香川県坂出市沙弥島万葉樹木園の万葉歌碑
坂出市から瀬戸大橋が海に出ていく丁度その下の辺りに、沙弥島(しゃみじま)があります。昔は島だったのですが、今は埋め立てにより陸続きになったそうです。ここに柿本人麿の記念碑、歌碑、又、いくつかの遺跡があります。地元の小中学校では、植樹、沙弥島のガイドブック作りなど沙弥島の遺跡の紹介に相当力を入れてきたことが伺われます。
この沙弥島のナカンダの浜にある万葉樹木園(こども樹木園)には、万葉集に詠われた樹木にちなんだたくさんの歌碑があります。なお、下の写真は、万葉樹木園の説明碑です。
この万葉樹木園に置かれている歌碑は、下の写真のように、上の説明碑と同様、約30cm角の角柱に歌を刻んだの陶板を取り付けた形をしています。全部で49基あるそうです。私は、歩きながら一通り見たものの、一つ一つの写真は撮りませんでした。そのため、写真の下に、故田村泰秀氏の「萬葉千八百首」に書かれてある順に、各首の読み下し文と大意のみ記します。
万葉樹木園の万葉歌碑の歌
道の辺(へ)の いちしの花の いちしろく 人皆知りぬ 我が恋妻(こひづま)を (#11-2480) ← 歌をクリックすると注釈へジャンプします。
(大意) 道のほとりのいちしの花のように、はっきりと人は皆知ってしまった。私の恋妻を。
わが背子(せこ)が 捧(ささ)げて持てる ほほがしは あたかも似るか 青き蓋(きぬがさ)(巻19-4204) ← 歌をクリックすると注釈へジャンプします。
(大意) わが君が持っているホホガシハは、青いキヌガサに実によく似ているなあ。
紅(くれなゐ)は うつろふものそ 橡(つるはみ)の 馴(な)れにし衣(きぬ)に なほ及(し)かめやも(巻18-4109) ← 歌をクリックすると注釈へジャンプします。
(大意) 美しい紅の色は消えやすいものです。ツルバミの色に染めた地味な衣(連れ添った妻)には、やはり及ぶものではありません。
向(むか)つ岡(を)の 若桂(わかかつら)の木 下枝(しづえ)取り 花待つい間(ま)に 嘆きつるかも (巻7-1359) ← 歌をクリックすると注釈へジャンプします。
(大意) 向いの岡の若い桂の木の下枝を手に取り、花が咲くのを待っている間に、何度もため息が出たなあ。
古(いにしへ)に 恋ふる鳥かも 弓弦葉(ゆづるは)の 御井(みゐ)の上(うへ)より 鳴き渡り行く (巻2-111) ← 歌をクリックすると注釈へジャンプします。
(大意) 昔を恋うる鳥だろうか。弓弦葉の御井の上を鳴き渡って行くなあ。
山の際(ま)に 雪は降りつつ しかすがに この河楊(かはやぎ)は 萌(も)えにけるかも (巻10-1848) ← 歌をクリックすると注釈へジャンプします。
(大意) 山の間にはまだ雪が降っているが、さすがにこの川の柳はもう芽をふいたなあ。
ぬばたまの 夜(よ)の更(ふ)けぬれば 久木(ひさき)生(お)ふる 清き川原に 千鳥しば鳴く (巻6-925) ← 歌をクリックすると注釈へジャンプします。
(大意) ぬばたまの夜が更けてしまうと、久木の生える清き川原に千鳥がしきりに鳴くなあ。
足乳ねの 母がそれ養(か)ふ 桑(くはこ)すら 願(ねが)へば衣(きぬ)に 着(け)すといふものを (巻7-1357) ← 歌をクリックすると注釈へジャンプします。
(大意) 母が大事に飼っている蚕でさえも、願えば衣にして着せてくれるというのに(何故あなたは思うようにならないのでしょう)。
三栗(みつくり)の 那賀(なか)に向へる 曝井(さらしゐ)の 絶えず通(かよ)はむ そこに妻もが (巻9-1745) ← 歌をクリックすると注釈へジャンプします。
(大意) 那賀に向きあっている曝井の水が絶えないように、絶えず通ってこよう。そこに妻になる人がいて欲しい。
ひさかたの 天(あま)の原(はら)より 生(あ)れ来(きた)る 神の命(みこと) 奥山の 賢木(さかき)の枝に 白香(しらか)つけ 木綿(ゆふ)とり付けて 斎瓮(いはひべ)を 斎(いは)ひほり据(す)ゑ 竹玉(たかだま)を 繁(しじ)に貫(ぬ)き垂(た)れ 鹿猪(しし)じもの 膝(ひざ)折り伏して 手弱女(たわやめ)の おすひ取り懸(か)け かくだにも われは祈(こ)ひなむ 君に逢はぬかも (巻3-379) ← 歌をクリックすると注釈へジャンプします。
(大意) 久方の天から生まれてきた神よ。奥山の榊(さかき)の枝に白香をつけ、木綿(ゆふ)の幣をとりつけ、酒を入れるかめを土を掘って据えて、竹玉をたくさん貫き通し、鹿や猪のように膝を折って伏して、女の衣を上に掛けて、このようにして私はお祈りしましょう。あの方にお会いできないでしょうか。
磐代(いはしろ)の 浜松が枝(え)を 引き結び ま幸(さき)くあらば また還り見む (巻2-141) ← 歌をクリックすると注釈へジャンプします。
(大意) 磐代の浜松の枝を結び無事を祈るが、もし命があったら再び帰り路でこれを見るだろう。
わが園の 李(すもも)の花か 庭に降る はだれのいまだ 残りたるかも(巻19-4140) ← 歌をクリックすると注釈へジャンプします。
(大意) わが家の庭の李の花だろうか。それとも、庭に降った雪が残ったものだろうか。
秋さらば 妹に見せむと 植ゑし萩(はぎ) 露霜(つゆしも)負(お)ひて 散りにけるかも (巻10-2127) ← 歌をクリックすると注釈へジャンプします。
(大意) 秋になったならば妻にみせようと思って植えた萩なのに、露霜が降りて散ってしまったなあ。
梅の花 今盛りなり 百鳥(ももとり)の 声の恋(こほ)しき 春来たるらし (巻5-834) ← 歌をクリックすると注釈へジャンプします。
(大意) 梅の花は今を盛りに咲いている。沢山の鳥の声が恋しい春がやってきたようだ。
(大意) 白雲のたつ龍田山が露や霜に色づく時に、山を越えて旅行くあなたは、重なり合う山々を踏み分けて進み、防衛に当たる筑紫に至り、山の果て、野の果てまでも監視するように部下の兵士を遣わし、やまびこが答える果てまでも、ヒキガエルが渡り歩く果てまでも国の状況をご覧になり、冬が終わり春になったならば、飛ぶ鳥のように早く帰っておいでなさい。龍田道の岡の辺りの道に真っ赤なつつじの映えるときに、桜の花が咲くときに、山たづのようにお出迎えいたしましょう。あなたがお帰りになるときは。
朝霧の たなびく田居(たゐ)に 鳴く雁(かり)を 留(とど)め得むかも わがやどの萩 (巻19-4224) ← 歌をクリックすると注釈へジャンプします。
(大意) 朝霧のたなびいている田で鳴いている雁を留めておくことができるだろうか。わが家の萩は。
昼は咲き 夜は恋ひ寝(ぬ)る 合歓木(ねぶ)の花(はな) 君のみ見めや 戯奴(わけ)さへに見よ (巻8-1461) ← 歌をクリックすると注釈へジャンプします。
(大意) 昼は花開き夜は慕いあって寝る合歓木の花を、主君(私)だけが見ていてよいのでしょうか。お前も見なさい。
夕(ゆふ)されば 床(とこ)の辺(へ)去らぬ 黄楊(つげ)枕(まくら) 何(いつ)しかと汝(な)は 主(ぬし)待ちがてに(巻11-2503) ← 歌をクリックすると注釈へジャンプします。
(大意) 夕方になると床の辺りを離れない黄楊の枕よ。なぜお前は、早く来ないかと主をまちがてにしているのか。
わがやどに 黄変(もみ)つ鶏冠木(かへるで) 見るごとに 妹を懸(か)けつつ 恋ひぬ日はなし (巻8-1623) ← 歌をクリックすると注釈へジャンプします。
(大意) わが家の黄葉したカエデを見るたびに、あなたのことが心にかかり、恋しく思わない日はありません。
かはづ鳴く 甘南備(かむなび)川に 影見えて 今か咲くらむ 山吹(やまぶき)の花 (巻8-1435) ← 歌をクリックすると注釈へジャンプします。
(大意) かはづが鳴く甘南備川に影を映して、今頃咲いているだろうか、山吹の花は。
君なくは なぞ身装(よそ)はむ 櫛笥(くしげ)なる 黄楊(つげ)の小櫛(をくし)も 取らむとも思はず(巻9-1777) ← 歌をクリックすると注釈へジャンプします。
(大意) あなたがいらっしゃらなければ、どうして身を装うことなどいたしましょう。櫛笥にあるつげの小櫛も手に取ろうとは思いません。
妹が見し 楝(あふち)の花は 散りぬべし わが泣く涙 いまだ干(ひ)なくに (巻5-798) ← 歌をクリックすると注釈へジャンプします。
(大意) 妻が見た楝の花は今まさに散りそうだ。私の涙はいまだ乾かないのに。
わが門(かど)の 榎(え)の実もり食(は)む 百千鳥(ももちとり) 千鳥(ちとり)は来(く)れど 君(きみ)そ来(き)まさぬ (巻16-3872) ← 歌をクリックすると注釈へジャンプします。
(大意) わが家の榎の実を食べるたくさんの鳥。たくさんの鳥は来るのに貴方は来てくださらない。
橘(たちばな)は 実さへ花さへ その葉さへ 枝(え)に霜降れど いや常葉(とこは)の木 (巻6-1009) ← 歌をクリックすると注釈へジャンプします。
(大意) 橘は実さへも、花さへも、その葉さへも、枝に霜が降っても益々栄える常緑の木である。
いかにあらむ 日の時にかも 声知らむ 人の膝(ひざ)の上(へ) わが枕(まくら)かむ (巻5-810) ← 歌をクリックすると注釈へジャンプします。
(大意) どのようないつの日に、音楽を理解するひとの膝の上に枕することができるのでしょう。
枳(からたち)の 棘原(うばら)刈り除(そ)け 倉立てむ 屎(くそ)遠くまれ 櫛(くし)造る刀自(とじ) (巻16-3832) ← 歌をクリックすると注釈へジャンプします。
(大意) からたちを刈り払って倉を建てよう。屎は遠くにしてくれ。櫛を造るおばさんよ。
稲見野(いなみの)の 赤(あか)ら柏(がしは)は 時はあれど 君をあが思(も)ふ 時はさねなし (巻20-4301) ← 歌をクリックすると注釈へジャンプします。
(大意) 稲見野の赤ら柏が色づくのは時期が決まっているが、わが君を私がお慕いする気持はあが思(も)ふ 時はさねなし。
水伝(みなつた)ふ 磯(いそ)の浦廻(うらみ)の 石上(いそ)つつじ 茂(も)く開(さ)く道を またも見なむかも (巻2-185) ← 歌をクリックすると注釈へジャンプします。
(大意) 水の寄せる磯の水際(みぎわ)に生えている磯つつじが茂って咲いている道を再び見ることがあるだろうか。
見渡せば 春日(かすが)の野辺(のへ)に 霞(かすみ)立ち 咲きにほへるは 桜花(さくらばな)かも (巻10-1872) ← 歌をクリックすると注釈へジャンプします。
(大意) 見渡してみると、春日の野辺に霞が立ち、咲きにおっているのは桜花だなあ。
たこの浦の 底さへにほふ 藤波(ふぢなみ)を かざして行かむ 見ぬ人のため (巻19-4200) ← 歌をクリックすると注釈へジャンプします。
(大意) たこの浦の底までも美しく輝く藤の花を髪にかざして行こう。この景色を見ない人のために。
何時(いつ)の間(ま)も 神(かむ)さびけるか 香具山(かぐやま)の 桙杉(ほこすぎ)が本(もと)に 薜(こけ)生(む)すまでに (巻3-259) ← 歌をクリックすると注釈へジャンプします。
(大意) いつの間にかこれほど神々しくなったのだろうか。香具山の桙のような形の杉の根本に苔が生えるほどに。
(大意) 食物としての蟹の身になって、その苦しみを詠っている。
紫陽花(あぢさゐ)の 八重(やへ)咲くごとく やつ代(よ)にを いませわが背子(せこ) 見つつ偲(しの)はむ (巻20-4448) ← 歌をクリックすると注釈へジャンプします。
(大意) 紫陽花が八重に咲くように、長く生きて下さい。貴方。私はその立派さみながらお慕いしましょう。
(大意) 食物としての蟹の身になって、その苦しみを詠っている。
離磯(はなれそ)に 立てるむろの木 うたがたも 久しき時を 過ぎにけるかも (巻15-3600) ← 歌をクリックすると注釈へジャンプします。
(大意) 離れ島の磯に立っているむろの木よ。実に久しい歳月を経てきたのだなあ。
春過ぎて 夏来(きた)るらし 白栲(しろたへ)の 衣(ころも)干(ほ)したり 天(あま)の香具山 (巻1-28) ← 歌をクリックすると注釈へジャンプします。
(大意) 春が過ぎて夏がやってきたらしい。白色の衣を干していますよ。天の香具山は。
春されば まづ三枝(さきくさ)の 幸(さき)くあらば 後(のち)にも逢はむ な恋ひそ吾妹(わぎも) (巻10-1895) ← 歌をクリックすると注釈へジャンプします。
(大意) 春になると真っ先に咲く三枝のように、無事で命が長らえていれば後にあうこともあろう。恋に苦しむなよ。吾妹よ。
卯の花の 過ぎば惜しみか ほととぎす 雨間(あまま)もおかず 此間(こ)ゆ鳴き渡る (巻8-1491) ← 歌をクリックすると注釈へジャンプします。
(大意) 卯の花のときが過ぎたら惜しいと思ってか、ほととぎすが雨の間も絶えず此の辺りを鳴き渡っている。
(大意) 父上や母上が、おろそかに思うような子供で我々はありえるのだろうか(そのようなことはない)。だから、ますらおは空しく生きてはいけない。梓弓の末を振り起し、投矢を持ちと置くまで飛ばし、剣大刀を腰に取りつけ多くの山々を踏み越え、任じられた御心に添って、後世の人々ガ語り継ぐように立派な名をあげるべきである。
あしひきの 山道(やまぢ)も知らず 白橿(しらかし)の 枝もとををに 雪の降れれば (巻10-2315) ← 歌をクリックすると注釈へジャンプします。
(大意) 山道が分からないほどだ。白橿の枝がたわわに雪が降っているので。
磯(いそ)の上(うへ)に 生(お)ふる馬酔木(あしび)を 手折(たを)らめど 見(み)すべき君が ありと言はなくに (巻2-166) ← 歌をクリックすると注釈へジャンプします。
(大意) 岸のほとりに咲く馬酔木を手折ろうと思うのだが、それを見せたい弟がこの世にいるとは誰も言ってくれないのです。
たちかはり 古き都と なりぬれば 道の芝草(しばくさ) 長く生(お)ひにけり (巻6-1048) ← 歌をクリックすると注釈へジャンプします。
(大意) 昔と変わって古い都となってしまったので、道の芝草長く生い茂ってしまったなあ。
とく来ても 見てましものを 山背(やましろ)の 高(たか)の槻群(つきむら) 散りにけるかも (巻3-277) ← 歌をクリックすると注釈へジャンプします。
(大意) もっと早くに来て見ておけばよかった。山背の多賀のケヤキの木々が散ってしまったなあ。
わが門(かど)の 片山椿(かたやまつばき) まこと汝(な)れ 我が手触(ふ)れなな 土に落ちもかも (巻20-4418) ← 歌をクリックすると注釈へジャンプします。
(大意) わが家の門の片山椿よ。本当にお前は私の手が触れなくても土に落ちてしまうのだろうか。
あしひきの 山橘の 色に出でよ 語(かた)らひ継ぎて 逢ふこともあらむ (巻4-669) ← 歌をクリックすると注釈へジャンプします。
(大意) あしひきの山橘の色のように、気持ちを表に出してください。そうすれば、言葉を交わし続けているうちに逢うこともあるでしょう。
(大意) 父上や母上が、おろそかに思うような子供で我々はありえるのだろうか(そのようなことはない)。だから、ますらおは空しく生きてはいけない。梓弓の末を振り起し、投矢を持ちと置くまで飛ばし、剣大刀を腰に取りつけ多くの山々を踏み越え、任じられた御心に添って、後世の人々が語り継ぐように立派な名をあげるべきである。
磯(いそ)の上(うえ)の つままを見れば 根を延(は)へて 年深からし 神(かむ)さびにけり (巻19-4159) ← 歌をクリックすると注釈へジャンプします。
(大意) 磯の上のつままを見ると、根を長く延ばして何年も経っているらしく、神々しい様子だなあ。
往(ゆ)く川の 過ぎにし人の 手折(たを)らねば うらぶれ立てり 三輪(みわ)の檜原(ひばら)は (巻7-1119) ← 歌をクリックすると注釈へジャンプします。
(大意) 流れ行く川のように去っていった人が手折らなかったので、三輪の檜原がさびしげに立っている。
道の辺(へ)の 茨(うまら)の末(うれ)に 延(は)ほ豆(まめ)の からまる君を 別(はか)れか行(ゆ)かむ (巻20-4352) ← 歌をクリックすると注釈へジャンプします。
(大意) 道のほとりのいばらの先に這いつく豆のように、からみつく貴女を置いて別れて行くのだろうか。
所在地
香川県坂出市沙弥島 ナカンダ浜 (→地図のマークの辺り)
行き方
沙弥島へは、香川県坂出市駅前からバス、乗り合いタクシー等でいけます。しかし、本数が非常に少ないため、時刻表をよく調べてから出かける必要があります。なお、沙弥島には県営東山魁夷せとうち美術館もあります。