「せっかく来たんだから、是非とも起きてもらおうかな」 腕まくりして見下ろせば、当麻はすやすやと寝入っている。例え地震が来ようが津波が起ころうが、一度寝込めば二度とは起きないのではないかと言われている当麻だが、実は簡単に起こすことの出来る方法がある。むろんそれは、ただ一人にしかできない芸当なのだが。 「当麻」 耳元に唇を寄せ、そっと囁く。ぴくりと瞼が震えた。 「当麻」 二言目で効果てきめん。がばりと上半身を起こした。ぱちくりと伸を見上げて、呆然とした表情をしている。 「し、伸?」 「おはよう、当麻。遊びに来たよ」 「遊びに……?」 どうもまだ頭が半分眠っているようで、ぼんやりと伸に視線を向けたままだ。慣れているので構わずに、伸はカーテンを開けた。 「ほら、今日は良い天気だよ。こんな天気の日に寝るだけなんて、もったいなくない?」 「天気……」 さあっと入り込む光の洪水に、まぶしそうに目を細める。 もしかしたら夕べ寝たのが遅かったのかもしれない。ほとんど毎日、昼夜逆転の生活をしている当麻だから。 一瞬罪悪感が浮かびはしたが、すぐに思い直した。夜仕事して、昼間に寝ている方が悪い。そもそも伸の今いるこの時間だとて、普通の人は起きている時間だし。 「せっかくだからどこかに出かけようと思ったんだけれど、運悪く君の家しか思い浮かばなくってね。どうせ寝ているだろうとは思ったけれど、勝手に上がらせてもらったよ」 「伸……?」 もしかしてまだ寝ているのだろうか。半分呆れつつ顔を覗き込めば、いきなりがばりと抱きしめられた。 「ちょ、ちょっと、当麻!」 「あー……伸だ……気持ちいい……」 おおーい、もしもし? 起こすことは出来ても、覚醒させることまでは無理なようで、どうも当麻の頭はまだ半分以上、眠っているらしい。 抱きしめられた苦しい体勢からなんとか顔を覗き込めば、当麻は至福そうな表情をしている。 「伸ー会いたかったぜ」 そう言う科白は起きてから言ってもらいたいものだね。 見ているうちに、次第に瞼がとろんと落ちてくる。伸はさてどうしようかと頭をひねった。 やっぱり起こす このまま寝かせておく |