Drive AKIRA SIDE

Drive 7


どうしてそんな事を…… 何故そんな事を口に出したのか。
明瞭な理由のない、漠然とした不安。
儚い物虚いやすい物を遠ざけたいと願う心理が 知らずに働いて、
進藤にこんな事を言わせてしまうのだろうか。
それが現実にいるボクに対してまで、そういう思いを向けさせるのか。
でもボクはそうじゃない。そういうのじゃない。


時として進藤の思考や行動がボクの理解を超えていても、 彼が落としたものをボクは拾い上げ、確かめずにはいられない。
それが何であるのか見極めたいと思うからだ。


落とされた物は進藤の一部分だ。
それはカタチすらない、感情という代物。
剥がれ落ちたそれには、怖れと不安が入り混じっている。
それが今日はボクの前に落とされた。



「そんなことしない!」


咄嗟にでた声は、苛立ちと怒気をも含んでいた。
ボクの不快さは進藤に伝わっているだろう。それもかまわないと思った。
わざわざ隠す必要もない事だ。


「そんなことするわけがない。
お互いが存在する限り、ボク達はこれからもずっと打ち続ける。
そうありたいと、ボクは本心から思っている。
でもキミは…違うのか?そうじゃないのか? 」

「思ってるよ。オレだって ! ! そのための努力だってする。
そうする事なんてあたりまえで…普通の事だ。だけどさ…オレは…!!」



今の彼には饒舌さなんかまるで無くて、途切れ途切れの言葉が続くだけだ。
それなのに、ボクには口を挟む事も出来ない。
黙って聞いているだけなのがもどかしい。



「お前怒ってるんだろ。オレがわけのわからない事ばかり言うから。
なんか、上手く言えないけど、得体の知れないものがこの…」


そう言って心臓の上あたりを拳で二・三度軽く突いた。


「この中にある。いつも確かめていないと、どうしようもなく気持ちが焦る…」

「替わりなのか?………」

「え……?」

「そういう事なんだろう?今日のこれもそうなんだろう?
だから誘うんだね。ボクと一緒にいる事で…」

「………」

「何かの穴を、ボクで埋めようとしているんだろう。」

「そっ、そんなこと…」

「あるだろう?今日はそれが少し表に出ただけの事だ。
キミが何かに拘って、何かを背負っているのはわかるが、 それとボクに何か関わりでもあると言うのか?」

「………」



進藤の言う通りだ。
ボクはとても腹を立てている。でもこれは何に対しての怒りだろう。


進藤の抱えている『不安』の根元が何なのかは知らない。
聞けもしないし、教えられることもないから、ボクには知りようがない。
だからこそ腹立たしいのだ。
どういう事かを告げもしないで、ひとりで焦り狼狽えているキミが。
そういうキミがボクを苛立たせるのだと、わかっているのか?


これまでの彼の様子から推測すれば、 漠然とそれは『喪失』と呼ぶべき物なのだろうと感じてはいる。 彼にとってかけがえのない何かが、あの時期に失われてしまった事は確かなのだろう。 それゆえの怖れなのだとも。

だからといって。
なくすかもしれないからと脅えるのか。
いつ来るか来ないかも判らない未来に、縛られるようにして過ごすのか。


「キミはここにいるし、ボクもここにいる。」


彼の眼を見据えたまま一歩距離を詰め、進藤の左肘のあたりを掴んだ。
進藤は驚いて手を退こうとしたが、ボクは掴んだ腕を放さなかった。


「先の事なんて誰にも判らない。ボクもキミも知る術がない。
キミの不安がこの肉体を失う事を指すのなら、そんなの誰も逃れられない。
知りようのない先の事で心を乱すより、今向き合う時間を密度高く持つ方が、ボクには大切だ。

少なくともボクは明日のキミより、今、目の前にいるキミの方を優先する。
明日になれば、明日のキミを見つめる。
今を疎かにして先に繋げる事など出来ないんだ。」



自分の口から出る言葉が怒りだけの物なのか、他の感情が交じっているのかは、 よくわからない。とても冷静とは言えない心理状態でいたのは確かだった。
ボクが言葉を発している間中、進藤は顔を伏せ視線を合わせずにいた。
下がった前髪が顔を覆っているため、彼の表情はハッキリとは伺えない。


反論もせず黙ってボクの言う事を聞いている進藤だったが、 拳に力が込められているのは、掴んだ腕の衣服ごしに伝わってきていた。
やっと顔を上げた進藤は、からめ取られたままの腕と一緒に、もう一方の自由な腕を 持ち上げボクの両肩の上に拳を乗せた。
そのまま進藤に肩を掴まれ、体重を預けられた。 ずしりとした重みを感じるのと同時に、不意に襲ってきた緊張感にも耐えねばならなかった。


直接触れられた進藤の手は思っていたよりも大きい。 厚みがあり適度に固くて、がっちりとした感触だった。
進藤の動きに押されるように、ボクの手は肘を離れ下へ落ちた。
随分前に彼の手を取った時は、もっと丸くてコロコロとして、柔らかい印象だったのに。 そんな記憶が頭の何処かを通り過ぎた。


進藤は顔を上げたが、ボクの目を見つめたままで何も言わない。
ボクも目を逸らさず進藤の瞳を見返し続けた。
こういう時の視線というものは、ひどくお互いを刺すものなのだなと感じた。
肩を掴む力は一層強くなる。これは本気の力だ。痛いとは思ったが、
何も言うまいと口を閉じていた。



ようやく…



篭められていたいた力が緩められ、進藤が先に口を開いた。
緊張も解ける。


「お前、相変わらずおっかねぇ…」

「相変わらずって何だ。」

「いや、変んないなと思って。」

「ボクはいつも通りだ。無理に自分を変えたりはしない。」

「そうだな。そうだよな。」

「何だ……」

「ゴメン。さっきのお前がなんだか優しかったもんで、ちょっと気が弛んだんだな。
夕陽に炙られて頭も煮えてたな。何て言うか魔が差したみたいな気分だ。」

「一度口にした言葉を……」

「うん…。ナシになんかはしない。…何でだか聞く?」

「…聞けば話すのか。」

「…ああ…そうだよな。ゴメン。」

「何度も謝るな。」

「うん…ゴメン。」


またそう言うと、本当にすまなそうな顔をした。


「それなら、もう少し聞いてな…独り言だとでも思って…
オレは…一人で取り残されるのが怖いんだな…… ズルイのかも。
時々襲ってくるものに負けちまって、お前に頼ろうとする気持ちがどっかにあったんだ… あのさ、オレがお前と来たかった場所は、全部だって言ったけど、本当は何処でも良かったってわけじゃなくて…」

「……」

「オレが自分でも気づかず弱くなっていた時、お前の強さを分けてもらえる場所だったのかも。」

「強さ…?」

「お前は強い。そう思うよ。お前の強さは何より心の強さだ。
揺るぎもしないし、 拉げもしない。お前のそれはどこから来るんだろう。」

「そんな事は…自分でわかる事じゃない。」

「そうなのか?」

「キミだって、自分の事をまるでわかっていないじゃないか。」

「あ〜〜そうかな。そうかも。あきれた?」

「呆れたよ。」

「もう、コイツダメとか思う?」

「思うね。」

「う〜っお前マジだな、目も口調も怖ぇよ。」











「それでも……」

「うん?」

「キミが大切な事に、変わりはない。」











「…………そんな、恥ずかしい事を真顔で言うなよ…」











Drive.7
2003.05.26.up
Sentence Sayumi-Watayuki






Drive7は少し長いのですが、通してお読み頂きたく
分けずにUPしています。ちょっと長くてすみません。^^;