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第55回
愛情は与えるものであって、押し付けるものではない。
しかも、見返りを求めてはならないものである。


ある日の夕暮れ時、ガンジス川のほとりに一人の中年の女性が、うつろな目をしてたたずんでいた。その日、アーナンダは考え事があって、精舎からガンジス川まで散歩に出ていた。その時に、その女性と出合ったのだ。
「もしもしあなた、どうかなさったのですか?。」
アーナンダは、その女性に声をかけた。その声にその女性は振り向いた。目には涙がたまっていた。
「あぁ、いえ・・・・。ここは・・・。あぁ、私は・・・。」
「どうかなさったのですか?。ここは、ガンジス川のほとりですよ。」
「あぁ、そう、そうですわね。あ、あの・・・・あの、修行者の方ですか?。」
その女性がアーナンダに尋ねてきた。
「えぇ、私はお釈迦様の元で修行をしているアーナンダというものです。少々考え事がありまして、ここまで散歩に出かけてきたのです。」
「お釈迦様のお弟子さん・・・・。じゃあ、もしかしたら・・・・。」
「どうかなさったのですか?。」
「実は・・・、私の息子が家を出まして・・・。家出をしたのです。朝から探しているのですが、見つからなくて・・・、それで途方に暮れていたのです・・・。」
その女性はそこまで言うと、その場に泣き崩れたのであった。

しばらくして、その女性は事情を話しだした。それによると・・・。
女性の名は、サーラシュナンダーといった。15歳になる息子チャーラが家を出たの言うのだ。その日の朝、チャーラは、いつものようにバラモンの先生のところへ勉強に出かけた。彼は、いずれ王宮の官吏になろうと思い、近くのバラモンの祭司のところへ勉強に通っていたのだそうだ。ところが、お昼近くになって祭司からお使いがやってきた。
「チャーラはどうかしたのか、病気なのか?。」
そのお使いは、彼女にそう問うた。もちろん、彼女は驚いた。朝、いつものように出かけた、というと、そんなことはない来ていない・・・・、お使いのものはそう答えたのだ。チャーラはいなくなってしまったのだ。
サーラシュナンダーは、知り合いのところや街中をくまなく探した。しかし、どこにもチャーラはいなかった。一日中探して歩いたのだが見つからない。途方に暮れた彼女は、気がついたらガンジス川のほとりにいたのだそうだ。アーナンダに声をかけられて、初めて気がついたという。

「事情は、わかりました。しかし、こんなところにいても何の解決にもなりません。お釈迦様に相談されてはいかがですか?。」
「こんな夕暮れにお邪魔してもいいのでしょうか?。」
「事情が事情です。お釈迦様も許してくださるでしょう。」
「私のようなものでも相談に乗ってくださるでしょうか。」
「お釈迦様は、どんな方のお話でもお聞きになります。差別は致しません。お釈迦様の元では、みな平等ですから。」
アーナンダにそういわれ、サーラシュナンダーは、お釈迦様が滞在している近くの小さな精舎へと向かったのであった。

精舎の中に入ると、お釈迦様は奥のほうで結跏趺坐をしていた。
「どうしましたか。」
お釈迦様は、やさしく尋ねた。その言葉に、アーナンダが事情を説明した。
「心配しなくてもよい。あなたの息子のチャーラは、間もなく帰ってくるでしょう。それよりも、大事なことは『なぜ、チャーラが家出をしたか』ということです。心当たりはありますか?。」
「そ、それが・・・私にはよくわからないのです。」
「そうですか。・・・・まあ、いいでしょう。では、一つだけ言っておきます。息子さんが帰ってきても、頭ごなしに怒らないようにしなさい。それよりも、なぜ?、ということを聞きなさい。なぜ、家を出たのか、それを聞くことです。決して、どなったり、感情的にならないようにすることです。わかりましたね。」
お釈迦様の言葉に、サーラシュナンダーは、下を向いて小さく返事をしたのであった。その様子にアーナンダは、違和感を感じたのだった。

サーラシュナンダーが家に戻ると、すでにチャーラは帰ってきていた。
「チャーラ、あなたはどこに行っていたの!。こんなにも心配して探していたのに!。あんたって子は!。」
彼女は、お釈迦様の注意も忘れ、チャーラをいきなり怒鳴ったのだった。
「いいことチャーラ。うちはね、あなたと私だけの家庭なの。私がどれほど働いているか、あなたわかるでしょ。あなたが立派な官吏になれるように、私は身を粉にして働いているのよ。あなたのために!。こんなにもあなたのことを思っているのに、なのにあんたって子は!。私の愛情がわからないの?。どうして伝わらないのよ!。あなたのために、私は朝から晩まで、必死に働いているのよ。少しは私のことも考えてよ。将来、お母さんを楽にさせてあげよう、って気にならないの!。」
「なるさ・・・。」
チャーラが一言だけ答えた。
「本当にそう思ってるの?。なら、官吏になるのが一番いいのよ。あなたには才能があるんだから。祭司様のところでは成績だって上位なのよ。それなのに、なんで休むの?。折角、いいところにいるのに、これじゃあ台無しよ。推挙が得られないのよ。これはね、私のためじゃない、あなたの幸せのために言ってるの。官吏になれば、楽な生活ができるでしょ。苦労しなくても済むのよ。この親の愛情がわからないの?。そのために私は働いているの。あなたのためにね。あなたの幸せを願って働いているのよ。それなのに・・・。いい加減理解してよ。こんなにも愛情を潅いでいるのに!。」
「それがうっとうしいんだよ!。」
チャーラはそう叫ぶと、家を出て行ってしまった。
「待って、どこへ行くの・・・。チャーラ!。」
サーラシュナンダーの声はむなしく響いた。

「あれほど注意されたのに、あなたはなんと愚かなのでしょう。」
サーラシュナンダーは、声のしたほうを振り返った。そこには、お釈迦様の弟子のアーナンダがたたずんでいた。
「お釈迦様から言われて、ここに来ました。息子さんとのやり取りは、申し訳ないですが、黙って聞かせてもらいました。あなたは、なんと愚かなのでしょう。お釈迦様が、あれほど注意をしたのに・・・・。」
その言葉に、サーラシュナンダーは、はっとした。
「あぁ・・・。そうだわ。頭ごなしに怒らないように言われていたんだ。あぁ・・・。私はなんていうことを・・・・。」
アーナンダは、何も答えなかった。
「・・・・でも、なぜあなたは止めてくれなかったの?。どうして私を止めてくれなかったの?。初めから聞いていたんでしょ?。どうして止めてくれなかったのよ!。」
「お釈迦様から言われておりました。決して口を挟まぬように、と。最後まで見届けてから、姿を見せなさい、と。」
「どうしてよ!。今頃、そんなこといわれても遅いじゃない!。どうしてもっと早く・・・・・。」
サーラシュナンダーは泣き崩れた。
「なぜお釈迦様が口を挟むな、とおしゃったのか、あなたにわかりませんか?。」
「意地悪したいんでしょ。不幸にしたいのよ。こんな惨めな姿を見て笑っているんだわ。最低ね。なにがお釈迦様よ、なにが仏陀よ。うそっぱちだわ。」
「やはり、お釈迦様の言われたとおりだ・・・・。」
その言葉に、サーラシュナンダーは顔をあげてアーナンダを見つめた。
「どういうこと?。言われたとおりって?・・・。」
「お釈迦様は、こうおっしゃっていました。
『あの母親は、黙って息子の話を聞くことはないだろう。息子を責めるにちがいない。彼女は、愛情を勘違いしているのだ。自分の考えを息子が黙ってやること、息子を自分の思うようにすること、お金を稼いであげることが息子のためになると信じていること、それが親だと思っているのだ。それが親の愛情だと思っているのだよ。さらには、将来の自分の生活までを息子に託している。そのために今言うとおりにしなさい、と自分の考えを押し付ける。それは愛情でもなんでもないのだよ。それは彼女の我欲に過ぎないのだ。
確かに、我が子に道を指し示すことは大事である。確かに、生活に困らぬように働くことは大事である。しかし、それは、子供が健やかに成長できるように環境を整える、ということなのだ。それが親の義務というものなのだよ。
親は、子供が大人になっていくのを見ていることが大事なのだ。そして、迷ったり、道をはずしかけたら、静かに間違いを諭してあげることが大事なのだ。頭ごなしに怒ってみても何の解決にもならない。怒りは愛情ではない。自分勝手な感情である。そこのところを彼女は勘違いしているのだよ。』
と・・・・。わかりますか?。お釈迦様の言われていることがわかりますか?。」
サーラシュナンダーは、しばらく考えていた。
「それは私が間違っている、ということかしら。私の愛情は、愛情ではない・・・・ということかしら。」
「そういうことです。」
「どうしてよ、どうして愛情じゃないの?。わからないわ。私にはわからない。子供のために働くのがなぜ悪いの。子供のために勉強しなさい、ということがなぜ悪いの。子供の将来を考えてあげるのがなぜいけないの?。」
「それが息子さんが望んでないことであっても・・・・ですか?。」
「息子が望んでない?。そんな・・・まさか。あの子は官吏になりたいって言ったのよ。自分で望んだのよ。だから、私はあの子が勉強できるように、あの子のために働いているの。あの子のために、あの子のために、あの子のために!・・・・。」
「しかし、本人はそう思っていないようですよ。子供は考えが変わるものです。以前は官吏になりたい、そう思ったかもしれませんが、今はどうでしょうか?。そのことを話し合ったことはないのですか?。」
アーナンダにそういわれ、彼女は息子との少ない会話を振り返ってみた。
「そういえば・・・・。いつだか・・・料理人になりたいんだ、とかいっていたわ。」
「そうでしょう。で、あなたはなんといったのですか?。」
「・・・・料理人なんて、将来が安定していない、失敗するに決まっている、それじゃあ私の老後はどう・・・・なるの。官吏になって面倒を見るっていったじゃないの・・・・って、そのために働いているのよ・・・て・・・。あぁ・・・・、わたし・・・・。あぁ、なんていうことを・・・・。あの子の話を聞いていなかった・・・・・。」
サーラシュナンダーは、またその場に泣き崩れたのであった。
「ようやく理解できたようですね。さぁ、立ち上がりなさい。あなたの息子さんは、お釈迦様の元にいます。一緒に行きましょう。」
アーナンダは、優しく声をかけた。

お釈迦様の前にチャーラは座っていた。
「自分の間違いに気がつきましたか?。」
お釈迦様が静かにそういった。サーラシュナンダーは、お釈迦様の前に座ると、深々と頭を下げてからいった。
「はい。私が間違っていました。私はこの子の意思を無視して、自分の考えをただただ押し付けていただけでした。それが親の愛情だと、義務だと思っていました。それが息子のためだと思い込んでいました。うちは母子家庭でしたから、世間に恥ずかしくないようにと、そのことばかり考えていました・・・・。
しかも・・・・、あなたのために働いている、などということをいってしまいました。とんでもないことです。息子のためじゃない、自分のためだったのですね。私は結局、自分のことしか考えていなかったのですね。息子のことなんて見ていなかった・・・・。息子の気持ちなんてわかっていなかった・・・・。母親失格です・・・。」
「そこまで気がつけばいいでしょう。よく理解しました。今なら、息子さんの話しも聞けるのではないですか?。」
「はい、そうですね。息子とよく話し合ってみます。感情的にならずに、冷静に。息子の意見も尊重します。・・・いつの間にか、息子も自分で自分のことを考えられるようになっていたんですね。」
サーラシュナンダーはそういうと、お釈迦様に礼をのべ、息子とともに帰っていったのであった。その後姿を見送りながら、お釈迦様はアーナンダにいった。
「アーナンダよ、よく覚えておきなさい。世の中の親は、否、親だけではなく、多くのものは、愛情というのもを勘違いしている。多くのものは『あなたのため』といいながら、自分勝手な愛情を押し付けているに過ぎないのだ。愛情は与えるものである。親であれ子であれ、夫婦間であれ、愛情は押し付けるものではなくて、与えるものなのだ。しかも、その見返りを求めてはならぬものなのだ。
自分の勝手な愛情を押し付けるということは、自分の愛情で相手を縛ることなのだよ。そうなると相手のことが見えなくなる。相手が何を望んでいるのか、何を考えているのか、それが見えなくなるのだよ。そこから大きな溝が生まれるのだ・・・・・。」
「はい、わかりました。よく覚えて、そのことを世に知らしめます。」
アーナンダの言葉に、お釈迦様は微笑んだのであった・・・。


親というものは口うるさいもの、と決まっているようです。そう思ったことはありませんか?。
「ああしちゃいけない、こうしちゃいけない。」
「そんなことをしたら恥ずかしいだろ、世間の物笑いだ。」
「なんであんたは・・・。親の気持ちもしらないで。」
「あなたのために親は苦労をしてるのよ。そのことをわかっているの?。」
「こんなにあなたのためにやっているのに、少しは返してもらいたいものだわ。」
とまあ、親が言うセリフはだいたい似たようなものですよね。特に、思春期のお子さんを持った親は・・・・じゃないでしょうか。

確かに、子供はとんでもないことをしでかしたり、考えたりします。道を外れそうになったりします。外してしまう子供もいます。そういう時は、注意をするのは当然でしょう。親の義務です。
ただ、そういうときでも親の考えだけを押し付けてはいけません。世間体でものをいってはいけません。お子さんの意見や考えはどうなのか、よく聞くことが重要です。
ところが親は、まず世間体を気にするんですね。で、次にいうのが、
「そんなふうにお前を育てた覚えはない!。」
ですね。覚えはなくたって、そう育ったのは親の責任も入っているから仕方がないですよね。責任逃れしちゃあいけません。子供は敏感ですから、
「あ、この親、逃げたな。」
って気付きます。勝手に産んでおいて、それはないだろうと・・・・とね。

子供には子供の考えがあります。学校での付き合いもあるでしょう。将来の夢もあることでしょう。やりたいことも多々あることでしょう。そういうことを全否定して、親の考えだけを押し付けてはいけませんよね。それは親の愛情でも義務でもありません。しかも、
「あなたのためにこんなに苦労して働いている。」
などというセリフは厳禁です。
「じゃあ、産んでくれなきゃよかったのに・・・。」
といわれるのが落ちです。子供は敏感なのですよ。親の身勝手をよくわかっています。親の身勝手な発言は、子供の身勝手を生むだけなんですよ。

子供のことを思うのなら、自分の考えだけを押し付けるのはやめましょう。
いやいや、子供が相手だけではないですね。どんな相手であっても、それが愛する人ならば、自分の愛情を押し付けるようなことは止めましょう。相手にとってはそれが「重荷」になることがあるのです。そんな愛情はいらない、ということがあるのです。
愛情は、相手が望むものを与えること、です。しかも、見返りを求めない、それが愛情です。ただし、何でもかんでも与えればいい、というものではないですけどね。それは盲愛になってしまいます。相手にとって必要なものかどうか、よく見極めてから与えるのです。よく話し合ってからね。本当にそれが必要なのかどうか、それを相手とよく話し合ってから、与えるのです。
また、与えないということも、愛情の一つです。何でも与えるのではなくて、与えない、ということも愛情を与えていることの一つなのですよ。
そして、それらに対して「見返り」を求めないことです。

「あなたのために苦労している、あなたのためにやっている」
などという押し付けの愛情は、慎みましょう。身勝手な愛情は、ゆがんだ人間関係を作るだけですからね。
合掌。




第56回
恥ずかしい、みっともないといって、隠し立てをする。
それが手遅れの原因になるのだ。
自分で手に負えないのなら、すぐに相談するが善い。


「あぁ、もう面白くねぇ!。お前たちの顔など、もう二度と見たくねぇ。出て行ってやる!。」
そう叫んだビナーヤは、そのあたりにあった椅子や商品をめちゃくちゃに蹴飛ばし、店の引き出しからお金をつかむと、家を飛び出していってしまった。ビナーヤの怒り狂う姿を見ていた両親は、なす術もなくただ部屋の隅でおびえて固まっていた。
「あぁ、なんてことだ・・・。あの子はとうとう家を飛び出していってしまった。いったい、どうすればいいのか・・・。」
「あなた、こうなったら町の世話役のジーバさんに相談するしかないんじゃないかしら。もう隠しているわけにはいかないでしょう。ジーバさんなら、何とかしてくれるかもしれないわ・・・。」
「う、うん・・・。しかし・・・。まあ、そうだな。そうしてみるか・・・・。」
そういうと、ビナーヤの父親マハービナーヤは、しぶしぶ町の顔役のジーバのところへと向かったのだった。一人残った妻は、傷ついた身体で部屋の中の片付けを始めた。

マハービナーヤの家は、裕福な家であった。自ら所有する田畑もあったうえに、家業の貿易業もうまくいっていた。そのあたりの町では一番の金持ちであった。なので、ビナーヤにも何不自由させることなく、育てたのであった。それがいけなかったのか、あるいは、仕事が忙しすぎて子供に構うことができなったことがいけなかったのか、息子のビナーヤは我が侭な性格に育ってしまっていた。気に入らないこと、自分の思うようにならないことがあったりすると、大声を出して暴れたり、モノに八つ当たりしたり、あげくの果てには両親に殴りかかっていったりしたのだった。このため、両親はビナーヤが怒り狂い出すと、ただただ震え上がって、ビナーヤの怒りが鎮まるのを待っているだけだったのである。

町の顔役であるジーバのところへ出向いたマハービナーヤは、ジーバに息子のことを話したのであった。
「わしは気付いていたよ。近所に聞こえるほどのケンカをしょっちゅうしておったからの。いくら大きな家だからといっても、あれだけ大声で叫べば、そりゃあ聞こえるさ。それにな、たまに、お前さんたち夫婦が顔を張らしていることがったが、あれは息子に殴られたんじゃろ。」
「は、はい、まあ・・・・、そうです。気付いておられましたか・・・。」
「そりゃあなぁ、誰だってわかるさ。大声で親子ゲンカした翌日に、顔を晴らしておればのう・・・。モノをぶつけたような、蹴飛ばしたような音も聞こえてくるしのう。知られていない、と思っておったのは、前さんたちだけじゃよ。だから、お前さんたちがいつ相談に来るのかと、待っておったのじゃ。しかしのう・・・・、こうこじれてはのう・・・。」
「な、なんとかなりませんか?。」
「うぅ〜む・・・。わしが意見してやってもいいが、わしも命が惜しいからのう。それに、ここへは来ないじゃろう。わしの言うことなんぞ聞かんじゃろうて。」
「あぁ・・・・そうですね。ご老体に息子が殴りかかってしまったら、私たちでは止められません。それに無理やりここにつれてくるというのも・・・・。ご老体にも迷惑がかかってしまいますし。はぁ・・・・、もっと早くに相談に来ていればよかった・・・。」
「そうじゃ、そうじゃ。問題はそこじゃな。こんなにこじれる前に、もっと早くに相談に来ていればのう。何とかなったかもしれん。なぜ、もっと早くこなかったのじゃ。」
「はぁ・・・はい。その・・・・。」
「ふん、見栄じゃろ。近所に息子のことでもめているなんてことを知られたくなかったのじゃろう。」
「えっ、えぇ、まあ・・・。その・・・、うちはご近所の中でも、その・・・・・。」
「お大尽じゃからのう。だから、わしなんぞのところへ相談にくるのは恥ずかしい、そういうことじゃな。」
「あぁ、いや、決してそういうことでは・・・。」
「違うというのか?。お前さん、この期に及んで、まだそんなことをいうのかね。」
「あぁ、いや、その・・・・。はぁ、さすがにご老体です。わかっていらっしゃる・・・・。」
「おだてるな。まあな、お前さんたちの考えることくらいわかるわい。まったく、つまらん見栄を張るから、こんなことになるのじゃ。それにしても、困ったことじゃ。どうすればよいかのう・・・・。」
「はぁ・・・。もう、あきらめるしかないのでしょうか。何の方法もないのでしょうか?。」
「そうじゃのう・・・・。」
顔役のジーバは、返事に困り、黙り込んでしまったのだった。マハービナーヤは、黙りこくってしまったジーバを見て、失望した。
(はぁ・・・。恥を忍んで相談に来たのに・・・。こんなことなら来るんじゃなかった・・・。)
そう思ったマハービナーヤは、ジーバに
「・・・・ジーバ様、ご迷惑をおかけしました。こうなったら、何とか自分たちで息子の始末をします。元はといえば、私たち夫婦が悪いのです。あんな我が侭な子供にしてしまった私たちが・・・。このことは・・・その・・・内密にしてください。よろしくお願いいたします。」
というと、立ち上がってジーバの家を出ようとした。
「ちょっと待ちなさい。方法がないわけではない。それにしてもあんったっていう人は、最後までそういう態度か・・・。まあ、いい。もう一度、座るがいい。」
その言葉にマハービナーヤは、期待に目を輝かせ、振り返った。
「な、何か、いい方法でもありましたか?。どうすればいいのです?。」
「そんな興奮せんでもいい。まあ落ち着きなさい。あのな、お釈迦様に相談してみたらどうじゃ。今は、この国にはいらっしゃらないが、コーサラ国にいらっしゃるじゃろう。早まったことを考えるより、お釈迦様の元へ行った方がいいのじゃないかな。」
「お、お釈迦様ですか・・・。お釈迦様に相談しろと・・・・。」
「あぁ、そうじゃ。お釈迦様は、どんなことでも解決して下さる聖者様じゃ。我が国の国王はじめ、コーサラ国やマガダ国の王も頼りにしているそうじゃないか。ぜひ、一度相談にいって見るがいい。」
「はぁ・・・。お釈迦様の噂は耳にはしています。我々庶民の悩みも聞いてくださる、いろいろな迷いを解決してくださる聖者だとか・・・。しかし・・・、コーサラ国ですか。遠いなぁ・・・。」
「遠くても助かるのなら、行ってみる価値はあるじゃろう。あの方は、伝説の聖者ブッダ様じゃ。何とかしてくださるよ。」
「はぁ、そうですね。女房と相談してみます。」
マハービナーヤは、肩を落としてジーバの家をあとにしたのであった。

家に戻ると、マハービナーヤはジーバの家で聞いたことを妻に話した。
「お釈迦様ですか・・・・。コーサラ国にいらっしゃるのですか・・・。」
「あぁ、そうだ・・・。そういえば、去年だったか、この国にもお釈迦様がいらしたことがあったな。」
「あぁ、ありましたね。今頃の季節でしたかしら。あの時、相談にいっていれば・・・・息子も少しはマシになっていたのかも・・・・しれませんねぇ・・・。」
「もう過ぎたことだ、いまさら言っても仕方がない。」
「また、そんなことを言って・・・。あの時、確か私はお釈迦様に相談に行った方がいいのじゃないですか、とあなたにいましたよ。」
「そうだっけか?。忘れたよ、そんなことは。」
「あなたは、なんでもそうやって逃げるのですよ。ビナーヤのこともそうだわ。近所に知られたくない、自分たちで何とかしよう、そういって先延ばしにして、誰に相談することもなくここまで来てしまったのよ。それが、あの子を・・・・・あんなふうにしたんだわ・・・。」
そういって妻は泣き崩れたのであった。マハービナーヤは、渋い顔をして、
「わかった、私が悪かった・・・。今度こそお釈迦様に相談に行くよ。」
と、妻に約束したのであった。

しかし、マハービナーヤはいつまでたっても、旅支度をしようとしなかった。
「あなた、いつコーサラに旅立つのですか?。」
そう尋ねる妻に、
「仕事の始末をしていかねばならない。段取りがついたらすぐにも旅立つよ。それに・・・。」
「それに?。」
「もしかしたらビナーヤが帰って来るかもしれないじゃないか。」
「なにをおっしゃっているんですか。あの子が家を出て、もう5日目になるのですよ。あなたは、町の門番にもビナーヤのことを隠しているし、ビナーヤの行きそうなところを探そうともしない。門番の人に、ビナーヤを見かけたら知らせてくれるよう頼んでおけば見つかるかもしれないというのに。それなのに・・・あなたは何もしない。あなたは、ビナーヤのことなんてどうでもいいんだわ。」
「そうじゃない、そうじゃないさ。ただ、仕事に差しさわりがあるから・・・。貿易業は信頼が重要なんだ。それなのに、うちの息子が家出をしているなんて・・・。それもうちの商品やお金を持ち出しているなんて、言えないじゃないか。わかってくれよ。」
「いいえ、わかりません。あなたは、ビナーヤより、仕事の方が大事なのよ。そうやって何でも隠し立てをするのよ。そうよ、あなたは自分のメンツのほうが大事なんでしょ。もういいわ。コーサラ国には私が行きます。」
妻はそう宣言すると、いつの間に用意をしていたのか、旅用の荷物を抱えて家を出ようとしたのだった。マハービナーヤは、あわててそれを止めた。
「わかった、わかったよ。明日旅に出る。コーサラへ向かうよ。用意をしておいてくれ・・・。」
そういうと、マハービナーヤは、コーサラへ向かう決心をしたのであった。

一週間ほどの行程であった。ようやくコーサラ国に着いたマハービナーヤは、さっそくお釈迦様が滞在している精舎に向かった。精舎の入り口で、掃除をしている若い修行僧に声をかけた。
「あの・・・、お釈迦様はこちらにいらっしゃるのですか?。」
「えぇ、そうですよ。なにか、御用ですか?。」
「いや、その・・・・。」
「あぁ、ご相談事があるのですね。どうぞ、奥へお入りください。遠慮されることはありませんよ。」
「い、いや、その・・・。私には相談するようなことはありませんよ。あはは、やだなぁ・・・。」
「あぁ、そうですか。それならいいのですが・・・。」
そうは言ってみたものの、そのまま宿に帰るわけにもいかず、マハービナーヤはうろうろしていたのであった。その様子を見て、若い修行僧は、掃除をしながら、独り言のようにつぶやいた。
「お釈迦様は、こうおっしゃいました。身なりで判断してはならぬ。どんなに立派な身なりをしていても、悩みは抱えているものだ。金持ちであろうと、貧しかろうと、悩みは同じである。見栄をはってはならぬ。素直に来るがよい・・・と。」
その言葉を聞いて、ハマービナーヤは、はっとしたのだった。
「も、申し訳ない。私をお釈迦様のところへ連れて行ってはくれませんか・・・・。」
こうして、ようやくマハービナーヤは、お釈迦様のもとを訪れたのである。

お釈迦様に何もかも話をしたマハービナーヤは、楽になっていた。何の隠し事もせず、すべての事実をお釈迦様に話したのであった。マハービナーヤは、重い荷物を降ろしたようであった。こんなに楽になるのなら、もっと早くに話せばよかったと、そう思っていたところであった。
一方、お釈迦様は、マハービナーヤの話を聞いて、遠くを見つめるような眼をしたのであった。そして、
「あなたの話はわかりました。息子さんのことは心配でしょう。しかし、残念ながら、遅かったようです。あなたの息子さんのビナーヤは、捕まっています。捕縛されたのです。このコーサラ国内で捕まっています。それは、昨日のことです。あなたは来るのが遅すぎた。もう一日早く来ていれば、息子さんは捕縛されることはなかったでしょう。救うことができたでしょう。体裁を取り繕おうとした、あなたの見栄が、息子さんを遠くへ追いやってしまったのです。」
と告げたのであった。それは、あまりにも冷たい言い回しであった。
「な、なんてことだ・・・・。そ、そんなことって・・・・。どうにか、どうにかなりませんか?。あぁ、うちの家系から罪人を出してしまった。これではご先祖に顔が立たない。なんてことだ。どうしたら・・・・。あぁ、そうだ、金ならある。金ならあるんです。息子を警吏の手から解放することはできないのでしょうか。」
「愚かなことを・・・・。あなたはなぜそれほど体裁にこだわるのですか。あなたのその考え方が、息子さんをここまで追い込んだのですよ。まだ、わからないのですか?。」
お釈迦様の突き放したような言い方に、マハービナーヤは、しばし呆然としてしまったのだった。

しばらくして、お釈迦様が穏やかな口調で話を始められた。
「悩み事を抱えたとき、それが自分の手に負えないことであるなら、すぐに誰かに相談する方がよいのですよ。悩み事を抱えることはけっして恥ずかしいことではありません。どんなものでも悩むことはあるのです。それなのに、悩むことは恥ずかしい、人に相談をすることはみっともない、といって隠し立てをする。愚かなものは、世間に知られてはまずい、親類に知られては困る、近所に知られては恥ずかしい・・・・。そういって、事を隠蔽しようとするのです。しかし、それは何の解決にもなりはしないのです。むしろ、解決する機会を奪うものです。そうやって問題の解決を先延ばしにすることにより、手遅れという状態を生むのです。自分の手に負えないことは、さっさと相談すればいいのですよ。何も恥ずかしいことはないのです。
こんなことを相談すると、愚かなものだと思われるのではないか、能力がないと思われるのではないか、くだらないことでと思われるのではないか・・・。というようなことを考える必要はないのです。そうした見栄や体裁を繕うことが、状況を悪化させることになるのです。手遅れ・・・という状態を招くのです。
自分で手に負えない、そう思ったら、すぐに識者に相談することです。その識者で手に負えなければ、その識者は別の識者を紹介してくれるでしょう。そして、その識者の判断に従うのです。
悩みが大事になる前に、取り返しがつかないほどの問題になる前に、素直に相談に行くがいいのですよ。だいたい、初めから能力のないことはわかっているのですからね。悩みを解決する能力があるのなら、大事にはならないのですから。自分ひとりで悩んでないで、その悩みを他の人にも背負ってもらう、そういうことも大切なのですよ。わかりましたか。」
お釈迦様にそう諭され、マハービナーヤは、頭を下げるのであった。
「はい・・・。私が間違っていたのです。つまらない見栄のために、取り返しのつかないことをしてしまったのです。思い起こせば、息子に対して、いつも私は体裁を取り繕うようなことしか言いませんでした。注意するときも、その行為自体がいけないことだとは言わずに、世間に知れたら恥ずかしいだろうとか、近所に顔が立たないとか、うちの家系にお前のようなやつはいないとか・・・。すべては私の見栄が招いたことなのですね。あぁ、もっと早くにお釈迦様に相談すればよかった。そしたらこんなことには・・・・。もっと、早くに素直になっていれば、見栄を捨てていればよかった・・・・。」
泣き崩れているマハービナーヤに、お釈迦様は優しく声をかけた。
「まだ、遅くない。ビナーヤを更正させればいいのだ。息子さんはまだ若い。今からでも遅くはないのだよ。息子さんが刑期を終えて自由になったら、私の元に連れて来るがいい。あなたと、あなたの奥さんと、息子さんと一緒に話をしようではないか。」
その言葉に、マハービナーヤは、深く深く頭を下げるのであった。


迷ったとき、悩んだとき、あなたはすぐに誰かに相談しますか?。すぐに相談する、といった方は、幸せな方です。なぜなら、まず相談できる人がいる、ということが一つ。それとあなたの素直さが幸せの元だと言うことが一つです。
誰もが、すぐに相談する、と言えるならいいのですが、なかなかそうはいかないのが世の常です。なぜなら、たいていの方は、相談する前に躊躇するんですね。
「こんなことを相談したら恥ずかしい。」
「そんなことを聞いたら、恥だわ。みっともない。」
「これぐらいのこと、相談しなくても何とかなるわ。」
「こんな相談したら、まるで自分がダメな人間だと思われる。何とか自分で乗り切ってみせる。」
「大丈夫だ。何とかなる。こんなことくらい、たいしたことじゃない。」
まあ、このような理由をつけて、抱えた問題ごとを下隠しにするのですね。外見上は何事もないような顔をして過ごすのです。内心はドキドキでも。

でもね、いつまでたっても解決の兆しさえ見えない事柄は、早く相談したほうがいいと思いますよ。でないと、手遅れになることだってありますからね。
たとえば、お店を経営していたとします。初めは順調だったのにどうも伸び悩んできている。停滞し始めているんですね。そういう時は、やはり経験者の意見を聞くのがいいですね。早めにね。で、アドバイスをもらったら、素直に聞くことです。実行することです。
ところが、そうではなく、何とか自分で乗り切ろう、いろいろやってみよう、と頑張ってみる方が多いんですよ。そういう時は、たいてい
「俺にできないはずがない」
と思っちゃうんですね。見栄張っちゃうんです。うぬぼれですね。で、誰かに相談したときには手遅れ・・・・、な〜んてことになったりします。
だいたい、自分で何とかなることなら、もっと早くに解決の糸口が見つかっていることでしょう。そういうものです。

なんでもかんでも相談する、なんていう依存症になっちゃいけませんが、自分でよく考えても、しばらく時間を置いても、解決の糸口すら見つからず、どうしていいかもよくわからないことならば、早めに相談することですね。その相手は友達でもいいじゃないですか。知り合いでもいいないですか。先輩でもいいのですよ。誰かに聞いてもらうことです。そこから、解決の糸口が見つかることもありますしね。その相談した相手が手におえないようなら、そこから別の誰かを教えてくれるかもしれませんし。とにかく、突破口を見出すことをしなきゃ始まらないでしょう。

悩み事を抱えたら、何か問題を抱え込んだら、無闇に隠し立てせず、素直に誰かに相談することです。みっともない、恥ずかしい、なんて躊躇しているうちに、手遅れになってしまいますよ。これは手に負えないな、と思ったら、早めに相談をして、そのアドバイスに素直に従うことです。
それが安楽な道なのですよ。合掌。




第57回
思い通りにならない、うまくいかないからといって、
悲観したり、怒ったり、八つ当たりをするのは愚かである。
思い通りにならないのは、他人の責任ではないのだから。


「もう二度とここへ来るんじゃないぞ。」
衛兵は、そういうと牢獄の扉をあけた。ビナーヤは、衛兵に頭を下げ、牢獄を出たのだった。ビナーヤが家を出て、コーサラ国で罪を犯し、捕縛されてから3年が過ぎていた。刑務所の門を出ると、そこには見慣れた顔があった。ビナーヤの両親が迎えに来ていたのだった。
「なんだよ、笑いに来たのか。さげすみに来たのか、バカにしに来たのか。」
ビナーヤは両親をにらんでいた。
「何をバカなことを言っているんだ。お前を迎えに来たに決まっているだろう。さぁ、一緒に帰ろう。」
「一緒に帰ろう?。よくいうぜ。あんたらは、俺が邪魔なんだろ。そうだよな、家の恥だもんな、この俺は。何にもロクにできない、頭も悪い、遊んでばかり、ついには犯罪まで犯して、刑務所行き。迷惑な息子なんだろ、この俺はよ。うっとしいから、消えろよ。俺は家には帰らない。俺のことは放っておいてくれ。」
「何を言ってるんだ。さぁ、家に帰るんだ。お前には帰る家があるんだ。邪魔だなんて、そんなことは思ってないさ。な、一緒に帰ろう。」
「俺だってな、好きで罪を犯したんじゃない!。どうしようもなかったんだ。何もかもうまくいかなくて・・・・。やることなすこと、うまくいかなくて・・・。俺が悪いんじゃないのに・・・・。そんな時、いつもあんたらは、そういう目で俺を見ていたんだ。『おぉかわいそうなビナーヤ・・・・』。もう、うんざりだ。哀れみの目で見られるのはな!。」
「何を言ってるんだ。我々がいつそんな目で見た。お前のことを心配はしていたが、哀れんでみたことはないじゃないか。さぁ、つまらないことをいってないで、帰ろう。ここはコーサラ国だ。うちへ帰るまで1週間はかかってしまう。さぁ、早く帰ろう。」
「あなた、家に帰る前に、お釈迦様のところへ・・・。」
「あぁ、そうだな。でも、まあ、帰ることが先だろう。」
「なんだよ、何言ってるんだ。何か隠しているのか。」
「い、いや、そうじゃない。何もない。何も隠してないよ。」
「もういい。俺は俺で好きにさせてもらう。家には帰らない。」
「な、何を言ってるんだ。帰るんだ、ビナーヤ。」
「あ〜、もう、うるさい!。お前らなんか、いらないんだよ。お前らだけで帰ればいいだろ!。」
「ビナーヤ、なんて事を言うの。お願いだから、ともかく一緒に帰りましょう。ね、いいでしょ。」
「そんな言い方するからいけないんだ。ビナーヤは、子供じゃないんだぞ。まったく、どいつもこいつも・・・・。おい、ビナーヤ、これが最後だ。我慢も限界がある。一緒に帰るのか、帰らないのか。どっちなんだ。」
「あんた、バカじゃねぇのか。俺は初めから帰らない、っていってるだろう。一緒になんか帰るか。何もかも面白くねぇ、あんな家に帰るわけないだろ。あんたらだって、そのほうが安心なんだろ。世間に恥ずかしい思いをしなくていいからな。それで思うようになっただろう。」
「な、なんだと、コイツ!。言わせておけば!。この・・・もう我慢できん。このバカ者が!。」
ビナーヤの父マハービナーヤはそういうと、ビナーヤにつかみかかっていったのだった。そして、ついに二人は取っ組み合いのケンカを始めてしまったのであった。
「ちょっと、あなたたち、やめてよ、こんなところで。やめて・・・・やめなさい!。」
妻のケートゥが叫んだが、二人は止まらなかった。
「何をやってるんだ!。おい、お前たち、ここがどこかわかってるのか!。」
それまで様子を見ていた刑務所の門番たちが、駆けつけてきた。
「お前ら、ここをどこだと思ってる。おい、お前、もう一度中に入りたいのか。」
門番にそういわれ、ビナーヤはおとなしくなった。
「あなたたち、来なさい。何があったか知らないが、こんなところでケンカされちゃ困るからね。」
門番の一人はそういうと、刑務所の横にある罪人を裁くための建物へと連れて行ったのだった。ビナーヤは衛兵に押さえられながら、しぶしぶ裁きの場への門をくぐった。そのあとを両親が恥ずかしそうについて歩いていった。建物の中に入るとき、ビナーヤはそっとつぶやいた。
「あぁ、俺って、なんでこううまくいかないんだ・・・・。ついてねぇなぁ・・・。誰か、その理由を教えてくれ・・・。」

門をくぐると、そこには出家者たちの姿があった。ちょうどその日は、お釈迦様の弟子たちが罪人に教えを説く日だったのである。
「おや、あなたがたは・・・。あぁ、確かあなたはマハービナーヤさんでは・・・。」
出家者たちの中の一人がそういった。それを聞いていた衛兵が、かしこまって答えた。
「あぁ、これはシャーリープトラ様。今日はご苦労様です。シャーリープトラ様、この方たちをご存知なのですか?。」
「えぇ、まあ・・・。えぇっと、そちらは息子さん・・・ビナーヤさんですね。」
「そうなんですよ。こやつ、今日、牢獄を出たばかりなのに、その門のところで迎えに来てた両親と取っ組み合いのケンカを始めたんですよ。でね、説教してやろうと思って、連れてきたんです。」
「あぁ、そうですか。それはちょうどよかった。この方たちは、このあとお釈迦様の元を訪れることになっていたんですよ。私たちが連れて行きましょう。」
「そうですか。それは助かります。我々も門番の仕事がありますので、シャーリープトラ様が引き取ってくださるなら、それはありがたいことです。」
衛兵はそういうと、ビナーヤ親子をシャーリープトラに引き渡した。ビナーヤは、一瞬逃げようとしたが、思うように身体が動かず、その場で固まってしまっていた。シャーリープトラはその耳元にそっとささやいた。
「逃げようとしても無駄です。神通力を使いました。あなたは逃げられませんよ。おとなしくお釈迦様の元まで来てください。」
その言葉にビナーヤは、驚きながらもうなずき、おとなしくシャーリープトラに付き従ったのだった。

しばらくして、彼らは祇園精舎に到着した。そのまま奥のほうに進むと、そこにはお釈迦様の姿があった。
「お待ちしていました。マハービナーヤさん、逃げられない縁というものはあるのですよ。あなたにとっては、この場に来るのはいやだったでしょうが・・・・。」
お釈迦様はそれだけ言うと、かすかに微笑んだ。マハービナーヤは笑って誤魔化したが、冷や汗を流しながら下を向いてしまった。
マハービナーヤとビナーヤ、母親のケートゥは、お釈迦様の前に並んで座った。三人が落ち着くと、お釈迦様はビナーヤに優しく尋ねた。
「ビナーヤ、なぜ家を出たのかね?。」
ビナーヤは、初めは下を向いてもじもじしていたが、小さな声でとつとつと語りだしたのだった。
「それは・・・・。実は、好きな女がいて・・・・。で、一緒に暮らしたいとコイツラ・・・いや、あの、両親に言ったんです。ところが・・・。

『ロクに仕事もしないお前が、女と一緒に暮らすだと?。お前は寝ぼけてるのか。その前に一つでもまともに仕事をしろ。何をやっても途中でやめてしまう。この間、私が頼み込んで見つけてきた仕事はどうしたのだ。1週間で辞めてしまったじゃないか。』
『あれは、俺が悪いんじゃねぇよ。あのオッサンがうるさいから・・・。いちいちうるさいんだよ。小さなことをクドクドと説教しやがって。俺に自由にやらせてくれりゃあ、ちゃんとやるのによ!。』
『バカかお前は。お前がちゃんとできないから、親方は教えてくれたんだろう。それを・・・・。初めから何でも思うようにできるわけがないだろ。バカ者!。』
『う、うるせ〜。いいから、金くれよ。当面、暮らせるだけくらいの金ならなんとでもなるだろ。こんな家はもう飽き飽きだ。出て行ってやる。』
『出て行くのは勝手だが、金はやらん。もう我慢の限界だ。今日は、お前の思うようにはしてやらんぞ。』
『なんだと!、このヤロー、金よこせ!。』
ビナーヤは、そう叫びながら貿易商を営んでいる店の方へ行くと、手当たり次第壊し始めたのであった。椅子を投げ、テーブルを壊し、商品をひっくり返し、暴れ放題だったのだ。両親は、なす術もなく呆然とするばかりであった。さんざん暴れたビナーヤは、店の引き出しからお金をつかむと、
『あぁ、もう面白くねぇ。お前らの顔なんか二度と見たくねぇ!。出て行ってやる。』
と叫んで家を飛び出したのだった・・・・。

と、いうわけで家を出ました。」
ビナーヤは、このように家を出たいきさつを説明したのだった。

「あなたは、自分の思う通りに行かないと、いつも暴れるのですか。」
お釈迦様が質問した。
「そういうわけでは・・・・。というか、お金などは、思うようにくれてましたから。好きなだけもらってましたから、お金のことで暴れたのは初めてです。」
「では、ほかの事では?。ほかの事でうまくいかない、思うように行かない、といって暴れたり、怒ったり、八つ当たりしたりしたのですか?。」
「えぇっと・・・・。そうです・・・、はい、しました。」
「なぜ暴れるのですか?。なぜ怒るのですか?。」
「だって・・・、思い通りにいかないから。みんなが言うことを聞いてくれないから。俺の好きなようにさせてくれないから・・・・、だから怒るんです。」
「あなたは、自分の思うようにしたいんですね。」
「はぁ・・・。そうですね・・・。」
「自分の思うようにして、うまくいきましたか?。怒って、暴れて、自分のわがままを通して、思い通りにして、それで満足しましたか?。そのあとは、自分の思い通りになりましたか?。」
「は?、どういうことですか?。」
「たとえば、あなたはあなたの思い通りに、仕事をしましたね。」
「はい、両親は、反対したのですが・・・・。あんな仕事は身分の低いものがすることだ・・・と。でも、俺はその仕事がしたかったんです。で、そのときも、散々怒って暴れて・・・・。で、その仕事に就きました。」
「思い通りになって、よかったじゃないですか。その仕事はそのあとどうなったのですか?。」
「つまらなくて辞めました。・・・うまくいかないんですよ。思うように仕事がはかどらなかった。うまくいかないんです。俺は、俺は・・・なにやってもうまくいかないんです。思うようにならないんです。今だって・・・。」
「そうだね。今回のことも、あなたはあなたのわがままを通して家を出た。自分の思い通りにした。好きな女性と一緒に暮らすつもりだったのでしょ?。だが、罪を犯す羽目に陥ってしまい、捕まってしまった。結局、思うようにはならなかった。」
「そうなんです。いつもそうだ。いつも、いつも、いつも・・・・。自分の思うようになったと思ったら、うまくいかなくなってしまう。つまらねぇ・・・。俺の人生なんて、なんてつまらないんだ・・・。」
「それは誰が悪いのだね?。」
「誰が・・・・、悪い・・・・?。」
「そう、では、こう尋ねよう。なぜ、思い通りに事を運んだのに、思うように行かないのだね?。」
「それは・・・・・。」
「わからないか?。では、考えなさい。自分の過去をよく振り返って、考えてみなさい。」
お釈迦様はそういうと、それまでの優しい顔を厳しい面持ちに変えたのであった。

しばらくして、ビナーヤはお釈迦様の方を見ていった。
「わ、わかりません。なんでいつもこうなるのか、よくわからないんです。」
「では、聞こう。仕事がうまくいかないとき、あなたはその仕事を覚えようとしましたか?。」
「自分なりにしたつもりです。」
「何日ほど?。」
「えぇ〜っと、1週間で仕事をやめてしまったから・・・・。頑張ったのは・・・・3日間ほど・・・かな。でも、一生懸命頑張りました。」
「なぜ、もっと努力しなっかったのですか?。」
「だって、親方が、バカだの、うすのろだのっていうから・・・・。面白くなくて・・・。」
「それで辞めたのですね。」
「はい、そうです。」
「あなたはバカものですね。愚か者だ。」
「な、なんと・・・、あ、あ、あ・・・・。」
「大バカ者です。それがわかりませんか?。」
お釈迦様の厳しい言葉にビナーヤは、ただただ口をあけてうろたえていた。
「ビナーヤ、すべては自分が悪いのですよ。わからないのですか?。あなた自身が悪いのです。」
「そ、そんなことは・・・ないでしょう。俺は悪くない・・・。」
「まだ、気付きませんか?。本当はわかっているのでしょう?。それを素直に認めなさい。そうすれば、楽になるのですよ。」
「お、俺は・・・・俺は悪くない・・・・んだ。」
「そうですか、いつまでもそうやって意地を張るのですか。では、よろしい。教えてあげましょう。」
お釈迦様は、そういうと、いっそう厳しい目をビナーヤに向けたのであった。
「あなたは、努力したというが、それはたった3日間だけでしょう。確かに親方は口は悪かったかもしれません。しかし、それは親方の口癖だったに過ぎないのです。それに、あなたは親方が罵倒するからその仕事を辞めたというが、他の仕事はどうなのでしょう?。あなたに仕事を教えたものは、すべてあなたを罵倒したのだろうか?。そうではありませんね。あなたは自分が努力しない、したくないことを認めたくないだけです。で、すべてを他人のせいにしている。何に対してもあなたは、そういう行動をとる。あなたは単に努力する、頑張ってみる、ということをしたくないだけだ。怠けて、遊んでいたいだけなのだ。単に甘えているだけなのだ。
そして、その甘えが通用しなくなると、怒ったり、暴れたり、八つ当たりをしたりするだけなのだよ。自分でもわかっているのでしょう。ただ、それを認めたくないだけでしょう。
思い通りにならない、うまくいかない、といって嘆いたり、怒ったり、暴れたりするのは、単にわがままを通したいだけなのだよ。他の誰かが悪いのではない、すべては自分が悪いのだ。それを認められないビナーヤ、あなたは、愚か者にすぎない。」
厳しい声が祇園精舎の中に響いた。
「お、俺は・・・・。バカにされるのがいやだった・・・。どいつもこいつも俺をバカ扱いしやがって・・・。親もだ。いつも小ばかにした目で俺を見ている。何の役にも立たない愚か者、一家の恥、バカ者・・・・。そういう目で見てるんだ。だから・・・悪いのは・・・そういう目で見る・・・・。」
「世間が悪い、といいたいのかね。」
「そうだ、あぁ、そうだ。」
「そういう目で見られないようにしようとは思わないのか?。」
「思うさ!。思うとも。コノヤロー、今に見てろよと。でも、いつもうまくいかない。ちっともうまくいかないんだ。」
「ビナーヤ、すぐに成功者にはなれないんだよ。何年もかけて、地道な努力を重ねて、同じ事を何度も何度も重ねて、そうして築き上げていくんだよ。3日や1週間で事が成就することなどないのだ。」
「俺は・・・早く見返してやりたかった・・・。オヤジに、よくやったじゃないか、と早くいわれたかった・・・んだ。」
「そうだったのか、ビナーヤ。お前はそう思っていたのか・・・・。」
それまでお釈迦様とビナーヤのやり取りを静かに聴いていたマハービナーヤが、ビナーヤの言葉を聞いて思わず声をかけていたのだった。
「そうだったのか・・・・。私は、何にも知らなかった・・・・。私はお前のことを誤解していたようだ。わがままし放題のどうしようもないバカ息子だと・・・・。お前は、心の中でそんなことを思っていたのか・・・。そうか、そうだったのか・・・・。お釈迦様・・・・。」
「なんだね。」
「息子は悪くない。こうなったのも私の、親の責任です。私たちが間違っていたのです。思うように育っていかない息子を私はいつの間にか疎んじるようになった。うまくいかない親子関係に疲れ果てていた。何のことはない。うまくいかなくて当たり前だ。私は息子のことを何にも理解していなかったのだから。悪いのは私なんです。」
そう懺悔する父親にお釈迦様の厳しい声が降りかかった。
「その通りですね。悪いのはあなたです。いや、悪いのは、あなたであり、ビナーヤであり、奥さんであるのです。あなたたち三人が三人とも悪いのですよ。」
その言葉に、三人が顔を上げ、お釈迦様のほうを見たのだった。
「思い通りにならないといって、うまくいかないといって、あなたたちは悲観したり、嘆いたり、暴れたり、八つ当たりをしたりしました。マハービナーヤ、ビナーヤ、ケートゥ、あなたたちはみんな同じ過ちをしているのですよ。
父親は、息子が思うように育たなかったことを奥さんの責任していました。つまり、奥さんに八つ当たりをしていたわけですね。そして、悲観して、一家の恥だからと隠そうとした。
奥さんは奥さんで、心の中では勝手な主人を呪い、私にばかり責任を押し付けて・・・と拗ねていた。また、息子のことでは、死にたいくらいに悲観していた。このままではどうしようもない、いっそこの子を殺して自分も死のうか、とさえ考えるようになっていた。そうすれば、夫も自分の責任に気付くのではないかと、そう思ったからだ。」
「そうなのか、お前。」
マハービナーヤは、驚いて自分の妻の顔を見た。
「お釈迦様は何もかもお見通しです。その通りです。いつか、息子を殺して自分も死ぬつもりでした。何を言っても解決しようとしない夫に嫌気が差していたんです。」
「そうだったのか・・・・。」
妻の言葉に、マハービナーヤは激しく動揺したのであった。そんなマハービナーヤを放っておいて、お釈迦様は話を続けた。
「息子は息子で、少しも努力せず、両親に認められることだけを思っていた。しかし、努力しなければ何も成就しないものだ。早く認められたいくせに、努力するのはいやだし、すぐに嫌気は差すし、そのうちに、うまくいかないからといって、仕事も辞めていってしまう。そして、俺なんかクズだ、と悲観し、あげくの果てにはそのハケグチを親に向けた。店の品に八つ当たりをした。
あなたたち三人は三人とも、同じ事をしているのです。それぞれが、自分の非を認めようともせず、うまくいかないのはみな周りが悪いからだと、怒り、悲観し、嘆き、八つ当たりをしているのですよ。
なんのことはない。悪いのはみんなそれぞれ悪いのです。他人のせいじゃない、自分の責任なのです。それに気付かない、いや、気付いても認めようとしない、あなたたちは愚か者でしかないのですよ。
よいですか。思い通りにならないの当然のことなのです。自分一人で生きているわけではないのですから。他人がいるのですから。他の人の意思もあるのですから。この世は自分の思い通りになることはないのです。」
「でも・・・・。思うようにやってるヤツもいますよ・・・・。」
「それはねビナーヤ。そうなるように必死に努力しているからなのだよ。地道に努力を続け、信用をつけ、お金もためて、苦労を重ねた結果、財を築き、人生を思うように生きているのだよ。とはいえ、すべてが思うようになるわけではないのだよ。うまく行かないことだってあるのだ。それは誰にも避けられないことなのだよ。
人はね、思うようにならないからこそ、努力を重ねるのだよ。その努力を怠っていたら、思うようにならないのは当然だ。」
ビナーヤは、ガックリと肩を落とした。
「結局、俺が悪いんですね。わかってました。単に俺はわがままなんだと。ただ、認めたくなかっただけです。せっかちで、怠け者で、わがままで、どうしようもない人間だとわかっていました。何もかも人のせいにして、自分を変えようと努力しなかった俺が悪いんです。」
「私もそうだ、ビナーヤ。私も意地を張っていただけだ。私が悪いと、言いたくなかっただけなんだ。お前のことよりも世間体をとってしまった私が悪いのだ。」
「私もそうよ。みんな私のせいにしてと、ひがんでいただけなの。もう死ぬしかない、と悲観していただけなの。あきらめてしまった私も悪いのよ。」
「そこまでわかったなら、私には何も言うことはない。さぁ、三人で再出発だ。一緒に家に帰って、二度と同じ過ちをしないようにしなさい。さぁ、行くがよい。」
お釈迦様は、そういうと優しく微笑んで三人の親子を見送ったのであった・・・・。


こういう物語を読むと、
「ビナーヤって、バカだよねぇ。自分が悪いにきまってるじゃん。だいたい、わがままなんだよ。まあねぇ、そのように育ててしまった両親が悪いね。この親子、ホントどうしようもないよ。」
と思う方が多いのではないでしょうか。
確かに、ビナーヤ親子は愚か者です。思い通りにならないからって、暴れるとはね。子供過ぎますよね。大人になれてないんですね。また、そういう子供にしてしまった親も悪いでしょう。幼いころから、何でも要求どおりに与えるのではなく、努力することを教えないといけません。
そう、こうやって物語を読んでいると、よくわかるんです。他人事だから・・・・。

さてさて、では、あなた自身はどうなのでしょうか?。ビナーヤ親子のようなことはしてませんか?。自信を持って、
「私はこんな愚かなことはしていない。」
と言えますか?。思い通りにならに、うまくいかないからといって、怒ったり、暴れたりしてませんか?。まあ、暴れることはないと思いますが、悲観したりはするんじゃないですか?。
「あぁ、あたしって何をやってもダメだわ・・・・メソメソ・・・・。」
「あぁ、ちっとも恋愛がうまくいかない。私はもう結婚なんてできないんだわ・・・シクシク・・・。」
って毎晩泣いてません?。
あるいは、
「あぁ〜、もうコンチクショー!、キー!。」
とかいって、友達や部屋においてあるものに八つ当たりしてません?。大きなウサギのぬいぐるみとか殴ってませんか?。そういう人は、ビナーヤのこと、笑えませんよ。根っこは同じですからね。

思い通りにならない、うまくいかない、ということは、世の中多々ありますよね。むしろ、うまくいかないことのほうが多いでしょう。思い通りにならないことのほうがたくさんありますよね。世の中そんなものです。
なのに、人はうまくいかないと悲観したり、嘆いたり、八つ当たりしたり、暴れたりするんですね。み〜んな人のせいにしてね。
「こうなったのは、アイツのせいだわ。」
「私は悪くないのに、なんでこうなるの。」
な〜んて自分の責任は棚に上げてしまうんですね。

ちょっとよく考えてください。今までの経緯を振り返ってみてください。なぜうまくいかなかったのか、なぜ思うようにならなったのか。
どうですか?。自分が悪いこともあるのではないですか?。
「あ〜、あそこだ、あそこでもう少し努力していれば!。」
「あ〜、あの一言を言わなきゃよかったんだ。あの一言が・・・。」
「そうか、私の方向性が間違っていたんだ。結局は私の方針が間違っていたんだ。」
ってことはないですか?。
一欠けらも自分の責任はない、と言い切れますか?。言い切れないでしょ。なのに、人は、うまくいかない、思い通りにならないと、悲観したり、怒ったり、八つ当たりをしたりするんですね。で、自分は悪くない!、と言い張る。愚かなことです。
もちろん、中には本当に自分が悪くないのに、被害を被ることもあります。通り魔にあったりとか、急いでいるのに列車が人身事故で止まって遅れてしまったとか。そういう不可抗力もあります。
しかし、今問題にしているのは、そういう突発的なことではなくて、普段の生活での悩み事や、躓き、のことです。普段の生活上での思い通りに行かないこと、うまくいかないことを問うているのですよ。

さて、どうでしょうか?。あなたは、思い通りにいかなかったり、うまくいかなかったりすると、嘆いたり、悲観したり、怒ったり、八つ当たりしたりしていませんか?。うまくいかないことを他人のせいにしていませんか?。
それは、周りの人間から見たら、大変愚かなことなのですよ。そう、ビナーヤ親子のようにね。
合掌。




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