千葉県袖ヶ浦市の万葉歌碑
千葉県袖ヶ浦市(そでがうら)の郷土博物館の万葉植物園にある万葉歌碑を訪ねてきました(2012年11月)。
万葉集に歌われた馬来田(うまぐた)は、現在の木更津市や袖ヶ浦市を流れる小櫃川(おびつがわ)流域の広い地域のことだったようです(古くは、マクタ、マグタとも)。ここ袖ヶ浦の郷土博物館には万葉植物園があり、馬来田に関連する歌碑と万葉集に歌われた植物に関連する歌碑が置かれています。これらは、自然石に陶板を嵌め込んだ11基の歌碑ですが、その他に、万葉植物を詠った陶板製の説明パネルが多数あります。
下の写真は、万葉植物園の説明板です。ここには、万葉の時代を偲ばせる105種類の植物を集めて栽培されているとのことです。
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下の写真は、万葉植物園の一部です。上の地図の中央から少し左下の小道入り口の辺りから撮ったものです。下の写真の左側手前からの路の先に下の万葉歌碑1が小さく見えています。また、その周りに説明パネルが幾つか見えています。
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以下に、各歌碑を紹介します。この順序は、田村泰秀氏の「萬葉千八百碑」に記載されている順序にしてあります。
万葉歌碑 1 「馬来田」
袖ヶ浦辺りの昔の地名である馬来田が詠まれている歌です。万葉集に歌われた馬来田(うまぐた)は、現在の袖ヶ浦市や木更津市を流れる小櫃川(おびつがわ)流域の広い地域のことだったようで、古くは、マクタ、マグタとも呼ばれたとのことです。
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馬来田(うまぐた)の 嶺(ね)ろの小竹(ささ)葉の 露霜(つゆしも)の 濡(ぬ)れてわきなば 汝(な)は恋ふばそも (巻14-3382) ← 歌をクリックすると注釈へジャンプします。
(作者) 未詳
(大意) 馬来田(うまぐた)の嶺のささ葉についた露霜に濡れながら来たのは、あなたが恋しいからなのだ。
万葉歌碑 2 「むろのき」
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鞆(とも)の浦の 磯のむろの木 見むごとに 相(あひ)見し妹(いも)は 忘れえめやも (巻3-447) ← 歌をクリックすると注釈へジャンプします。
(作者) 大伴旅人(おおとものたびと)
(大意) 鞆の浦の磯に生えたむろの木を見るたびに、一緒に見た妻を忘れることはないだろう。
この歌は、旅人が太宰府での任を終え京都に戻るときに、赴任先で亡くなった妻を想い読んだ歌です。
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歌にある「むろの木」は、ヒノキ科の常緑樹で、現在のネズの木 だそうです。上の写真の歌碑の右後にある樹です。
万葉歌碑 3 「ほうのき」
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わが背子(せこ)が 捧(ささ)げて持てる ほほがしは あたかも似るか 青き蓋(きぬがさ)(巻19-4204) ← 歌をクリックすると注釈へジャンプします。
(作者) 僧恵行
(大意) わが君が持っているホオノキは、青いキヌガサ(絹を張った笠)に実によく似ているなあ。
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「ほほがしは」は、ホオノキ(朴の木) です。現在も、別名でホオガシワといわれます。とても大きな葉が輪生状(放射状)についている特徴的な形をしています。葉の様子はトチノキに似ていますが、トチノキとは違い、葉の縁は滑らかです。上の写真に、大変わかりづらいのですがホオノキが写っています。歌碑の側にある樹で、葉は枯れ始めています。幹の中程から左に出ている枝にしなびた大きな葉がついていることが分かるかと思います。
万葉歌碑 4 「やまぶき」
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山吹(やまぶき)は 日(ひ)に日(ひ)に咲きぬ 愛(うるは)しと 我(あ)が思(も)ふ君は しくしく思(おも)ほゆ(巻17-3974) ← 歌をクリックすると注釈へジャンプします。
(作者) 大伴池主(おほとものいけぬし)
(大意) 山吹は日に日に咲きます。立派な方と私が思慕する貴方様のことがしきりに思われます。
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やまぶき は4〜5月に黄色の花をつけます。やまぶきは昔から愛されてきた花で、山吹を詠った歌が万葉集にも17首あるのだそうです。
万葉歌碑 5 「まつ」
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磐代(いはしろ)の 浜松が枝(え)を 引き結び ま幸(さき)くあらば また還り見む(巻2-141) ← 歌をクリックすると注釈へジャンプします。
(作者) 有間皇子(ありまのみこ)
(大意) 磐代の浜松の枝を結び無事を祈るが、もし命があったら再び帰り路でこれを見るだろう。
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上の写真は少し引いて撮ったものです。松の種類の知識が乏しいため、なんという松か分かりませんでした。
万葉歌碑 6 「もも」
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春の苑(その) 紅(くれなゐ)にほふ 桃(もも)の花 下照(したで)る道に 出で立つ少女(をとめ)(巻19-4139) ← 歌をクリックすると注釈へジャンプします。
(作者) 大伴家持
(大意) 春の苑は紅にかがやいている。桃の花の色で赤く輝く道に出で立つ少女よ。
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万葉集には、ももを詠んだ歌が7首あるようです。上の写真には、「紅(くれなゐ)にほふ」とは全く異なる、ほとんどの葉が落ちてしまった寂しいモモの木が写っています。
万葉歌碑 7 「まゆみ」
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南淵(みなぶち)の 細川山に 立つ檀(まゆみ) 弓束(ゆづか)纏(ま)くまで 人に知らえじ(巻7-1330) ← 歌をクリックすると注釈へジャンプします。
(作者) 未詳
(大意) 二人だけで寄り添って会えるまでは、知られないようにしよう。
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この歌には、マユミが出てきますが、「立つ檀(まゆみ)」までの上三句は、「弓束(ゆづか)」の「弓」を出すための序の詞になっています。なお、上の写真の歌碑の後方に見える細い木がマユミです。夏には、かわいい小さな角ばった実ができ、秋には色づきます。
万葉歌碑 8 「にわとこ」
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君が行き 日(け)長くなりぬ 山(やま)たづの 迎へを行かむ 待つには待たじ (巻2-90) ← 歌をクリックすると注釈へジャンプします。
(作者) 軽太郎女(別名、衣通王)
(大意) あなたがお出かけになってから日数が経ちました。迎へに行きましょう。待ってなどいられません。
「山(やま)たづの」までの上三句は、「迎ヘ」に掛かる枕詞です。「やまたづ」は現在のスイカヅラ科の ニワトコです。
万葉歌碑 9 「ふじ」
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藤波(ふぢなみ)の 花は盛りに なりにけり 奈良の都を 思ほすや君 (巻3-330) ← 歌をクリックすると注釈へジャンプします。
(作者) 防人司佑(さきもりのつかさのすけ)大伴四綱(おほとものよつな)
(大意) 藤の花が波うって盛りになったなあ。奈良の都を思い出していらっしゃるのでしょうか。貴方は。
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上の写真は少し引いて藤棚を写したものです。
万葉歌碑 10 「やなぎ」
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浅緑(あさみどり) 染め懸(か)けたりと 見るまでに 春の楊(やなぎ)は 萌えにけるかも (巻10-1847) ← 歌をクリックすると注釈へジャンプします。
(作者) 未詳
(大意) 浅緑に染めて木に懸けたのかと見まごうほど、春の楊が芽吹いているなあ。
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歌碑の横の木は、シダレヤナギです。
万葉歌碑 11 「ゆずりは」
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古(いにしへ)に 恋ふる鳥かも 弓弦葉(ゆづるは)の 御井(みゐ)の上(うへ)より 鳴き渡り行く (巻2-111) ← 歌をクリックすると注釈へジャンプします。
(作者) 弓削皇子(ゆげのみこ)
(大意) 昔を恋うる鳥だろうか。ユズリハの御井の上を鳴き渡って行くなあ。
この歌は、弓削皇子が額田王に贈った歌で、亡き天武天皇を偲んでの「鳥」についての相聞歌の一首です。「御井(みゐ)」とは吉野の聖泉のことらしい。ユズリハは昔は「ゆづるは」と呼ばれたのですね。
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上の写真では、歌碑の左横にユズリハがあります。
所在地と行き方
千葉県袖ヶ浦市下新田1133が郷土博物館の住所です。袖ケ浦公園の近くにあります。下の地図のマークのあたりが万葉植物園です。
電車を使う場合は、JR内房線の袖ヶ浦駅からバスに乗り、袖ケ浦公園で下車します。車の場合は、館山道の姉崎袖ケ浦IC、又は、東京湾アクアライン連絡道の袖ヶ浦ICを降りて袖ヶ浦公園を目指し、公園の駐車場に車を停めるのがよいでしょう。