GU-74Bのラッチアップ(仮称)について

ロシアSvetlana社の4極管GU-74B/4CX800Aは、冷戦後西側諸国にも出回り最もコストパフォーマンスの高い真空管として知られている。1998年以来この球に接するようになったが、アンプの製作と実験を繰り返す内に標記現象を幾度か体験した。ラッチアップと標記する事が適切であるかどうか分らないが、OPアンプのLatchUp現象に似ているので、ここではこの様に標記している。以下にそのGU-74Bアンプのラッチアップ現象と対策について記す。
写真左は4本のGU-74Bと専用ソケットSK-1A。下はラッチアップで悩まされた1.8-50MHzアンプ。


現象・・・
@GGでもGKでも、Ipを流して行くと突如としてIpが暴走しスケールアウト(1A以上は読めない)する現象で、復帰にはスタンバイスイッチで送信を解除するしかない。
Aスタンバイ回路によってはスタンバイスイッチでは解除できない場合もある。
BIpはCgバイアスを浅くしてもRFドライブを増加させてもIpが400mA程度流した(Hv=2.5KV、Esg=300V)辺りで発生する。
CIpは暴走するがRF的な発振ではないようでRF出力計は振れない。
Dタンク回路やその周波数には無関係。
E管が直流的に飽和点まで引張り込まれたような現象である。
F対策をするまで何度でも再現性がある。
GGKで発生する場合はGGでも発生する(或いはその逆もあり)。
H回路定数が同じでも機構的な違いでも発生する。
I直流的動作の様であるがV/UHFのRF(自己発振)がトリガーになっている可能性もある。

対策・・・発生の原因を調査中であるが、取りあえず
@Sg回路の電源とSg間に100Ω前後の抵抗かRFCを挿入する。
ACg回路は直流的にもHi-Zにならないようにする。

考察・・・この現象はSgの自己帯電による暴走に似ている。 GU-74B(4極管)はSgをオープンにしておくと、Sg電位はP-K管の電子(電荷)で自己チャージされ徐々に上昇し最後は暴走する。
短時間の調査では発見できずに終わってしまう場合が多いが、数分間以上おくと暴走が始まり1A/FS程度のIp計なら勢いよく振り切れる。
一般的にはCgバイアスを深くすれば回復するが、管自身でアバランシェ(雪崩)状態になっているため、程度によってはカットオフバイアスでは不足で、電源を切るしか復帰する術が無くなる場合がある。
Ip増→Esg上昇→Ip更に増→Esg更に上昇の繰り返し(連鎖)・・・・の様な具合。これはSgオープン時の話だが、似た様な事が実回路で発生しているのかも知れない。
ところが実際のSg回路にはSg電源を含めて程よき抵抗値の負荷がつながっているのでこの様な状況になる事は容易ではない・・・謎!。
当初Isgの電源への逆流を嫌いDiodeをSg方向に向かって入れていた事がある。これが原因とは断言できないが、ラッチアップが発生しDiodeを抵抗(47Ω)に交換して対策した事がある。Alfa社の91βは同様にDiodeが挿入されSgブリーダーは50KΩだが、実はこれをそっくり真似ていた。
Diodeにより、Sgから電源方向を見たインピーダンスが∞になりSgにつながるのはブリーダー抵抗とパスコンのみになる。ところがこのブリーダーの抵抗値を1/2又は1/4にしてもラッチアップの状況は変わらず、最終的に前述の対策となった。
つじつまが合わないのだが結果的にDiodeを47Ωに交換することでラッチアップが発生しなくなった。またSg回路のRFバイパスには手を加えていない。
GU-74B(4極管)はIpの流れ出し時にIsgが逆流し、+Esgを掛けているにも関わらずSgから電源方向に電流が流れ出る負性領域がある。もしSgにDiodeが挿入されていると、Isgがゼロになる前後はDiodeがON/OFFを繰り返し、Sgから電源を見たインピーダンスが大きく変動する。これをどう見るかがカギのような気がしている。しかし、具体的な解明には至っていない。

その他・・・ラッチアップが発生するのは極僅かで未体験の方が殆どだと思うが、可能性があることを念頭におくと発生時に慌てないで済む。
Ipがスケールアウトすると、プレート入力が2KWを越えAC電源ヒューズが飛び散る。オーナーはこの調査のためにヒューズをNFBに置き換え、何回も状態を再現して観察した事がある。
この一件でアンプ製作を断念した方もいらっしゃるのではないかと想像している。類似した経験をお持ちの方のリポートをお願いしたい。