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 いつだって、真剣勝負だ。
 四六時中、全力で挑み、全力で戦う。
 敵がどんなに巨大であったとしても。

「……すっごい」

 外野の、なんの気もなしの呟きが、それが、たまたま選手に大きく影響してしまうなんてこと。
 遇にあったりする。

「え?」

 次の瞬間、ガシャン!!とケタタマシイ音が鳴って、倒れた。スカートが、同時に派手にめくれ上がった。

 僕は目を見開いた。
 だって、自分の知る範囲内で、それは初めての敗北だったから。
 驚いた。

 痛ったぁ……という、うめき声の後、素早い動作ですぐに立ち上がった。
 スカートに付いた土、右手で軽く払いのけて。
 キッと、鋭い一瞥をこちらに浴びせて来た。
 僕は肩をすくめて、頭を下げた。ごめん、の一言がノドの辺りで引っ掛かった。
 真剣勝負を邪魔して、ごめん。

(あ)
 その気持ち、通じたんだか、通じなかったんだか、結局分からなかった。でも。
 目が、死んでない。まだ、ギラギラ光ってて。チャレンジャーのままだ。と、その時気付いた。
 重たそうな武器を細腕で起こして、もう一度。その目のままで、敵を睨みつけて。

 ごくっと唾を飲み込んだ。すっごい、と思った。
 負けたのに、なんて、なんて強いんだろう。なんて、カッコイイんだろう。

 渾身の力を右足に込めて。こぎ出す。
 右へフラフラ、左へフラフラ、あと3メートル……

 がんばれ、と声を掛けて、その小さい背中を押して上げることができたなら、どんなに。どんなにいいだろうとも思う。
 こんな僕でも、力になれたら。
 握った手のひら、じっとり汗に濡れてて、驚いた。
 慌てて、ズボンに擦り付けて、見守る。勝利の瞬間を。

 残り2メートル、大きく傾く、ハンドル握り直して無理やり方向を変える、1、メートル……あと少し、……最後の一こぎ……

 シャーッ!という快音とともに、向こう側へと、その小さな背中は消えて行った。

「やった!!!」

 と、思わず歓声を上げて、僕は見えなくなった背中を急いで追いかけた。もちろん僕の足じゃ敵わないことぐらい、百も承知の上で。

 僕は坂のてっぺんに立って、もう一度「やったー」と、拳を握る。

 131勝目だった。自分が知る範囲内によると。
 もうチャンピオンになったって、よさそうな成績だった。
 でもいつだって彼女は、チャレンジャーだった。果敢に挑んでいく、チャレンジャー。
 そしていつだって、勝つのだ。負けない。負けてなんてやらないんだ。
 恐ろしくカッコイイ。僕のヒーローだ。

 

 

 

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