One Tube Competition 3A5/50MHz Transceiver(Jan 27〜May 27. 2019)
はじめに
今年もOneTubeCompの季節がやってきた。昨年秋、公募の案内がFacebookの真空管無線機のサイトであり、早々に受信機部門とトランシーバ部門にエントリーした。
ここでは双3極直熱電池管3A5を使った50MHz/AMトランシーバの実験と製作について記すことにする。受信部門(6AW8A単球スーパーラジオ)は別頁で紹介している。
さて3A5トランシーバ、1967年の中1時代に製作した実績があるが、ラジオ作りを始めて余り時間が経っていない時代の物。技術力など無く、ひたすら製作記事の回路と実体配線図を追っていた時代だ。それを凡そ半世紀を経た現在に蘇らせたら、一体どんなものになるのか自分でも興味があり挑戦することにした。たまたまOneTubeComp2019にトランシーバ部門が設けられ、グッドタイミングだった。きっかけを作って頂いたFacebookの真空管式無線機の皆さんに感謝だ。
写真は、5月27日〆切日までに何とかまとめ上げた3A5/50MHzトランシーバの内部スナップ。

どんな回路に…
下図はオーム社発行の「ワイヤーレスマイクとトランシーバ」に記された3A5トランシーバの回路図を元に、電源部を12V駆動向けに加筆したもの。
当初はこの回路の再現を目指して実用状態にする。そして、送信系を2ステージにして、発振をTrによる水晶発振とし、3A5は終段発振又は終段増幅を狙う。すなわち発振デバイスにいきなり変調を掛け出力する手法は法的に問題があるため、免許が下りない。2ステージにすることでそれを可能にする狙いがある。



手持ち部品を考慮して回路をアレンジする



更に回路図をアレンジする



遅ればせながら製作開始・・・ハンドセットとルックスに拘る
持ち寄った部品・材料を気の向くままにレイアウト。今回は時間が無いので現物合わせで、いきなりシャシやケースに油性ペンでケガキを入れる。間違ったらアルコールで拭き去り、何度も最適位置を求めた。この段階での主役はジャンクで入手した600型ハンドセット。アーでもない、コーでもないが実に楽しい。



金属加工・・・ハンドセットハンガーとダイヤルノブ類取り付け
ハンドセットを操作面上部に置くためのハンガー。PTT用の丸ボタンスイッチが付いているため、ハンガーに18mmの丸穴を開けた。ハンガーは当初、アルミサッシをU型に曲げ、取り付けはLアングルで行いリベット留めしてみたが、パッとしないので、1本物でC型に曲げて3mmタップを立て、内側から鉄トラスビスで締め付けた。ハンドセットコネクタのレセプタクル側も届き、操作面の部品配置が完了。



手持ちの直熱双3極電池管3A5
手持ちの3A5達。左は1967年(中1時代)頃に清水市ユニオン無線で購入した初代3A5。いくらだったかは忘れてしまった。Toshibaのマークが今もはっきりと見える。中央はその後入手したToshiba製だが、入手先や入手年は覚えていない。右は東京単身赴任中の1998年頃、秋葉原の東京ラジオデパートにあったサンエー電機から購入したRaytheonの3A5。日焼けした白箱に入っていたが、下の写真の様に丁寧な保護がされていた。後日行ったテストでは3本とも同等の動作を示してくれた。



インバータブロックと3A5ブロックの配線
インバータボックスへ12V→48Vインバータ基板(国産)2枚と、12V→1.5Vインバータ基板(中華製可変出力)を実装。電源は12Vバッテリを使うが、電圧上昇や相当な電圧降下があっても、出力側の電圧は一定に保たれ大変便利。
併せて3A5ボックスの配線を行う。このボックスはアンテナコネクタ(M型)ナットとボールドドライブイモネジを緩めると簡単に取り外しが出来る機構にしてある。電気系もミニジャックと小型ハモ端で取り外しが可能で、製作や保守作業をやり易くしている。



ケース内配線と総合確認・・・そして通電
インバータボックス、3A5ボックスを実装し、操作面部品(電源スイッチ&パイロットランプ、ハンドセットコネクタ、VR、外部電源端子、バッテリ受けコネクタ)間の配線を行う。
基本的な誤配線(電源の地落など)を確認する。続いて3A5を抜いた状態で外部電源から通電し、インバータ出力が正常であることを確認する。通電前にテスタを当て、NGだったら即電源断体制を取る。正常ならPTTでリレー動作を確認すると、正常なら心地良いリレー音が響く。一旦電源を切り、3A5を実装して通電する。VRを左回し一杯から右に回していくとクエンチングノイズが確認出来る。半世紀振りに聴くこのノイズに感激する。
工房にあるIC-756でAM波を出すと受信が出来、3A5側からの信号も確認出来変調も掛っている。



測定1・・・出力とハーモニックスに受信感度
出力は同調コイル(6T)のタップ位置を中央からグリッド寄りに1T寄せることで、3dB弱の改善があり凡そ20dBm(100mW)となった。
ハーモニックス(高調波)は画像をクリックすると拡大。予想以上に良好だがLPFの併用が必要。
受信感度は、超再生レベルと同調ダイアルを交互に調整して最良点を探ると、アンテナレベルは-60dBm(概ねS/N=10dB)になった。
消費電流は12V外部電源使用時、受信300mA、送信400mA。



測定2・・・変調波形(Vice&1KHz)
Voiceでの変調は意外と良好に見えるが負方向の先端の様子が可笑しい。良く見ると折り返しか振動の様なモノを感じる。1KHzを入れる(600型送話器リード線へ低特よりワニ口リード線で接続、送話器は解放)と負方向の特性がバレバレになるが、こんなものだろうか。



まとめ
当初は回路1を目標としていたが、水晶発振器による3A5自励発振器の周波数引き込みが思わしくなく、両2波が出力される状況だった。それで回路2の自励発振を単純な増幅器として試すと、今度は利得不足と出力同調が受信と合わない(送信時VC容量不足)状況となった。OneTubeComp2019の〆切日を翌日(5月27日)に控え、この時点で時間切れと判断。3A5にRF回路はオリジナルに戻すことになった。Comp終了後再挑戦する予定でいる。(2019.05.27)
ちなみにOneTubeComp2019は7月27日で資料提出が〆切、翌日にはWeb上に作品が勢揃いした。
写真は資料提出前に撮影したもの。超再生VRの目盛板が黒からシルバーに代わっている…好みの結果。(2019.05.30)





今後の方針
OneTubeComp事務局へ関連資料を提出後、現状が如何程のモノかを確認した。当初より分かっていたとは言え、やはり現在の無線機に比べると幼稚としか言い様がないのが正直なところだ。
如何に問題点をリストしてみた。

@ボディエフェクトによる周波数変動・・・アンテナに人体や金属・非金属を問わず物体が近付くと発振周波数や超再生受信状態が大きく変動する。
AAM変調なのにFM変調・・・AM変調しているつもりでも、実は同時にFM変調が行われ妙な電波となっている。
B超再生受信時の不要電波輻射・・・受信時も関わらずアンテナから相応レベルの不要輻射がある。
C送受信周波数のズレ・・・スペアナとSGで確認すると、##MHz/**dBmを受信していて送信に移ると、送信周波数が凡そKHz高目になる。
D超再生受信のクリチカルさ・・・超再生の再生レベルがスプリアス発射レベルに連動し、またそうしないと受信感度が上がらないもどかしさ。
Dバンド内に複数の搬送波・・・IC-7300(2km先のリモートシャック)のバンドスコープによると、5波程度確認できる。
Eクエンチング周波数のスプリアス・・・同IC-7300のバンドスコープによると120KHz間隔で確認出来る。
F電源インバータのノイズ・・・フィラメントの1.5Vでもノイズがあると3A5の一次電子を変調するので、細心の注意が必要。程良いLCフィルタの実装が必要。

こうした負の要件の取り扱いが過去の出版物では薄く、誤解を招く向きがあったのは否めない。かく言う自分もそうであった。
写真は無線部屋で腹這いにしてテストしている様子。後から気が付いたが、このセッティングも中々面白い。乗っているのはRS-BA1のリモートRCU-28。
下図は、上記を考慮して修正した回路図。受信は超再生としながら、送信は完全に独立させ水晶制御とした。超再生受信と送信終段に3A5を使い切ってOneTubeトランシーバの面目を保つため、変調・受信増幅は汎用ICのLM368等で行っている。 (2019.06.15)