夢のつづき

あなたの名前は毛利伸です。伸になったつもりで話を進めて下さい。それなりに幸せな結果が待っている……かもしれません(^_^;)。


 良く晴れた休日のことだった。珍しく何の予定もないその日は、家の中の細々とした用事を片付けるつもりで、伸は朝からあちこち動き回っていた。

 洗濯もした。掃除機もかけた。アイロンもかけた。後は、本棚の整理でもして、普段作らないような、凝った手料理でも作ろうか……そう思いかけ、手を止めた時不意に。
 本当に不意に、伸の脳裏に食いしん坊で甘えたがりの誰だかの顔が浮かんだ。

 普段は意識することさえないと言うのに、こんな時だけ自らの存在感を主張する誰か。

「……本当は不本意なんだけれどね」

 全く、どうしてこんな時に限って、思い出すのだろう。また悪いことに、別々に暮らしているとは言え、ここから誰だかのマンションはそう遠くなかったりするのだ。
 別に狙ったわけでもなかったのに、結果から言えば、いつも近くにいるあいつ。誰か。

 肩が触れるほど近くて、けれども決して寄りかかれる、そんな距離にいない誰か。
 要求もしてないのに、無理やり伸の生活の中に入り込んできた誰か。
 それなのに拒否しきれない、悪くはないと思えてしまう誰か。

「本当に、不本意なんだけれどね」

 文句は言いつつ、伸はそっと微笑んだ。心とは裏腹なことを呟いてしまうのは悪いことだとは思うけれど、それでも判ってくれる誰かがいるからこのままでも良いかと思ってしまうのは、きっと自分の甘え。
 けれどもそんな自分を含めて許容してくれるその誰かの存在が、伸を支えてくれてもいる。

 知らないうちに、伸の中でとても大きくなった存在感。

 ふと、壁の時計を見た。朝から家事にかかりっきりで、けれど手際の良い伸のこと。どれもこれも普段から習慣になるほどこなしていて、もうすっかり手慣れた作業のそれに、それ程時間をかけたりはしない。

 時計はまだ午前中を示していて、伸が出かけようと思い立つまでそう時間はかからなかった。

 ため息つきつつ、それでも楽しそうに出かける用意をする。
 きっと、あのばかはまだ眠っているだろうから、びっくりさせるのも一興かもしれない、そう思いながら。






 一応、チャイムは鳴らした。合い鍵は持っているけれど、これは相手への最低限の礼儀。
 そうして待てど暮らせど、いっこうに返事のない部屋の向こうの相手にため息つきつつ、判っていてそれでも期待してしまった自分に苦笑を漏らしつつ、伸は中へ入った。

「おじゃまします」

 かちゃりと、後ろ手に鍵をかけ、さてと見渡す。すたすたと、もはやすっかり覚えてしまったとある誰かの部屋の前に立つ。

「寝てるかな……」

 不在だとは思わない。何となく、予感がするから。
 他の部屋にいるとも思わない。これさえも予感だろうか。多分それまでの経験。

 そのドアの中、キングサイズのベッドの上、件の人物はすっかりじっくり寝こけていた。

 誰か――羽柴当麻。

 一度眠ると起こすのは容易ではないと言われているけれど。


「さて、どうしようか?」


起こす

このまま寝かせておく