希望の力

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第3章 過去の思い出

第一話 豊錐の過去

「過去を変えたい」
豊錐は一人でつぶやいた。
「あれから何年経ったんだろう」
豊錐は空を見ながら過去のことを思い出した。

豊錐の妹が生まれたのは約十年ぐらい前だった。それからしばらくたった時のこと、豊錐は妹と遊んでいた。
「豊錐、朝子(ともこ)のこと頼んだわよ」
豊錐がそれにうなずく。そして豊錐は、朝子とベランダで遊んでいた。
「朝子、ちょっと大人しくしててな」
豊錐は台所にお菓子を取りに行った。そのときだった、豊錐は大人しくしろといったのだが、言うことを聞かずに朝子はベランダにおいてあったダンボールの上に乗って遊んでいた。そして豊錐がお菓子を持ってきたときに朝子は、頭を下にして落ちた。
「おい朝子、大丈夫か」
朝子は泣こうともしない。豊錐はいやな予感がした。すぐに豊錐は
「お母さん。朝子がおかしい」
慌てて豊錐の母は料理を止めて駆けつけた。
「豊錐どうしたの」
「朝子がおかしい、頭打ったみたい」
「朝子」
豊錐の母が呼ぶ
「救急車呼んだほうがいい」
「豊錐朝子を見ていて」
「解った」
それからすぐに救急車を呼んだが、朝子は二週間後に帰らぬ人となった。

 朝子が死んでから五日後
「僕のせいだ」
豊錐はそう叫んだ。
「僕がいなければ朝子は……」
豊錐は廊下の塀を越えようとした。
「豊錐」
ちょうど、運悪く通った豊錐の母が豊錐を押さえた。
「豊錐、何でこんなことをしたの」
豊錐は逃げるように体をおかしながら
「僕が生きていたらまた誰かを殺してしまう」
母は、豊錐をたたき
「豊錐、名にいってるか解ってるの」
「当たり前のことを言っているだけだよ」
「豊錐いいかげんに」

そして、その夜に
「豊錐何故あんな事をしたんだ」
豊錐の父が言った。しかし豊錐は何も言わなかった。
「豊錐いい加減に」
豊錐を叩こうとした父を母が止め
「解った、言わなくて良いから」
いつもなら言うまで待つ母が珍しく豊錐をかばった。恐らくは、朝子がなくなってからそんなに時が経っていないからであろうと豊錐は思う事にした。そして悪いのはもう一人の自分だということにした。しかしそれが何人の人格を作る元になるとは思わなかった。このときを境に豊錐は多重人格になっていくのだった。

「お前が悪い」
豊錐はもう一人の自分に言った。
「お前のせいで朝子は」
豊錐はもう一人の自分になすりつけようとしている自分がおろかに思えた。
「都合の良いやつだな。だから僕は守れなかったのだ」
「くくく、ははは、はははははは、ははは……」
「…………………」
「何でいなくなるんだよ。何で僕だけ置いていなくなるんだ」
「僕にもっと力があれば」
「僕は本当に力が無いのか」
「合ったとしてもどうせ使えなかったら意味無かったんだ」
「あの時僕が死んでいれば良かったんだ」
「後はもう一人の僕が何とかしてくれる。だからもう起きる必要はない」
「もう一人の僕は」

「もう一人の僕はここにいますか。それとも……」
そう晴れた空に向かっていった。豊錐はいやな過去を忘れようと思いながらも、心の中に永遠に刻み込むのであった。

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