮の私よ。ブッダになることができるのは仮の世界でのみ、なのだ。仮の世界でしかブッダにはなれない。本来の世界にいた私はそれを待っているだけの存在である。」 「魂を磨く修行ができるのは仮の世界だけなのだね。覚りを得るための修行ができるのは仮の世界だけなのだね。」 「そうなのだよ。本来の世界では、覚りを得るための修行はできない。私にできることは、あなたがブッダになることを待ちながら、兜卒天でこちらの世界の魂に菩薩の教えを説くことだけなのだ。」 「本来の私よ、あなたは兜卒天で菩薩の教えを説いていたのか。」 「そうだ、仮の私よ。しかし、その教えはブッダの教えには至らない。なぜなら、仮の世界のあなたが、まだブッダにはなっていなかったからだ。」 「そうか、そうだったのか。菩薩の段階だったのだね。」 「そうなのだよ。菩薩の段階だったのだよ。」 「ところで、その後ろの光の珠が兜卒天なのか・・・?。」 「いや、この光の塊は、兜卒天ではない。ここは有頂天だ。仮の世界で、ブッダには至れぬ魂が、至ることができる最高の精神世界だ。覚りを得るまでは至らぬが、無欲となった精神世界なのだ。」 「その中には・・・。」 「この中には魂がある。仮の世界での肉体を必要としなくなり、欲望がなくなった者の魂が至る世界だ。魂だけの世界なので、その世界は広くも無く狭くも無く、大きくも無く小さくも無く、重くも無く軽くも無く、増えもせず減りもせず・・・・。ただ、ここも天界である以上、生死はある。」 「なるほど、ここが天界の最高の世界か。あなたは、なぜここで私を待っていたのか。兜卒天ではなく。」 「ここが境界だからだ。これより先は、輪廻を解脱した世界。ブッダのみが踏み込める世界だ。この有頂天はその境界に存在している。いわば、ブッダのみが通過できる門がここなのだ。」 「よくわかった、本来の私よ。つまり、ブッダとなった者は、輪廻を解脱した世界と輪廻の世界の境界で、本来の魂と仮の魂が一体となるのだな。解脱した世界に入るために・・・。」 「そうだ。これより先は、絶対真理の世界。そこへいけるのは、ブッダのみ。ブッダは、本来の魂と仮の魂と一体になって、絶対真理の世界へと入っていくのだよ。」 「よくわかった、本来の私よ。では、不二の姿となって、さらに深いところへ行こうではないか。」 「あぁ、そうしよう。今こそ、その時が来た。」 シッダールタとシッダールタは、互いに向き合った。二つの魂が、強く光りだした。それはまるで、新たなる星の誕生のような輝きであった。 二つの光が次第に近付いた。 仮の世界のシッダールタに真実の世界のシッダールタが入っていった。 真実の世界のシッダールタに仮の世界のシッダールタが入っていった。 二つの魂は、お互いに入りあった、入我我入(にゅうががにゅう)したのであった。こうして、二つの魂は融合した。不二一体となったのである。 ブッダは、仏陀となった・・・・。 「これで一体となった。本来の姿となったのだ。仏陀となるために、人間として生まれたその時に封印した菩薩の教え、私自身の魂の歴史、輪廻の数々・・・・。それら、すべての封印は、今、開けられた。準備は整った。さぁ、究極の真理の世界へと行こうではないか。」 そう念ずると、仏陀はさらに深い瞑想へと入っていったのである・・・・。 39.真 理 仏陀となったシッダールタは、さらに深く瞑想したのであった。深く、深く、深く・・・・そして・・・。 シッダールタの魂は、まばゆいばかりの光に包まれていた。それは、赤くもあり、青くもあり、黄色でもあり、緑でもあり、紫でもあった。様々な色に光り輝いていたのだった。 やがて、一筋の金色の光が上の方から差してくるように感じられた。その光は、初めは極細いものであったが、しだいに太い光となり、いつの間にかシッダールタの魂を包み込んでいた。 シッダールタは、黄金の光に包まれていたのである。 「よくここまできた。待っていた。娑婆世界の仏陀よ。」 ふと、声が聞こえてきた。 「ここは・・・・。そして、私に話しかけるあなたは・・・・。」 「ここは、究極の真理の世界。そして、わたしは、真理そのものだ。」 「真理そのもの・・・・?。」 「そう、真理そのもの。いや、すでにこうして語りかけているのであるから、厳密には真理そのものとはいえぬ。真理そのものが、あなたたち生命体に近付いた状態、とでも言おうか・・・・。」 「真理そのものが生命体に近付いた状態・・・・?。」 シッダールタは、よく理解できていなかった。 「もう少し、あなたたちに近付いてみよう・・・。」 その声はそういうと、シッダールタの前に姿を現した。その姿は・・・・。 その姿は、雄大であった。人のようではあったが、人とは異なっていた。背後には七色の光が輝き、自らは直視できないくらいの、黄金色に輝いていた。頭には眩いばかりの宝冠を載せ、様々な飾り物を身につけていた。 その真理が現した姿は、巨大な蓮の花の上に結跏趺坐していた。 「娑婆世界の表現に合わせた姿であるが、これでわかるであろうか。」 そういうと、その姿はかすかに微笑んだようであった。 「私は、本来はこのような姿をしておらぬ。いや、姿かたちなどと言う現象的なことは超越した存在である。なぜなら、私は真理そのもの、宇宙そのものであるからだ。しかし、それは汝らの理解をはるかに超えたものであろう。真理そのものには姿と言うものがないから、表現の仕様もない。だから、理解はできぬのだ。 だが、こうして仮の姿を現し、仮の名前を教えれば、汝らは理解しやすくなるであろう。すべて汝の世界である娑婆世界にあわせて伝えよう。 私の仮の名は、大毘盧遮那如来(だいびるしゃなにょらい、大日如来)・・・・という。」 「大毘盧遮那如来・・・・・。」 「そうだ、娑婆世界の仏陀よ。汝にも名前がある。汝はいずれ『釈迦牟尼仏陀、釈迦如来』あるいは『世尊、釈尊』と呼ばれるようになるであろう。」 「娑婆世界、釈迦如来、世尊・・・・。」 「娑婆世界とは、汝が存在する世界のことだ。如来とは、初めからあるようなもの、と言う意味だ。真理とは、もともとどこにでも存在するものなのだよ。ただ、誰も気がつかないだけのことなのだ。私は、いつでもどこでも真理を表しているのであるが、気がつくものはいない。それに気付いたものこそが仏陀となるのだ。ならば、仏陀自身も本来は、いつでもどこでも存在するものである。だからこそ、仏陀のことを如来・・・・来るが如し・・・と表現するのだ。真理から来るが如し・・・・と言う意味なのだよ。娑婆世界での言葉では、そう表現するのがもっとも相応しいのだ。 釈迦如来よ。よくぞここまできた。待っていたぞ。汝は、娑婆世界の仏陀となったのだ。だからこそ、真理の世界まで到達することができた。 これより、汝が本来座するべき場所へ向かう。真理の世界での娑婆世界へと・・・・。だが、その前に汝に授けるものがある。」 「授けるもの・・・・・?。」 「そう、それは真理そのものである。」 そういうと大毘盧遮那如来は、両手を胸の前で組みあわせた。大毘盧遮那如来の輝きがさらに増した。シッダールタもその光に包まれた。そのとたん・・・・。 シッダールタは、すべてを知った。この世界、宇宙の始まりからその終わりに至るまで、宇宙の創造と破滅、そしてその繰り返し、宇宙のいたるところに存在する生命の誕生と破滅・・・・・。数多くの存在と、その存在の数多くの過去と数多くの未来を知った。一つの小さな存在さえ、一つも残さず、その魂の生と死の繰り返しを知ったのであった。 そして、その創造と破滅の世界から抜け出た存在と、その存在が住まう世界をも知ったのである。それは数多くの仏陀であった。仏陀は何人となく存在していたのだ。過去の仏陀、現在の仏陀、未来の仏陀が次々と流れていった。流れていった仏陀は数多くの世界を、浄土を持っていた。それは宇宙に点在していたのであった。 「理解したであろう。宇宙は創造と破滅の繰り返しである。その中に存在するものも創造と破滅を繰り返す。しかし、真理に至れば、その創造と破滅から抜け出すことができるのだ。そこが、絶対真理の世界、曼荼羅の世界なのだよ。そして、曼荼羅の世界も一つではない。汝らが存在する曼荼羅の世界もあれば、汝らとは別の世界で存在する曼荼羅もあるのだ。宇宙は一つではない。しかし、宇宙は一つである。曼荼羅も一つではないが、それは一つでもある。すべては私の中、真理の中のことなのだよ。 さて、これより汝が存在する曼荼羅に向かう。汝は、その資格がある。また、汝を待つ他の如来が存在するのだ。」 大毘盧遮那如来は、そういうと、さらに輝きを増した。そして、何かの爆発のような鋭い光を放ったのだった。 光が和らいでいった。徐々に徐々に・・・・。光が和らぐとともに現れたのは・・・・言葉では表現できないような、巨大な宮殿であった。その宮殿は、宝石ででき上がっていた。金・白金・ダイヤ・瑠璃・水晶・ルビー・エメラルド・・・・のような宝石類であった。しかしそれは、光を反射して輝いているのではなく、自らがキラキラと眩いばかりの光を放っていたのであった。 「ここが絶対真理の世界での娑婆世界だ。汝がいた仮の世界の娑婆世界は欲望にまみれ、汚れているが、本来の娑婆世界はそうではない。このように清浄で、美しく、光り輝き、欲望もなく、苦もなく、何の憂いもない世界なのだよ。 そしてこの世界は、汝、釈迦如来の世界そのものなのだよ。汝の心がこの世界なのだ。 さぁ、入るがよい、不空成就如来よ。この名は、この真理の世界での汝の名である。ここでは汝は、釈迦如来ではなく、不空成就如来と呼ばれる。さぁ、汝の真理の世界に入るがよい。」 大毘盧遮那如来に促され、シッダールタは、その三昧に至った。中に入るとは、その状態に瞑想する、真理の三昧に入る、ということである。 シッダールタは、真理に至り釈迦如来となった。そして今、真理の世界で、最終的にシッダールタの魂が存在する場所にいたり、不空成就如来となった。 シッダールタは理解した。そこが本来の自分の居場所であることを。そこが自らの世界であることを。娑婆世界は、自らが存在する世界でありながら、それは自らの魂の中に存在するものだと言うことを。 そこは、蓮の花びらの上に存在する宮殿であった。花びらの中心には、シッダールタの宮殿よりもはるかに巨大な宮殿が存在した。そこには大毘盧遮那如来が座していた。 左を見た。シッダールタがいる宮殿と同じような宮殿が、やはり花びらの上に載っていた。その中には、自分と同じような如来が座していた。 右を見た。やはりそこには、花びらの上に同じような宮殿が存在し、如来が座していた。 中心の宮殿・・・・大毘盧遮那如来の宮殿・・・・の向こうにも同様の宮殿が存在し、同じように如来が座していた。 「これでそろった。」 「すべては整った。」 「北の娑婆世界の如来があるべきように座した。」 「そうだ、曼荼羅が完成したのである。」 鐘が鳴り響いた。その音色は、なんともいえない心地よいものであった。その音とともに、多くの菩薩が現れた。神々もやってきた。天女が空を待っていた。光り輝く花びらがハラハラと舞い落ちてきた。 大毘盧遮那如来の声が響いてきた。 「善き哉、善き哉、大サッタよ。汝は今、釈迦如来を経て不空成就如来となった。 善き哉、善き哉、彼の如来は真理に至り大安楽を得た。 善き哉、善き哉、大いなる真理よ。真理を覚りしものよ。 善き哉、善き哉、大いなる智慧者よ。 完成した。一つの曼荼羅の世界の完成である。宇宙の一つが完成したのだ。」 不空成就如来となったシッダールタが答えた。 「すべてを理解しました。ここが真理の世界なのですね。私の浄土は、宇宙の北側に存在するこの娑婆世界なのですね。」 「そうなのだよ、不空成就如来よ。」 そう答えたのは、東の浄土に座したアシュク如来であった。 「あなたは、宇宙の東側、妙喜世界という浄土のアシュク如来。」 「そう、そして私は宇宙の南方浄土・解脱輪世界の宝生如来だ。」 「私は、やがて娑婆世界とも縁が深くなるであろう、宇宙の西方・極楽浄土の阿弥陀如来である。」 「これが曼荼羅の世界、宇宙そのものである。そして、その中心は我、大毘盧遮那如来である。がしかし、これは仮の姿。本来は、汝らも曼荼羅の世界も我の中なのだ。今、汝が感じ、理解したものすらも、すべては我の中の一現象に過ぎない。真理は真理なのだよ。理解できるかね、不空成就如来よ。」 「理解できます。すべては真理の中の一現象に過ぎません。この曼荼羅の世界も、浄土も真理の中の一つの現象にしか過ぎません。また、現在・過去・未来に存在する数多くの曼荼羅も、真理の中に点在する現象にしか過ぎません。 そして、真理はその現象には何の関りもなく創造と終焉を繰り返しています。何度となく・・・・。そこに存在を求めるのは、生命体だけでしょう。だから、真理はあえて仮の姿を現し、真理を理解するための教えを仮に授けます。それは様々な形で語られるでしょう。そして、その仮の教えによってこの真理の具現である曼荼羅の世界にいたるものもあれば、仮の教えすら理解できずに輪廻を漂うものも存在するでしょう。 さらには、仮の教えもやがて終焉を迎えることもありましょう。しかし、それも創造と終焉の繰り返しという真理の営みのほんの一端にしか過ぎないのです。真理とは、そういうものです。」 「よく理解した。よく覚った。究極の覚りによくぞ至った。そう、すべては真理の中で繰り返される真理の営みにしか過ぎないのだ。その現象は、真理の中の一細胞にしか過ぎないのだ。よくぞ至った。 さぁ、戻るが善い。仮の世界へ戻るが善い。すべてを覚った汝に授けるものは何もない。仮の世界に戻ったあとは、汝が自ら決めるが善いであろう・・・・・。」 大毘盧遮那如来の声は次第に遠のいていったのだった・・・・。 40.法 楽 戻っていた。 目の前にはネーランジャラー河がゆったりと流れていた。自らの後ろには大きなピッパラの樹。目に見えるモノは、覚りの前も、覚ったあとも、何も変わるものではなった。しかし・・・。 目に映るすべてのものの生命が見えていた。命の輝きが見えていた。 (生きている、私も私以外のもの、すべては生きている。宇宙の中に生かされているのだ。命を与えられているのだ。何によって与えられているのか・・・・。 それは真理に・・・である。真理によって生かされているのだ。私も真理によって生かされているが、私自身、真理でもある。 そう・・・・、私は至った。真理に至ったのだ。 さて、仮の世界に戻ったが、これより如何にしようか・・・・。仮の世界、仮の身体で・・・・。選択肢は多くある。それによって、未来も変わる。どの未来が訪れようとも、それはすべて真理の中で起こることだ。すべては真理に帰結する。さて、どの道を選ぶのがよいか・・・・。ふむ・・・、自然の流れに任せるか・・・。) そう決めた仏陀は、静かに瞑想を始めた。シッダールタが、あの悪魔パーピマンを破って覚りを得てより、早くも三週間が過ぎていたのだった。 その頃、神々の世界では、お祝いが行われていた。それは、シッダールタが、この帝釈天を始めとする三十三の神々が住まう世界を通過してから続いていた。神々は、帝釈天の下に集まり、美酒を飲み、浮かれ続けていたのである。しかし、一向にピッパラ樹の下で瞑想を始めてしまった仏陀・世尊に、教えを説いてもらえるのかどうか心配になってきたのであった。 「仏陀様が誕生した、こんなめでたいことはない。しかし、仏陀様はいつ我々に法を説いてくれるのか。」 「まあ、まだよいではないか。あわてるでない。仏陀様もお疲れじゃろうて。」 「それにしても、ここを通過されてから、一体どこへ行かれたのであろうか。あれ以来、我々はこうしてお祝いを続けているのだが、肝心の仏陀様がここにはいらっしゃらない。通過されただけで、この世界には寄っていただけなかった。」 「そう・・・。さ〜っと通過されたかと思ったら、いつの間にか、また元に戻られている。果たして、私たちの為に法を説いてくださるのだろうか。今はまた、瞑想に入られてしまったようだが・・・・。」 「それなんだが、今は仏陀様は人間界に戻られている。となると、食事をしなければ肉体が維持できない。このまま瞑想を続けられれば・・・・。」 「おいおい、それは大変だ。この世界では、ほんのちょっとの時間だが、人間界ではかなりの時間が過ぎているぞ。」 「そうだのう、ここでの一日が、人間界での時間では何年も過ぎてしまうからのう。」 「酒をいっぱい飲んで騒いでおるうちに、人間界では一週間ほど過ぎ去ってしまう。ここで酒を飲んで話をしているうちに、仏陀様の肉体は滅んでしまうぞ。」 「困ったことだな。まあ、肉体がなくなろうと、仏陀様であれば、我々神々には教えを説くことはできるであろう。おそらく、肉体が滅びようとも、その魂は永遠であろうから。しかし、我々だけがよければ善いものであろうか。どう思われる、帝釈天殿。」 「ふむ。わしもそれを考えていたところだ。仏陀様の出現を待っているのは、我々神々だけではない。地上に生きるものたちも望んでいることだ。仏陀様の教えを誰もが望んでいるはずだ。その人々の心がおわかりにならないわけはないだろう。しかし・・・。」 「しかし?。」 「仏陀様の思考は複雑だ。我々の及ぶところではない。一体、どのようにお考えなのか。おそらくまだ結論は出されてはいないとは思うが・・・・。」 「なんにしても、人間界にいらっしゃる以上、肉体を維持しないといけないのではないかな。我々が、慈味をそそいだ方がよいのではないだろうか。」 「確かに、我々の神通力を持ってすれば、仏陀様の毛穴から慈味をそそぐことは可能であろう。そうすれば、肉体は維持できる・・・・。そうしてもいいものか、どうか・・・・。」 「大梵天様に相談してはどうだろうか。」 「おう、それがよかろう。帝釈天殿、どう思われるか。」 「それがよかろう。わしが大梵天様のところへ行こう。」 仏陀の瞑想は続いていた。人間界に戻ってより、一週間が過ぎた頃・・・つまり、覚りを得てから四週間後のこと・・・仏陀はピッパラ樹から立ち上がり、沐浴をしてから、ニグローダ樹の下へ移動して瞑想を始めた。そして、また一週間が過ぎ去ったころのこと、仏陀の近くの道を通るものがいた。 「なぁトリプサ、あそこで瞑想をしているのは、修行者か?。」 「なんだ、バッリカ、何か言ったか?。」 トリプサとバッリカは、商人であった。二人で商いにする品物を運んでいたところだった。バッリカは、立ち止まってニグローダ樹のほうを指差していった。 「あそこの木の下を見てみろ。なんか輝いている人が座ってねぇか。」 バッリカの言葉にトリプサは、大きなニグローダの木の下を見てみた。そこには、清々しく輝いて見える人?が座っていたのである。 「あれは・・・・人なのか?。それとも神か?。」 「な、不思議だろ。どう見てもただの人じゃねぇ。ありゃあ、神じゃねぇのか。トリプサ、お前は博識だろ、どう思うよ。」 「う〜ん、わからん。わからんが・・・・たぶん、神に近い人なのかもしれない。そう考えるのが一番じゃないか。」 「じゃあ、施しをした方がいいんじゃないか。ちょうど、さっき寄った問屋でもっらた食べ物があるだろ。あれを施したほうがいいんじゃねぇかなぁ。」 「そ、そうだな。せっかくもらった食べ物だが、あの人・・・いや、神か・・・になら施すべきだろうな。」 そういって二人は、ニグローダ樹の方へ道を降りていったのだった。 トリプサとバッリカは、瞑想している世尊の前に回ってみた。 「お、おい、トリプサ、こ、この人、死んでねぇよな。」 「輝いているんだぞ、死んでるわけないだろ。瞑想をしているんだよ。」 トリプサとバッリカは、小声で話しをした。 「じゃ、じゃあ、どうする?。」 「ここに・・・食べ物をおいておくか?。瞑想の邪魔をするわけにはいかないだろうから。」 「そ、そうだ、荷具の中に鉄の鉢があったはずだ。あれを持ってくるから待ってろ。それに入れたほうがいいだろうから。」 そう言うと、バッリカは荷具の中を探し始めた。目的の鉄鉢を探し出すと、バッリカはその鉢をネーランジャラー河で洗ってからトリプサのところへ戻ってきた。 「これに入れるほうがよかろう。」 「そうだな。じゃあ・・・。」 二人は、果物や麦の粉を蜂蜜で丸めた食べ物などを鉢に入れた。そして、そうっとその瞑想している修行者・・・仏陀・・・の前に差し出した。 「あなたたちに、感謝する。ありがとう。」 「う、うわ〜、び、びっくりした〜。」 「あ、あ、あ・・・・。」 「め、瞑想の邪魔をしましたか?。」 「いや、大丈夫だ。目覚めてはいたのだが、呼吸を整えていた。この仮の姿は不便だ。食を取らないと維持できない。」 二人には、その言葉の意味が通じなかった。 「ちょうどよい時にあなたたちが現れた。あの日以来・・・私が覚りを得て以来・・・私は瞑想をし続けていた。この肉体は滅びやすく、食を取らねば維持ができない。あなたたちは、私の肉体を維持せんが為に食を施してくれた。感謝する。」 「あの〜、あなた様は・・・・か、神なのでしょうか?。」 「いや、仏陀だ。私は、真理に目覚め、仏陀となったのだ。」 「ぶ、仏陀?。あの伝説の聖者、仏陀様?。」 「な、なるほど、それなら納得できる。だからこそ、こんなに身体が光り輝いているのですね。それに・・・。」 「芳香が漂っているし、なによりも頭が・・・・。」 「あぁ、これは羅髪(らほつ)という。また、額の印は白毫(びゃくごう)というものだ。この姿は、真理に至ったものが、真理より与えられる真理の姿なのだよ。」 二人は、何を言っているのかさっぱりわからなかったが、ともかくその修行者が仏陀であることだけは信じたのであった。 「仏陀様、私たちは仏陀様を信じ、帰依いたします。どうか、お導きください。」 二人は声をそろえていった。 「あなたたちは仏陀である私に施しをした初めての人間である。その功徳は計り知れないものであろう。それだけで、あなたたちには幸福が訪れよう。余分な欲を慎み、他に迷惑をかけることなく、生活するがよい。」 「はい、ありがとうございます。これから、また仏陀様にお会いすることができますでしょうか。」 「いつかまた会うこともあろう。また、会わぬかも知れない。しかし、いつでも真理はあなたたちの中にある。我と会いたければ、汝らの心の中を覗くがよい。そこに我の姿もあろう。そして、何か不安にさいなまれた時、私の近くにいたならば、いつでも訪れるがよい。近くにいなければ、あそこに見えるピッパラ樹に向かって礼拝するがよい。私はあの樹の下で覚りを得た。従って、あの場所は計り知れない功徳があろう。かの場所を礼拝すれば、自ずと不安も消え去るであろう。」 仏陀の言葉にトリプサとバッリカは、涙を流して喜んだ。 「ありがとうございます。その言葉を励みにして、怠けず、働きます。」 そう言葉を残し、二人は去っていったのであった。後には、また静けさのみが残っていた。 そして、食を得た仏陀は、口を潅ぎ沐浴を済ますと、再び深い瞑想に入ったのでる。それは、真理の世界・真理の教えを仏陀一人で楽しんでいたのであった。 41.決 意 仏陀は、再び深い瞑想にはいっていた。あの真理の世界・・・大毘盧遮那如来に導かれた世界・・・を一人で楽しんでいたのだ。その様子は、神々を焦らせる要因となっていた。帝釈天が大梵天のところへ向かったころ・・・それはまさにトリプサとバッリカからの施しを仏陀が得たころであった・・・から、早くも一週間が過ぎていた。ピッパラ樹の下で魔王パーピマンを降伏してから、すでに六週間も過ぎていたのだった。 帝釈天は、大梵天の前で難しい顔をして座っていた。 「あのようなご様子なのです、大梵天様。仏陀様は、いっこうにあの座から立たれようとはなさりません。仏陀様の教えをようやく聞けると期待していた神々も焦り始めています。このまま、教えが聞けずに終わってしまうのではなかろうかと。仏陀様は、お一人で真理の世界へと去っていってしまうのではなかろうかと、そう心配しているのです。どう思われますか、大梵天様。」 普段は、無表情の大梵天であったが、このときばかりは、苦い顔をしていたのであった。 「あなたたちの心配はよくわかる。私もそのことについては、考えていたところだ。少しご様子を見てみようと思っていたのだ。しかし・・・。いつまで待ってもあのご様子・・・・。もしや、仏陀様はあのまま肉体が朽ちるのを待っているのではないかと、そう思っていたところだったのだよ。」 「どういうことなのでしょうか、大梵天様。仏陀という存在は、神々、否、生あるものを幸福へと導くためにこの世に出現される、そうではないのですか?。」 「うぅぅむ。一概にそうとは言えないのだよ、帝釈天。仏陀が教えを説くか説かないかは、仏陀の意思によるものなのだ。仏陀が『教えを説くことはない』と決意すれば、それはそれで構わないのだ。仏陀の自由なのだよ。」 「では、もしかすると、このたび出現された仏陀、シャカムニブッダ様は、教えを説かないかもしれないのですかな?。」 「そうかも知れぬ。また、そうでないのかも知れぬ。今は、迷っておられるのかも知れぬし、すでに決意されているのかも知れぬ。仏陀様の心中は私にはわからぬことだ。」 「しかし・・・・。このままでよろしいのでしょうか。このまま、仏陀様のご様子を見ているだけでいいのでしょうか。」 「うぅぅむ。しかしのう・・・・。かといって、如何にすればよいのか・・・・。」 「教えを説いていただけるように、大梵天様からお願いに上がる、ということはできませんか?。」 「そうだのう・・・・。」 大梵天は迷っていた。仏陀に教えを説いていただきたい、という気持ちも強くあったが、そのことによって仏陀の御心を惑わすことにはなりはしないか、と心配していたのだった。また、自分の立場もあった。大梵天とはいえ、たかが大梵天なのだ。 「仏陀様にお願いに上がる・・・・か。たかが大梵天の位で?。そんなことをしていいのだろうか・・・。大梵天が、仏陀様にお願いに上がる。それは許される行為なのだろうか・・・・。言い換えれば、仏陀様に働くようにお願いすることと同じだからのう・・・・。」 その言葉に、帝釈天も何も言えなくなってしまった。確かに、仏陀に働くようにお願いすることは、立場上無理なのではないか、とそう思ったのである。二人の神は、お互いに首を垂れ、黙りこくってしまったのだった。 「よし、仕方がない。」 そう声を発したのは、大梵天だった。この言葉に帝釈天は、驚いた顔をした。 「仕方がないとは・・・・、どちらの仕方がない、なのでしょうか。」 「どちらの、とは?。」 「仕方がない仏陀様の教えを聞くのはあきらめよう・・・、なのか、それとも・・・・。」 帝釈天がすべてを言い終わる前に、大梵天が笑いながらいった。 「はっはっは・・・、心配するな、帝釈天。そっちじゃない。お願いに上がるほうじゃ。」 「では・・・・。」 「あぁ、仕方がない、私が仏陀様のところへ出向こう。そう決めたよ。神々のため、否、生きとし生ける者のためだ。他の神々には、安心するように伝えよ。なんとしてでも、仏陀様に教えを説いてもらえるように頼んでくるからのう。」 そういうと、大梵天は立ち上がって、帝釈天を見て微笑んだのであった。 一方、仏陀は、相変わらず、深い瞑想に入っていた。神々の心配、大梵天と帝釈天の会話も知らずに、深い深い瞑想を一人楽しんでいたのであった。 「瞑想中、お邪魔を致します。よろしいでしょうか、仏陀世尊・・・・。」 「大梵天ですか。珍しいですね、あなたがこの世界に降りてこられるとは・・・。構わないです、なんの用でしょうか。」 「私は、世尊にお願いがあってここに降りてきました。」 大梵天の言葉を仏陀は静かに聞いていた。 「お願いでございます。どうか、生きとし生けるもののために、世尊が覚られた真理をお説き下さい。世尊が真理に至ってより、はやくも七週間がたとうとしています。が、世尊は、この座から立とうとはなさりません。これは如何なものでしょうか。言葉が過ぎれば、どうぞお許しをお願いいたします。 世尊よ、神々は仏陀の誕生を知っています。しかし、この世界に生きるものは、仏陀の誕生すら知りません。この世では、仏陀は伝説の聖者です。どんなものも仏陀の出現を心待ちにしているでしょう。お願いでございます。ぜひ教えをお説き下さい。」 大梵天の懇願に仏陀は沈黙していた。しばらく時が過ぎても、仏陀は何も言わなかった。たまりかねたように大梵天が再び話しはじめた。 「世尊がおっしゃりたいことはわかっています。世尊が覚られた内容は、とても難しく、この世に生きるものどころか、神々でさえ理解できぬことでしょう。しかし、ほんの少しでも理解できそうなものもいるのではないでしょうか。神々の中にも、この世のものでも、真理を理解できる、否、真理にいたる入り口でもいいですから、それを理解できるものが、少しはいるのではないでしょうか。そのもののためにも、どうか教えをお説き下さい。覚りを得られぬ愚かな生あるものに、どうか慈悲を・・・・、お願いいたします。」 大梵天の再びの請願に、仏陀は顔を上げ、大梵天を見つめた。 「私が至った真理はとても深遠で、簡単に理解できるものではない。この世は、欲でまみれている。そこに生きるものたちに、真理を理解するということは困難なことであろう。しかも、知らずいたらならば、知らなくてもいいこともあろう。知ったことが原因で苦しむこともある。知らなければ、知らないで幸せに通れることもあるのだ。さらには、知らなければ、罪を犯しても罪にはならぬが、知っていて罪を犯せばそれは重罪となる。そうであるなら、私が説いたことがかえって有害となろう。ならば、真理の教えは、すぐに捨て去られるものとなる。それでも、教えを説いてくれと、汝はいうのか。」 仏陀の言葉に、大梵天は黙り込むしかなかった。 「世尊。私が世尊にこのようなことをいうのは、大変おこがましいのですが、どうかお許しください。 確かに、この世のもの、否、神々でも真理を覚ること、理解することは難解でしょう。しかし、たとえば、程度の低いものは世尊が教えを説こうが説くまいが、覚ることはないでしょう。また、程度の高いものは、世尊が教えを説く説かないに関らず、長い年月を経て真理にいたることもありましょう。しかし、こうしたものたちは、あまり多くはありません。この世に存在する多くのものは、真理を理解する能力はあるのに、その真理を知る機会に恵まれていないものなのです。そうしたものたちは、真理の内容を伝えれば、やがては真理にいたることもできましょう。どうでしょうか、このもののためにも、教えを説いていただくというわけにはまいりませんか。」 大梵天は三度、仏陀に懇願したのであった。 仏陀は、大梵天を見つめた。 「大梵天よ、これを見るがいい・・・。」 仏陀は、そういうと右手の親指と人差し指で、砂をつまんだ。そして、左手の親指を前に突き出し、爪の上に右手でつまんだ砂を落とした。砂は、仏陀の爪の上にわずかの量を残し、下にこぼれ落ちていった。 「大梵天よ。この河岸にある砂の数と私の爪の上にある砂の数はどちらが多いであろうか。」 「も、もちろん、河岸の砂の数です。爪の上の砂は、ほんのわずかにしか過ぎません。」 「大梵天よ、私が教えを説くことによって、救うことができる生あるものは、この爪の上の砂の数ほどしかないのだよ。生あるものはこの河岸の砂の数ほど存在しているのだが・・・。それでも、私に教えを説いてくれ、と頼むのかね。」 大梵天は、しばし沈黙した。言葉を捜していたのだった・・・。 「た、確かに、世尊の教えにより救われるものの数は、ほんのわずかしかいないかもしれません。しかし、それでも救われるものがいる、ということにはかわりはないでしょう。たとえわずかであっても、救われるものがいるのならば、私は世尊に教えを説かれるようにお願い申し上げます。」 大梵天は、意を決してそう仏陀にいった。 「わかった、大梵天よ。確かに救われるものはわずかであろう。しかし、そのわずかな数であっても、救われることができるのならば、教えをと説くことも意味があろう。 たとえば、この世のものを蓮の華に譬えるならば・・・・、この世には水面に沈んだまま顔を出すことのできない芽もあり、何の手も貸さず水面からするすると抜きん出て花を咲かすものもある。しかし、多くは水面すれすれで花を咲かすかどうか、という芽であろう。 私がなすべきことは、水面すれすれにいる芽を、花が咲くように導くことであり、また、水中に沈んだままでいる芽が成長することを助けてあげることであり、水面にするすると出てきた花には、さらに美しく咲けるように導くことであろう。 大梵天よ。汝らの願い、聞き入れようではないか。真理に至りたい、そのための教えが聞きたいというものがいるのなら、私は教えを説こうではないか。」 この言葉に大梵天は、歓喜の声を上げたのであった。 「あぁぁ、ありがとうございます。世尊よ、仏陀よ、偉大なる如来よ。どうか、尊い教えをお説き下さい。ありがとうございます。」 「大梵天よ。心配している神々にも伝えるがよい。私は、この肉体が朽ち果てるまで、真理に至るための教えを説き続ける、と。さぁ、大梵天よ、天界に戻るがよい。」 「わかりました、世尊。神々にお言葉を伝えます。ありがとうございました。」 そういうと、大梵天は天界へと戻っていったのであった。こうして、仏陀は真理に至るための教えを説く決意をしたのであった。ピッパラ樹の下で覚りを得てから、ちょうど七週間目にあたる日であった。 (真理の教えは難解だ。この教えを説くためには、私の精神はこの仮の世界に戻さねばならぬ。どの程度、戻す必要があるか・・・・。さて、そうなれば、初めに教えを説く相手が問題となる。なるべく、素地がありそうなものがよかろう。) 仏陀は、初めての教えを説く相手を神通力を使って探し始めたのであった。 42.宣 言 仏陀は、神通力を使って、自らが覚った内容を教えるのに相応しい相手を探してみた。 (そうだ・・・。ウドゥラカ・ラーマプトラ仙人はどうだろうか。彼の至ったところは非想非非想だ。私が覚った真理と近いものがある。彼ならば、真理を理解できるであろう。) そう思った仏陀は、マガダ国を神通力でもって探ってみた。しかし・・・。 (最早亡くなっていたか。ほう・・・。天界に生まれ変わられたか。では、仕方がない。ならば、アーラーダカーラーマ仙人はどうであろう。ふむ・・・。彼の者も亡くなっていたか。はやり、天界へと生まれ変わっているな。さぁ、どうするか・・・。) 仏陀が教えを説こうと思った相手・・・一時は師事した仙人たち・・・は、いずれも亡くなっていたのであった。 (真理の法は難解だ。ある程度の素地がないと理解はできない。・・・・そうだ、彼の五人ならどうだろう。彼らは、まだ苦行林で修行をしているだろうか。) 仏陀は、苦行林で一緒に修行をした五人、コーンダニャ・アッサジ・バッパ・バッティア・マハーナーマを思い出した。そこで、彼らが未だに苦行林にいるかどうか探ってみた。 (ほう、彼らはバーラーナシーの鹿野苑(ろくやおん)に移動したようだな。そこで、まだ苦行に励んでいるようだ。ここからはずいぶん離れているが・・・・。ふむ、では初めての教えを説くのは彼らにしよう。) 仏陀は、そう決意し立ち上がったのである。 仏陀がいたネーランジャラー河のほとりから、バーラーナシーの鹿野苑までは約200kmほど離れていた。 (神通力を使えば一瞬にして行けるが、それでは意味がない。途中どんな素質のある者と会うかもしれない。では、歩いてゆくことにしようか。) こうして仏陀は、托鉢をしながら、歩いて鹿野苑まで行くことにしたのであった。 何日か過ぎた頃、仏陀は修行者らしい者と出会った。その者は、仏陀の姿を見ると、 「ちょっと待たれよ。汝は、光り輝いているように見えるのだが、それは私の錯覚か?。それとも・・・。」 と尋ねてきた。 「いや、錯覚ではない。私は仏陀である。だから輝いて見えるのだ。」 「なに!、仏陀とな?。仏陀と言えば覚りを得たもののこと。覚りは、そう簡単に得られるものではない。まさか・・・な。」 「信じる信じないは、汝の自由だ。」 (こやつ、自分を仏陀と言って平然としている。まさか、本当に・・・?。いいや、そんなはずはない。こんな若造に覚りが得られるわけがない。・・・じゃあ、あの身体の輝きは?。・・・・そうか、おそらく幻惑に違いない。まやかしだな。ならば、恐れる必要はない。) 「ふむ。まあな、汝が仏陀かどうか、それはわからぬが、そうかも知れぬのう・・・。まあ、好きに言うがいいさ。ふっふっふ。」 その修行者は、そういうと、ニヤニヤ笑いながら仏陀の横を通り過ぎていったのであった。その後姿を見て仏陀は呟いた。 「残念なことだが・・・・縁なき者は救いにくいものだ。」 と。 さらに仏陀は歩を進めていった。しばらくすると、ガンジス河にでた。バーラーナシーに行くには、河を渡らなければいけなかったのだが、そこには橋がなく、渡し舟があった。仏陀は渡し舟の船頭に声をかけた。 「向こう岸へ渡りたいのですが、乗せてもらえないでしょうか。」 船頭は、仏陀の姿をジロリとながめ、無愛想にいった。 「渡してやってもいいが・・・、あんた金持ってるのか?。」 「いえ、私は出家者です。出家者はお金を持たないのが当然ですので、お金は持っていません。」 「ふん。やっぱりな。金がないのなら乗せられないな。」 仏陀は、もう一度頼んでみた。しかし、船頭は「商売だから」といって、断った。仏陀は、さらに頼み込んでみた。しかし、船頭の答えは三回とも同じであった。 「金がないなら乗せられねぇな。」 「では、仕方がない。あまり使いたくはなかったのだが・・・・。」 仏陀はそういうと、神通力で自分の身体を浮かせると、すーっとすべるようにして、あっというまにガンジス河を渡ってしまったのだった。その様子を見ていた船頭は 「あぁ、わしはとんでもないことをした。あ、あれは聖者だ。聖者様が折角わしの船に乗ろうとしたのに・・・。あぁ、もったいないことをした。徳を積み損ねた!。」 と嘆いたのであった。そして 「おぉ、こうしちゃいられない。このことをビンビサーラ王に報告した方がいい。」 と船頭は、マガダ国の王、ビンビサーラに目撃したことの一部始終を報告するために走り出したのであった。 これは後日の話ではあるが、この船頭の報告によって、これより後、 「河の渡し舟に修行者が乗るときは、渡し賃を取ってはならぬ」 という決まりができたのであった。 さて、その数日後、仏陀はようやくバーラーナシーに到着した。 その日、仏陀は、出家者の作法どおりに、午前中に托鉢を終え、食事を済まし、口をすすいだあと、ゆっくりと歩き出したのであった。鹿野苑に向かったのでる。 一方、鹿野苑では、以前仏陀が一緒に修行した彼の五人の修行者が、大きな石の上で瞑想をしていた。ふと、その中の一人が瞑想をやめ、遠くを見ると、修行者がこちらに向かってくるのが見えた。不思議なことに、その修行者は、なんとなく光っているようであった。 「お、おい、コーンダンニャ、あ、あれを見てみろ。」 「なんだ、バッパ、瞑想中に何をあわてているんだ。」 コーンダニャはそういうと、瞑想用の石の上から降りて、バッパの指差す方を見てみた。 「あれは・・・修行者だよな。光ってるよな、なんでだ?。・・・・おい、おい、おい、あれ、あれは・・・。おい、みんな瞑想をやめてあれを見ろ!。」 コーンダンニャの声に、他の者も瞑想をやめ、立ち上がった。 「あれは・・・。あれは、シッダールタじゃないか。なんでアイツが、ここへくるんだ。」 アッサジがつぶやいた。 「やっぱりシッダールタだよな。たしか、アイツは苦行を捨てて、ネーランジャラー河で座っているだけの修行者に堕落したんじゃなかったか?。」 マハーナーマが、誰にともなくきいた。 「あぁ、そうだ。アイツは苦行を捨てた堕落者だ。きっと、座っているだけじゃあ、覚りなんて得られないんで、また苦行仲間に入れてくれって頼みに来たんだろう。ふん、あんなヤツ、無視すればいいんだ。」 バッティアが怒った口調で宣言した。 「そうだ、バッティアの言うとおりだ。シッダールタは、苦行を捨てた怠け者だ。相手にするな。ここに来ても無視するんだ。」 「でもコーンダンニャ、なんであんなふうに光り輝いて見えるんだ?。あれは、神通力かい?。僕はあんな神通力、初めて見たよ。」 アッサジの問いに、コーンダンニャは憎憎しげに言い放った。 「ふん、大方金の粉を身体に塗っているんだろ。さもなくば、どこかで眼くらましの神通力を覚えたに違いない。それで、我々を騙そうとしているんだ。」 その言葉に、他の者もうなずくのであった。 「いいか、約束だ。シッダールタがここへ来ても、相手にするな。無視して瞑想してるんだ。」 五人は、そう申し合わせて、再び瞑想し始めたのであった。ところが・・・。 ところが、仏陀が近付くにしたがって、五人ともそわそわしだしたのであった。一人が立ち上がって、座具を持ってきた。一人が、足を洗うための水がめを用意した。一人が飲み水を持ってきた。そして、コーンダンニャが 「ようこそ友よ、久しぶりだ。さぁ、ここへ座るがよい。」 と、にこやかに言ったのであった。 仏陀は、静かに用意された座具に座ると、用意された足洗いの水で足を清め、そして飲み水を一口飲んだ。その姿は、見るからに神々しく、また、堂々とした振る舞いであった。さらには、全体にうっすらと光り輝いているように見えたし、また、どこからか芳香が漂ってきてもいた。 「シ、シッダールタよ、ひ、久しぶりだな。なんだか、見たところ・・・ずいぶんと立派になったけど、その・・・・、修行は進んでいるのかい?。それとも、・・・また一緒に苦行に励むかい?。」 コーンダンニャは、仏陀の姿に圧倒され、しどろもどろで尋ねた。仏陀は、コーンダンニャを見据え、そして、コーンダンニャの後ろに座っている他の四人の修行者を眺めた。そして 「私は仏陀となったものだ。仏陀に対し、『友よ』とか『シッダールタ』などと呼びかけてはならない。」 と静かではあるが、おなかの底に響くような重々しい声で、そう宣言したのである。 「な、な、なんと、なんと言ったのだ・・・・。あああ、いや、その・・・・。」 「我は仏陀なり、覚ったものだ、と言ったのだ。だから、このような姿をしているのだ。」 その言葉に、コーンダンニャをはじめとする彼の修行者たちは、仏陀の姿をよく見てみた。 「あ、頭が・・・。ふ、ふくらんでいる・・・。」 「これは肉髻(にっけい)という。」 「と、頭髪が変わっている・・・。」 「これは螺髪(らほつ)という。」 「み、眉間に白いものが・・・。」 「これは白毫(びゃくごう)という。」 「身体が光り輝いている・・・。」 「身光(しんこう)という。」 「ほ、芳香が漂っている・・・。」 「身芳香という。いずれも、真理を得た証(あかし)として、真理より頂いたものである。」 仏陀の言葉に、五人の修行者は、驚いて口をあけたままであった。 しばらくして、コーンダンニャが、ようやく声を出した。 「し、真理を得た証・・・・。真理より頂いた・・・・。ど、どういうことなのだ。」 「私は真理に至ったのだよ。そして、仏陀となったのだ。すべての煩悩を離れ、真理に至ったのだ。この姿は、その象徴なのだ。」 仏陀は、力強くそういうと、かすかに微笑んだのであった。 |