塔矢────
そう長い時間ではないが、考え込んでしまったようだ。
自分の思考に陥っていたボクは、進藤に呼びかけられてもすぐには気づかなかった。
「塔矢」
「……………」
「…塔矢…?」
「あ……? すまない、ちょっと考え事を…」
「なに?」
考えまいとしてもやはり気になってしまう。
やりかけた事を途中で中断するという事がボクには出来ない。
何かとても大切なものと繋がっている気がするのだ。
確信の持てない事なのにこだわりが解けない。
曖昧すぎてこんな事を言っていいものかと思う。だが何も言わなければその事の方を進藤は気にするんじゃないか。
そして尋ねられれば馬鹿正直にボクは答えてしまうのだ。
「以前キミと話した事を思い出して…」
「? オレ何か言った?」
「…虹の話…かな…」
彼から何かを聞き出そうとか、そんなつもりはまったくなかったけれど、やはり自分の気持ちの中にはどこか後ろめたいような退けるものがあった。
そのせいだろう…進藤が察してくれるのを期待するような言い方をしてしまった。
空も海も薄淡いベールを纏ったように見える。
境目も何もなく一つに繋がっているように感じられる。
ちょうどここから視界に入る位置に、三角状に開いた河口が見えていた。
ボクらが車から降り立ったときよりも海岸線が迫って来ている様で、
満潮が近いのかもしれなかった。
進藤の髪も頬も薄赤く染まっている。
パレットから取りだした色を、吹き付けたみたいで…
ボクも彼からはこんな風にみえるのだろう。
「あ…」
何かに思いあたったように進藤が小さく声をあげた。
空気が動く。
進藤の動揺がつたわる。
戸惑うように揺れていた瞳が一瞬大きく見開かれ、
そのまま視線はゆっくりと足下に落とされた。
「好きじゃないと言ってただろ…」
「…………」
「ああいう物言いは珍しかったから、ずっと気になっていた。」
「別に深い意味があったわけじゃねーよ。」
進藤は居心地が悪そうにしている。
深い意味は無いと言いながら、この話題に触れる事を嫌がっているようだった。
ボクは進藤から何かを引き出したいわけじゃない。
追いつめたいわけでもない。
だから言葉を選び、自分の気持ちだけを静かに音にする。
「キミの放つ言葉の意味をいつも考えている。
重要な事も、そうでないかも知れない事でも、いつも気に留めてすぐ取り出せるようにしている。
これはもうずっとだよ…。ボクの習慣みたいになっている。
キミの言葉はバラバラに散らばしたパズルのピースみたいで、いつ繋ぎ合うものが出て来るかわからない。
だからその時に慌てないように…」
「おい……」
言葉を遮ろうとする進藤を無視しボクは続けた。
「…キミは謎の多い人だ。」
「塔矢…」
最後の一言は言わずもがなの事だった。
はじめは小さかった波が、次第に大きなうねりとなって寄せてくる。
身の内から湧き上がるものが止まらなくなり溢れ出しそうになる。
それを堪え、落ち着かせる。
そんな事を繰り返す。
何度でも繰り返す。今までと同じように。
この激情を収める術をボクは知らない。
たとえ表層が静かであろうとも、ボクの内にはいつも激しく荒れる嵐が在るのだ。
こんな感情もいつかは静まる日が来るのだろうか。
知りたいと思う気持ち、明らかにしたいという欲求。
無理強いしてはいけないと諫める心。
明かにされない謎に対する想いは、様々な感情が複雑に絡み合った状態でボクの中に深く根を張っていた。
それは…もうずっと長い時間をかけて…
それでも…
海嘯の低い響きを体で感じながらボクは堪えるしかないと知ってもいたのだ。
Drive.4
2003.02.14.up
Sentence Sayumi-Watayuki
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