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2 逃げちゃダメですか。 社会科資料室と書かれたプレートは微妙な角度に曲がっていて。 そんなことを廊下のど真ん中で考えてたら、通りすがりの頭のてっぺんが淋しいベテラン数学教師が長年の勘を働かせて、ドアを開けてくれた。ナオの代わりに。 |
全体的にホコリっぽい。 ナオはその有様に思わず顔をしかめた。 古びた装丁の本が棚を埋め尽くしている。 その本に囲まれるようにして、奥まったところに机とイスが一つずつ。 そこに、いた。 失礼しますって、敷居をまたぐ時に、ちゃんと声を掛けた。 「先生、あの、これどこに置けばいいですか?」 しーん。 反応なし、だった。 「あの……」 無視されてたわけではないみたい。振り返らないままの背中が答えた。 そこらへんに適当に。 だんだん先生の背中が近づいてくる。 「町田、体調でも悪かったのかな……」 突然名前を呼ばれて、ナオは反射で返事をした。 (あ。先生、左利きだ) なんて、また心の中でだけ発見して、ナオはじいっと先生の背中を観察した。 社会科教師。専門は世界史。ユリウス・カエサルが好きだとか何とか、この間の授業で言ってた。 え。 ナオは目をぱちくりとさせた。 「あと別に、どこも悪くなかったですよ」 シュッシュッと軽快に紙の上を走っていた音が、突然コロコロと机の上を転がる音に変わった。 先生の顔の、眉間の少し上あたりに、赤い小さな二重円があった。 「あ」 どっちの呟きだったのか。警告にしては遅かった。もうぜんぜん遅かった。 |
(あ、れ?) いつまでたっても、来るはずの感覚は来なかった。 ナオはずいぶん経ってから、恐る恐る目を開けた。 |
「……・・町田?」 (はい、そうです) 答える間もなく、ぐいっとものすごく強い力で、利き手のほうで、手首をつかまれて。 「先生、熱くなかったから!」 ナオは慌てて、フォローを入れる。 「ごめん、町田」 (だから、そんな泣きそうな顔しないでください) ナオの思いとは裏腹に、何度もごめんと先生は呟いた。 ぴこん!ぴこん!!ぴこん!!! 直感レーダーが最大級のけたたましさで鳴り響いた。 「ごめん」 何度目かのごめんに、はい、とナオは答える。平気です元気です。 「ごめんオレ、町田のこと好きだ」 はい、と答えそうになった。 |
「…………先生?」 ごめんの意味、よく分かんないですよ。 |
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