奥の部屋

  英語で悩んでいる人へ・・・

いわな流のヒントを考えてみました。
少しでも参考になれば幸いです。

いわなの英語へ



1.教材の徹底利用
2.シャドゥイング
.リプロダクション
4.ディクテーション
5.リスニング
6.ジェスチャー
7.サイト・トランスレイション
8.パラグラフ・サマリー
9.パラフレイズ
10.速読
11.几帳面もほどほどに
12.英検1級はまだ裾野(すその)
13.時間の作り方
14.目標
15.記憶力
16.年齢の壁
17.早期英語教育
18.日本人の英語
19.英語教師
20.英語のポライトネス



1.教材の徹底利用

リーディング教材の場合―例えばB5サイズ1枚程度の英文があるとする。これを勉強するとしたら、どのような方法があるだろうか。

 まずはざっと英文に目を通して、わからない単語をチェックし、辞書で意味を調べる。自分なりの訳をつける。わからない箇所に印をつけておく。

 学生なら学校の授業で、先生の説明を聞いて、自分の訳と照らし合わせ、疑問点を確認する。独習者なら、教材の解答を見て、訳例を読み、解説をチェックする。
 こまめな人は単語帳を作って、重要単語を記入する。

 しかし、これだけでは徹底利用したことにならない。内容を定着させるために更に次のことをやる:

1.英文のキー・ワードを抜き出す。
2.キー・ワードを見ながら内容を思い出し、日本語で内容を再生する。(この日本語は録音する)
3.録音した日本語を聞きながら、英語で内容を再生する。
4.メモを見ながら英語で内容を再生する。(この英語も録音する)
5.自分の英語とオリジナルの英語を比べる。
6.オリジナルの英語から、気に入った表現を抜きだし、表現リストを作る。
7.表現リストを暗唱する。

リスニング教材の場合―5分程度のインタビュー・テープがあるとする。これを勉強するとしたら、どういう方法が考えられるか。

 たいていの人は、原稿を見ながらテープを聞く。原稿を見ないでテープを聞く。数回音読する。単語の意味を確認する。訳をつける。重要表現を覚える。

 しかしこれだけでは不十分。更に次のことをやってみよう:

1.シャドゥイングする。
2.意味のまとまりごとにリプロダクションする。
3.英語を聞きながらメモとりし、逐語訳をする。
4.メモを見ながら、英語で内容を再生する。
5.英語を聞きながら日本語で同時通訳する。
6.インタビュイー(インタビューされている人)の発言の要旨を3分程度の英語にまとめる。(この英語は録音する)
7.自分の英語とオリジナルの英語を比べる。
8.気に入った表現を抜き出し、表現リストを作る。
9.表現リストを暗唱する。



2.シャドゥイング

 シャドゥイングとは聞こえてくる音声をそのまま、ほぼ同時に近いタイミングで追いかけ、おうむ返しにリピートする練習。基本的に原稿は見ないで、ひたすら音声についていく。

 シャドゥイングを何回やれば効果が上がるかは、人によって意見が分かれるが、最低でも10回はしたい。できれば30回。

 「50回以上すると脳内に変化が起きる」と体験者は語っている。

 ◆コンセキュティブ・シャドゥイング
 
 英語のシャドゥイングだけでなく、日本語のシャドゥイングも組み合わせてやってみよう。名づけてコンセキュティブ・シャドーイング。(日英並列のシャドゥイング、逐次シャドゥイングと呼ぶべきか) 用意するものは、3分程度の英語テープ。NHKの英語ニュースの録音でも何でも、できるだけ日本語訳が手に入るものを探す。

[手順]
1.日本語訳をシャドゥイング。(無い場合は自分で適当に作って、テープに録音、それをシャドゥイングする。)
2.英語をシャドゥイング。
3.日本語訳を一文シャドゥイング。
4.同じ部分の英語をシャドゥイング。
5.3.4.の要領で、残りの文も全て、一文ずつ交互に繰り返す。これをコンセキュティブ・シャドゥイングと呼ぶ。
6.口が滑らかに動くようになったところで、英語全体をシャドゥイング。
7.日本語訳を聞きながら、同時通訳で英語を出す。
8.英語を聞きながら、同時通訳で日本語訳を出す。



3.リプロダクション(再生・再現)

 リプロダクションとは意味のまとまりごとにテープを止めて、そのままテープと同じ発話を再現する。(略してリプロ)
 原稿は見ない。初心者は5語程度の短い意味のまとまりから始める。上級者は15語程度はがんばりたい。

 リプロダクションのポイントは細かいところまで正確に出すこと。aやtheの有無、動詞の語尾、全ておろそかにせず、忠実に再現する。文法知識の復習にもなる。



4.ディクテーション(書き取り)

 ディクテーションとは音声を聞き取って、書き取る作業。(略してディクテ)
 トランスクリプト(原稿)付きのテープ教材を使うと、どうしても聞き取れない箇所は原稿で確認できる。NHKテキストやCNN EXPRESS誌、イングリッシュ・ジャーナル誌などはテープと原稿両方が付いているので便利。またCNN放送(衛星放送で受信)の原稿はインターネットで手に入る。
 
 インタビューだと、自然な口調で会話が進行する。会話の流れが重視され、正確さは二の次。聞き取れない箇所は、前後の文脈で判断したり、文法知識で類推する。かなりハードだが、リスニングの練習になるし、文法知識も試される。

 ただし、市販されている教材にはけっこうミスがある。ディクテーションをするときは「教材ミスを見つけて、出版社に電話してやろう」というくらいの意気込みを持つ。ミスを認めない出版社もあるが、良心的な会社からは、詫び状が届く。



5.リスニング(聴き取り)

 どうやったら英語のリスニング力がつくのか、というのは日本人学習者の永遠の課題だ。しばらく練習すれば、教材テープや、NHKニュースの英語音声くらいは聞き取れるようになるが、英語のインタビューやディスカッション、映画やTVドラマのリスニングとなると、細かいところがついていけない。英語圏に生まれたなら、3歳児でもわかるだろうに、と情けない思いをする。

 シャドーイング、リプロダクション、ディクテーションはリスニング力強化に役立つ練習方法であるが、それに加えて、熟聴(インテンシブ・リスニング)も取り入れてみたい。

 教材としては、まず読むだけならまあまあ理解できるレベルのものを用意する。中級者なら英字新聞の社説がお勧め。上級者ならCNNの放送原稿でもいい。まずアナウンサーになったつもりで、英語を朗読し吹き込む。テープの長さは10分から15分を目処に。意味のわからないところは、あらかじめ確認しておく。

 次に、自分で吹き込んだ朗読テープを聴きながら、「読んだらわかるけど」「自分では使えない」単語を片っ端からチェックしていく。漠然と聞き流してしまうと、数箇所くらいしかチェックできない。最低40箇所は目標に、集中してテープを聴く。「ここ」と思ったところでテープを止め、何度もその箇所を声に出して反芻する。「知っているけど使えない」パッシブ・ボキャブラリーから、「自分の語彙として自由に使える」ポジティブ・ボキャブラリーへと変化させる。

 この時、大切なのは、メモをしないこと。未知の単語に出会うと、ついメモをしてしまいがちだが、それだと、聴く集中力が薄れてしまう。一切、メモは取らない決意で、耳だけの練習に終始する。

 けっこうハードな訓練なので、毎日は無理でも、週一回はしたい。



6.ジェスチャー

 英語を聞く時、意外に知られていないのがジェスチャーの効果。
 スピーカーは一定の流れに沿って話しているので、リスナーも、話を聞きながら、手を使ったり、頭を動かして、スピーカーに反応し、話の流れを確認する。そうすると話についていきやすい。話についていけている時は、スムーズに手や頭が動くが、話の筋を見失うと、途端に動きが止まる。

 優秀な同時通訳者は同時通訳ブースの中で、さかんに首を振ったり、手を動かしたりしている(そうだ)。



7.サイト・トランスレイション(速訳)

 サイト・トランスレイション(略してサイトラ)、速読の一種だが、訳しながら読むので速訳ともいう。

 英文のチャンク(意味のまとまり)ごとに、鉛筆で「/」スラッシュ(斜め線)を入れながら、訳して読む。だからスラッシュ・リーディングとも呼ばれる。実際にスラッシュを入れなくても、頭の中では、チャンクごとにまとめて意味を理解している。

 ポイントは決して後ろから前に戻って訳さないこと。ここが学校で習う英文和訳との違い。関係代名詞節も副詞節も全て、各チャンクごとに内容を把握し、次のチャンクへと進む。
 
 チャンクごとに日本語に訳出する。ここが英語を英語のまま理解して読む「速読」とも違う。できれば自分のサイトラを録音して聞いてみよう。聞き苦しい箇所は、あらためて適訳を考えてみる。すると訳も洗練されていく。最初は戸惑うが、慣れると、この方が速く正確に読め、便利。
 
 ただし、学校のテストや受験でサイトラ式の訳を書くと減点されるかもしれない。あくまでもリーディング技術の一つとして、有効に利用する。

 日本語サイトラもやり方は同じ。日本語を見ながら、チャンクごとに、後ろから前に戻らずに、英語に直していく。



8.パラグラフ・サマリー(段落ごとの要約)

 サイトラに慣れたらパラグラフ・サマリー(略してパラサマ)をする。

 英語のパラグラフ(段落)には、一つの主題が入っている。その主題を表す文章(トピック・センテンス)は通常、パラグラフの最初に来る。あとに続く文はトピック・センテンスを補足する支持文(サポーティング・センテンス)。

 もちろんパラグラフ同士は連結し、一つの論理の流れを作っている。英文全体の中で一番大切なのは、最初のパラグラフ。ここで全体の主題を紹介。つまり英語では一番言いたい部分、結論が冒頭に来る。あとの部分は、その結論に至る補足説明。

 パラサマのやり方は、各パラグラフのトピック・センテンスを押さえることから始まる。サイトラは英文を訳すが、パラサマは要旨を抜き出す。
 自分で30%のパラサマ、50%のパラサマ、70%のパラサマ、と要約の分量を決め、トピック・センテンスの肉づけをしていく。パラサマは英語でも、日本語でもすることができる。
 
 最後には全体の要約で仕上げを。日本語での要約、英語での要約、それぞれA4サイズ一枚、500語以内と、分量を決めて書いてみる。
 または5分間スピーチ、10分間スピーチと時間を決めて録音してみる。これも英語、日本語両方でできる。
 


9.パラフレイズ(言い換え)

 パラフレイズ(略してパラフレ)は、もとの文の意味は変えずに他の言い方で表現すること。

(1)−文全体のパラフレ

 冗漫で、ダラダラとしたとりとめのない話、あいまいでポイントがつかめない話、意味不明で支離滅裂な話、特に日本語のスピーチに多い。こういう場合、たいていスピーカー自身が話の道筋を見失っている。自分でも何を話しているかわからなくなっている。
 これをそのまま訳しても、やはりダラダラした文章、意味不明の文章が出来るだけだ。

 そんな時は、自分のことばで、わかりやすくパラフレイズ(言い換え)する。他人が聞いて理解できるように論旨を整理して、文章を作り直す。日本語なら日本語のまま、英語なら英語のまま理解可能な、理路整然とした文章に直す。

 オリジナルのスピーチでは何を言っているの皆目わからないのに、通訳者の訳を聞いてやっとわかった、と通訳者が絶賛されることがある。これは通訳者がパラフレをしているということ。
 オリジナルのスピーチを自分の頭で整理し直して、自分で納得できるように解釈してから、メッセージを伝えている。こうなると話者のメッセージというより通訳者のメッセージ。単なる言語の変換とか、内容の伝達というレベルを超えている。まさにインタープリター(解釈する人)だ。

(2)−表現のパラフレ

  ひとつのことを何通りかの言い方でできるように、常に心がけておく。例えば、日本語を聞いた時、最低3通りの英語表現が頭に浮かぶようにする。
 ある表現が相手に通じなかった場合、当然別の表現を考えて、相手にわかるように言い直さねばならない。



10.速読

 速読またはラピッド・リーディング。文字通り「速く読む」こと。

 大量の英語を読むにはスピードが必要。そのためには、いちいち日本語に訳さず、英語を英語のまま理解し、読んでいく。 
 ほとんどの人は日々の生活の中で、新聞の拾い読みとか週刊誌の流し読みなど、速読をしている。これを英語にも応用する。わからない単語があっても気にしない、か、前後の文脈から類推、だいたいの内容をつかむことを主目的に読み進む。

 ジャパンタイムズの記者・伊藤 サム氏は「やさしくたくさん」をモットーに「身長の2倍の高さを目標に」読むことを提唱している。ここでいう身長の2倍とは読んだ本を積み重ねた高さのこと。伊藤氏は「まず300語レベルの読み物から始めよ」と言っている。
 世界の名作も、やさしく書き直したリトルド版だと楽に読める。私はこれで『ジェーン・エア』や『フォレスト・ガンプ』等たくさん読んだ。

 私の目安は「内容に興味が持てるもの」「未知の単語は1行に2語以内、3語以上あったら止める」。内容が面白ければ、多少難しくても先の展開を知りたくて、ページが進む。興味が持てなければ全く読み進めない。その時点で他の本へ移る。

 週刊のジャパンタイムズ・STやジャパンタイムズ・ウィークリーも日本語の解説つきで読みやすい。他にも、2000語レベルの単語で読めるよう編集してある「ミニワールド」誌(但し雑誌は2001年9月で休刊、以後オンライン購読になる)、日英が併記してある「ひらがなタイムズ」など、学習者用の雑誌は豊富にある。私も読んでいる。

 日刊のジャパンタイムズ、デイリーヨミウリなどの英字新聞は、全部読もうと思わないこと。まず興味ある記事を探す。私のお勧めは軽いエッセイ、日本滞在記や文化比較など、外国人ライターが面白おかしく書いた記事。

 日刊新聞は定期購読してもよいし、曜日を決めて駅のキオスクで買ってもよい。ちなみに私は、月曜日はヘラルド・アサヒ(求人欄が充実、ジャパン・タイムズでもよい)、水曜日はデイリー・ヨミウリ(「関西面白文化考」など関西特集が載る)、金曜日はジャパン・タイムズ(英日対訳のページが面白い)、あとの曜日は、適当に買う。大きな事件が起きた時は2種類の新聞を買って読み比べる。

 ニューズウィークやタイム・マガジンなどの雑誌では、カバー・ストーリー(表紙絵[写真]の関連記事)が比較的読みやすい。これらの雑誌は全部読めなくても、とりあえず積んでおくことが大切。一年前の記事、時には数年前の記事が役に立つ。だから、雑誌のバックナンバーは古新聞回収に出さず、保存しておく。



11.几帳面もほどほどに

 几帳面にノートを取る、几帳面に辞書を引く。几帳面であることは語学学習に必要だ。しかし過度になると弊害が出る。

 ざっくばらんな雰囲気の中で、英語の談笑。
 ところが私が話し始めると、皆の表情が曇る。ある人は顔をこわばらせ、ある人は隣と目配せし。何が悪いのだろうか。失礼なことは言っていないつもりだが・・・。あとで、
 「あなたの英語は和文英訳みたい。几帳面に単語を置き換えている感じ。もっと自然に話せないの。」と言われる。

 几帳面であることは、このように弊害になることもある。
 
 私のもらったアドバイス:
 @整理整頓のくせをやめる。部屋の片づけをやめ、散らかり放題にする。ただし、どこに何を置いているかは把握しておき、必要な物はすぐ取り出せるようにしておく。秩序を無視するのではなく、混沌とした中で自分なりの秩序を作っていく。

 A英語を話すのもそういう感じで。整理整頓、理路整然、和文英訳、というプレッシャーを捨て、即興で、湧き出てくるコンテンツ(内容)のままに勝負する。ただし必要な単語はすぐ取り出せるようにしておく。



12.英検1級はまだ裾野(すその)

 ある英語学校の通訳コースを終了した時、担当の先生から言われた:
 「やっと、裾野に来たね。」
 「ここからBクラスに上がるのが大変だ。相当に努力しないと。Aクラスとなると、もう遥か上だよ。」

 これでもまだ裾野か、というのが正直な気持ちだった。クラスメートたちは皆、英検1級か準1級、私も1級の資格を持っていたし、TOEICテストのスコアも、ほとんどの人が900点以上だった。

 今、私はこう思う :
 私は裾野を歩いている。裾野は相変わらず広く、頂上は相変わらず高く険しい。ほんと、遠いなあ。



13.時間の作り方

 「英語の勉強はしたいけど時間がない。」というせりふをよく聞く。

 英語学習の相談をされる度に、私はNHKのラジオ英語番組を推薦している。「基礎英語1,2,3、」シリーズなら、1日3回、2日連続で同じ番組が放送される。つまり1回の番組に、6回、聴くチャンスがある。番組の内容をまとめたテープも市販されている。
 
 5ヶ国語の同時通訳者、ロンブ・カトー氏は、大人の平均的外国語学習者は「毎日、1時間から1時間半」「朝のうちに勉強せよ」と明快に述べている。「1時間が無理なら5分でもよいから、毎日続けよ」と。
 
 平均的英語学習者の一人として、私も、慢性的時間不足に悩まされている。時間は作るしかない。次のように時間を捻出している。誰もがやっていることだろうが :

 @通勤の電車内の時間を利用してリーディング。

 A朝、1時間、できれば2時間早起きして、テープを使ったリスニング、シャドゥイング、リプロ、サイトラ、パラサマなどの練習をする。

 B夜寝る前は、英語テープ、英語のラジオ放送を聞くか、英語のTV番組を見る。以前はNHKで放送されていた英語のTVドラマ「フル・ハウス」や「ビバリーヒルズ・青春白書」を録画して、楽しみに見ていたが、残念にも終了してしまった。
 今放送中のTVドラマでは「ボーイ・ミーツ・ワールド」の英語が比較的聞きやすい。面白さでは断然「ダーマ・アンド・グレッグ」。
 スカパーTVを契約している人なら日経CNBC放送の(土)(日)の深夜に放送される「ジェイ・レノ」や「コナン・オブライエン」などのトーク・ショー番組がお勧め。機関銃のような英語、連発されるジョーク、観客の笑い、ついていけないのが悔しい。

 さて、電車内の時間の過ごし方。

 電車に乗っている片道、約1時間。駅を目安に、20分ずつ、だいたい3つに分ける。
 出勤時。A駅に着くまではジャパンタイムズ(例えば)、A駅からB駅の間はジャパンタイムズST(例えば)、B駅からC駅の間はタイム(例えば)と決めて読む。朝の電車内は混雑していて辞書が引けないし、新聞も折り返せない。だから辞書は引かない。新聞も読みたい紙面を予め開いておく。
 帰宅時は疲れているので、好きなペーパーバックか日本語を読む。ペーパーバックの読了目標は年間20冊以上、ただしリトルド版でも英日対訳版でもよいことにし、去年は月平均1〜2冊くらい読んだ。電車通勤でなかったら、これだけの読書はできなかっただろう。

 電車内が空いている時はシャドゥイングやサイトラ練習もする。隣の人が嫌がらないかと心配な時は止める。ほとんど乗客がいない各駅停車に乗れば大丈夫(今のところ)。



14.目標

 目標には2つある。@具体的な目標、A目標にする人。

 @具体的な目標には、短期目標、と中・長期目標がある。
 短期目標は「今日中にやること」「今週中にやること」「今月中にやること」、中・長期目標なら「今年中にやること」「3年後にやること」「10年後にやること」「一生かかってやること」など。

 「今日中にやること」については、私はノートに予定表を作って点検している。点検項目は30個くらいある。「NHKラジオのやさしいビジネス英語」「NHKTVの手話ニュース(の英訳)」「英語の新聞」「英語の雑誌」「NHKラジオ・ジャパンの英語ニュース」など。5分でもやったら○をつける。毎日、項目の全部をこなすのは不可能。でも1ヶ月くらいまとめて見直すと、何を熱心にやっていて、何を怠っているかがよくわかる。

 中期目標は各資格・検定試験や留学など。 
 私は、各種試験はできるだけ受けるべきだと思う。特に英検とTOEICの試験。私も受けている。自分の実力が客観的にわかるし、謙虚になれる。英検1級までたどり着いても、TOEICで満点を取っても、そこはまだ出発点。試験を受ければ気がつく。
 また各種試験の有効期間は3年と思うこと。現状維持するためにも努力は必要。3年間、努力を怠れば、英語力は止め処もなく後退する。

 私の中期目標は、今いる「裾野レベル」から「Bレベル」の英語の実力になること。「中期目標」のつもりだったが、思ったより時間がかかっている。ひょっとしたら「長期目標」になるのかもしれない。
 ロンブ・カト―氏は「語学学習は道中を楽しむ旅」と書いている。全く、「道中を楽しむ」気持ちがなかったら、語学学習はあまりにもつらい。「不合格」「不十分」「失敗」「やり直し」「落ち込む」「恥をかく」の連続だから。

 私の長期目標は、はっきりしている。「趣味は英語の勉強です」ではなく「職業は英語の勉強です」と言えるようになること。

A目標にする人

 英語の勉強を通して、たくさんの英語ができる人に出会ってきた。優秀な人は皆、驚くほど謙虚で、ユ−モアのセンス抜群、人間としても魅力的だ。威張ったり、偉そうにしても、実力がなければ笑われるだけ、とてもわかりやすい実力で勝負の世界。宮本武蔵の孤独にも通じる。
 実際に英語を使う現場に出て行けば、尊敬できる師は至るところにいる。だから目標にする人は自分で見つける。ボランティアでもいいから、英語を使う場に出て行くことが肝心だ。
 

15.記憶力

 昔のことは鮮明に覚えていても、新しいことはすぐ忘れる。

 幼稚園の時に担任してもらった先生の顔と名前は、数十年経った今でも思い出せるのに、昨日、紹介してもらった人の顔と名前は、もう忘れてしまった。新しいことは覚えにくい。これは脳のメカニズムからも証明されている。

 私の英語記憶法は、手と目と耳と口をフルに使う。

 まず新聞広告のちらしや、不要になった文書類から裏が白紙のものを集めておく。これをいつも数十枚はストックしておく。

 @手と目と口で覚える。
 覚えなくてはならない単語・語句を、口でぶつぶつ発音しながら、時にはスペリングを唱えながら(いわゆる口頭練習)、ちらし広告の裏などに書き出す。見ないでも書けるようになるまで、何度も書く。

 私の一番の苦手は病名。「脳梗塞」cerebral infarction、「脳卒中」cerebral hemorrhage、「動脈硬化」arteriosclerosis、「クモ膜下出血」subarachnoid hemorrhage、「赤痢」dysentery、「おたふく風邪」mumps、「風疹」rubella、「破傷風」tetanus、「ぎっくり腰」throw out one's back ・・・。
 次の苦手は法律用語、「連座制」guilt by association、「時効」the statute of limitation、「未必の故意」conscious neglect、「監禁」confinement・・・。
 あと魚介類の名前も手ごわい。「鯛」sea bream、「ぶり」yellow tail、「かつお」bonito、「さんま」saury、mackerel pike、「あわび」abalon、「めだか」killifish・・・。何度覚えても忘れる。その都度、見直す。ひとつの新出単語は最低でも10回以上、苦手なものは50回以上書く。それでも、ふだん使っていなければ忘れる。
 
 だいたい覚えたら単語リストを使って仕上げを。日本語を隠して英語を言う、英語を隠して日本語を言う、というような作業は誰でもやっている。この時、単語リストにはできるだけ書き込みをする。カラフルな蛍光ペンやボールペンを使って、色を変え、縁取りをしたり、時にはイラストもつけて、視覚的にも記憶に残るようにする。
 英語学習者にとって、カラフルな蛍光ペンと3色ボールペン、4色ボ−ルペンは必携。(3色ボールペンとシャーペン付のシャーボも便利、私も愛用している)。時間があれば、関連の単語や、ちょっとした語句の補足説明、例文等も書き加えておく。

 A耳と口で覚える。
 絶対に覚えねばならない究極の事情がある時は(例えばテストなど)、次のやり方をする。
 テープに新出単語の日本語の意味を、2〜3秒のポーズ(区切れ)を置いて、吹き込む。テープを聞きながら、クイック・レスポンス(素早く答えを返す)で、英語を言う。逆に英語をテープに吹き込んで、日本語をクイック・レスポンスする。これを両方とも素早く、間髪をいれず、クイック・レスポンスできるようになるまで繰り返す。
 十代前半の人なら1回で十分なところ、年齢が上がるにつれて、費やさねばならない時間は増える。私のモットーは「人一倍の時間を費やして、やっと人並み」。記憶力に王道なし。

 上記の方法は、緊急の必要性から「とりあえず覚える」という意味では大変効果がある。しかし、悲しいかな、短期記憶。しばらく使わなければ忘れてしまうことは肝に銘じておく。



16.年齢の壁

 脳のメカニズムの研究が進んで、今まで謎とされていた言語学習の壁が少しずつ解明されている。今まで明らかにされていることをまとめると:
(参考 : 『英語は英語で勉強するな』 荒井佐よ子、主婦の友社 )

@耳から入った音声を音楽のような感覚的なものとして受け入れるのは右脳。言語のような情報として理解するのは左脳。幼いうちから学ぶ言語(母国語など)は、左脳で処理される。

〔補足〕言語学習の窓が開いていて、それ以降は急速に能力が低下する時期をクリティカル・ピリオド(臨界期)と呼ぶ。臨界期が何歳なのかについては、5歳説、10歳説、思春期説、20歳説、とばらつきがある。加齢と共に言語学習能力が低下するのは事実であるが、それは他の能力も同じ。大人の中には、第二言語を最高レベルまでマスターできる人もいる。「臨界期」があるかどうかについての証拠はまだ混乱している。(『外国語はなぜなかなか身につかないか』 エレン・ビアリストク&ケンジ・ハクタ、新曜社 )。

A大人になってから学ぶ言語(外国語など)は、ふだん言語して使用されていないため、右脳で処理される傾向が強い。

B右脳に入ってきた音声情報を、すみやかに左脳の母語に結びつける訓練をする。この流れが速くスムーズにいけばいくほど、外国語理解も進む。

 大人の場合、母語をベースにして、外国語学習をすることが大切だ。日本人なら日本語を基本として、できるだけすみやかに英語の音声に意味を与えていくこと。これがゼロ・コンマ数秒の速さでできれば、みなが同時通訳になれるかもしれない。私の研究テーマはシャドーイングだが、シャドーイング訓練によって、この右脳から左脳への情報処理時間が速まるのではないか、という仮説を立てている。

 また、よく言われることだが、外国語習得のカギを握るのは母国語である。日本語の基盤がしっかりしている人、日本語の表現が豊かな人は、外国語理解も早い。逆はかなり苦しい。

 外国語を学ぶに当っては、発音(なまり)は別として、理解力、コミュニケーション能力において、年齢の壁を気にする必要は無い、あとは訓練のみ、ということ。この結果には大いに励まされる。



17.早期英語教育

 よく「外国語をマスターするなら、幼いうちがいい」とか「帰国子女(但し英語圏からの)は英語と日本語の両方ができるバイリンガル(二ヶ国語話者)なので、うらやましい」という話を聞く。
 たしかに子どもはオウム返しの物まねが得意だ。その意味で「正しい音声認識と正しい発音の修得」という点にしぼれば、外国語学習は早いほうがいい。日本人には識別が難しいとされるR音とL音の区別も、年齢の早いうちにマスターしてしまえば、英語リスニングの苦労も減る。大人になってからの英語学習では、日本語にない英語音の聞き取りや発音に、多くの学習者が大変な苦労をしているのも事実である。
 
 ただ子どもは覚えるのも早いが、忘れるのも早い。また幼い子どもどうしの会話では、意思疎通をするのに必要な最低限のことばさえ知っていれば、こと足りる。
 
 英語圏に生まれた子どもがwhen(〜する時)とwhile(〜する間)の使い分けや、仮定法過去と仮定法過去完了のような複雑な構文を区別し、自ら運用できるようになるのは小学校中・高学年になってからという報告もある。(『アメリカの子供はどう英語を覚えるか』 シグリッド・H・塩谷、はまの出版) 

 いずれにしろ、子どものうちに覚えた知識は、理解力、分析力、判断力、常識などの裏づけが乏しいため、その後の持続的な努力なしには、蓄積されない。多少の蓄積はあっても、運用できる程度には至らず、まったく宝の持ち腐れというケースもある。言語習得にはどこまでも意識的、自覚的な努力が必要だ。
 
 それだけの学習環境を整えてやれるだけの情熱が親にあれば、話は別。実際、日本でも、いくつかの家庭が、両親とも、日本生まれ、日本育ちの日本語モノリンガル(一ヶ国語話者)でありながら、自分の子どもに日本語・英語のバイリンガル教育を試みている。うまくいった家庭では、小学生のうちに英検準1級合格という報告もある。(『バイリンガルを育てる ゼロ歳からの英語教育』 湯川 笑子著、くろしお出版 ) だからやってやれないことはない。ただ、あくまでも親の趣味という気がするので、無理強いは禁物、親子ともに楽しんでやるのなら、親子のコミュニケーションの一環として、賛成だ。

 帰国子女で、発音は素晴らしいのに、英語も日本語も中途半端にしか理解できず、かえって言語コンプレックスに苦しむ人もや、アイデンティティ・クライシスに陥る人もいる。帰国子女の中には、素晴らしいバイリンガルもいるが、話を聞いてみると、彼らは例外的な努力家であることがわかる。



18.日本人の英語

 私がここで取り上げる「日本人の英語」とは、いわゆる「私は英語ができる」と自負している日本人のこと。日頃、よくこの手の日本人に「こんな単語も知らんのか」と揶揄されたり、小ばかにされるので、その腹いせもかねて(?)彼らの問題点を分析してみたい。
 
 彼らの自信の根拠は、英語の知識はあるということ。いい大学を出ていたり、英語教師の免許を取得していたり、実際、英語教師として働いている人もいる。この人たちの場合、英語の知識とは主に英文法の知識だが、大学入試や教員採用試験の難関を突破したという自負心から、大変プライドが高い。入試英語を解く秘訣や和文英訳、英文和訳の技術にも長けている。

 大学は出ていなくても、数年間、外国暮らしを経験している人もいる。ジェスチャーなどはどうに入っているし、実生活から得た知識も豊富だ。趣味を通じての外国人の友人もいる。(らしい)

 彼らの英語の問題点は「せっかくの英語の知識が、使い物にならない」ことだろう。

 前者の問題点は「木を見て森を見ず」。このタイプの人は、他人の英語の細かいミスにチェックを入れ、罵倒する。私も何度も「アクセントがちがうっ!」とか「発音がちがうやろっ!」と怒鳴られた。ところが、私はこの手合いの人が、日常の簡単な挨拶以上の本格的な英語を話すのを聞いたことがない。そこまで細部に渡って、私の「つたない英語」を批判するのなら、一度、ご本人の英語の実力を披露していただきたいと思うが、英語力が必要な場になると、どこかに逃げている。

 そうかと思えば、外国生活が長いのに、不思議なくらいことばが出てこない人がいる。何か話そうとしても、沈黙が続くか、「アー、ウー」と言いよどみが続く。ブロークン英語さえ出てこない。ところが自分が何とか「アー、ウー」と話し終えると、途端に威張りだして、他人のブロークン英語を批判する。
 
 カナダ人ゲストを迎えての交流会をした時、そのカナダ人ゲストの年収、税金、カナダの物価などお金に関する質問ばかりして、みんなを辟易させた人がいた。(この人も4年以上の英語圏での外国生活経験があり、最近帰国したばかりだった。) このような質問は全てHow much〜?で済んでしまうから、難しくはない。ただ、初対面の人に対しての質問としては、ぶしつけで、あまりよい話題ではない。だからみんな当惑して、黙っていた。
 後で「僕しゃべり過ぎたかな。みんなも間違いを恐れず、もっと積極的に話さないと英語はうまくなりませんよ。」と言われた時は、一同ひっくり返りそうになった。
 


19.英語教師

 ここでいう英語教師とは、日本で英語教育を受け、日本の学校で英語を教えている日本人英語教師のことを指す。

 英語教師の書く文章によく出てくるのが「正直言って、私は英語が好きではない」とか「私に英語を語る資格はない」という枕詞。こういうのは極端な例だろう、と始めは思っていたが、どうやらこれが平均的英語教師の姿のようだ。本人たちは謙遜の気持ちを込めて言っているようで、このことばで逆に、英語教師としての誠実さを表していると信じているきらいもある。

 英語教師というと、私の頭にまず思い浮かぶのが、このように自分を卑下しているか、他の英語学習者の存在を許さない絶対的な神のイメージ。全部の英語教師がそうではないだろうが、とにかく英語に関しては「卑屈」「否定的」「冷笑的」「偏狭」「勉強不足」、英語の話になると「不機嫌」「無関心」[冷淡」といったイメージを抱かせる人が多い。
 
 私は英語教師によく怒鳴られた。まず「その人にとって気に入らない」「間違った」アクセントや発音で、英語を言った時に怒鳴られた。「そんな言い方、あるか!」「違う!」といったことばは、全面否定であり、「指導」には程遠かった。怒鳴る人自身が勉強不足であったり、勘違いしていることも多々あったが、反論は聞き入れられなかった。

 多少、細かいミスがあっても、全体的に見て意思が通じれば、コミュニケーションに問題はない。むしろ英語には、言葉のやり取りをキャッチボールのように楽しむ傾向があり、多少の言い間違いや言い淀みは、たわいない会話(スモール・トーク)では問題にならない。ここで問題になるのはむしろ話の中身、話題の方だと思う。

 許容量ゼロの偏狭な姿勢では、キャッチボールはあっという間に終わり、あとは気まずい沈黙が来る。会話は途切れ、嫌な空気が流れる。英語上達の王道が「間違いを恐れずに実際英語を使ってみる」だとしたら、「細かいミスをいちいち怒鳴って指摘する」というのは、教育方法としては最悪だろう。

 数十年教壇に立ってきた日本の平均的英語教師の述懐する本音は「卑屈で冷笑的」と言っては言い過ぎだろうか。そういう人に英語を習う日本の学校の生徒は不幸だが、実際、これで日本の英語教育は成り立っており、この不幸な連鎖の中から、また次の世代の英語教師も育ってきている。日本の英語学習に伴なう不幸感、無力感は、そう簡単には払拭できない。



20.英語のポライトネス

 ポライトネスとはもともと「ていねい」という意味。英語には日本語のような、敬語体系はないが、聞き手への敬意を表わす丁寧表現はあり、それを総称してポライトネスまたはポライトネス・ストラテジーと呼んでいる。(ストラテジーとは「戦略」とか「方略」という意味、ここではことば使いの工夫、気配りというようなもの) 

 日本はタテ社会(vertical society)であることを反映して、社会的な上下関係をことばに反映させるが、英語ではむしろ、相手への敬意の表現として、親しみを込めた言い方をする。初対面からお互いにファースト・ネームで呼び合ったり、ジョークから会話やスピーチを始めたりして、笑いを誘い、相手の気持ちをほぐすのも、相手との距離を一刻も早く縮めようとするポライトネス・ストラテジーである。

 英語では「親しい、友好的」(friendly)が「ていねいさ」(politeness)のキーワードとなる。相手との心的距離を縮めるために様々なストラテジーを採るが、決して乱暴でぞんざいなことば使いをするとか、スラングやタブー表現を多用するということではない。むしろ多用されるのは"Thank you"であったり、"You look great."のような誉めことばである。

 例えば、日本では、社会的地位が上の人は、部下に何かを頼む場合、ぶっきらぼうな言い方をしても許されるが、英語では、威張った印象を与えないように気を使った言い方をする。日本人の中には、なまじ英語力があるために、英語を駆使するのはいいが、日本的な上下感覚で英語を話してしまい、かえって相手の気持ちを損ねて、コミュニケーションに支障をきたす場合がある。

 またアメリカにホームステイした日本人が、ホストファミリーから「無礼でわがまま」という印象を持たれたケースもある。日本人留学生に悪気はなかったが、いつも "I want...","I want..."ばかりで、ホストファミリー側はうんざりしたという。"May I have ...?"とか "Would you mind...?のようなていねい表現を知っていれば、もっと違っていただろう。

 「日本人的」な日本人の中には、相手によって話し方を変えたり、相手の年齢や素性がわかると途端に、偉そうにしたり、ペコペコしたりして態度が一変する人がいる。相手の社会的地位が上だとわかった途端、"I'm sorry."と言う回数が増えるなど、日本人としても不愉快だが、英語文化の中では予想以上に大きな衝撃であるようだ。

 英語におけるポライトネスとはどのようなものだろうか。少なくとも英語の場合は、まず上下感覚ではなく、平等感覚を持つことだろう。相手が誰であれ、性別や肩書き、年齢にとらわれず、親しみと同時に、他者への敬意と良識を感じさせる話し方をすることが、相手を気持ちよくさせ、楽しい会話へと発展する。ストラテジーとは結局、思いやりなのかもしれない。

 参考文献:『アメリカ生活英語』、1996、高橋朋子著・サイマル出版会 / 『丁寧な英語・失礼な英語』1995、東昭二著・研究社出版