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3 痕とか残らないですから。 だから。 「…………だから?」 先生の手が、強い力で手首をつかんでいて。離してくれなくて。 |
「じゃあ、この間のテストを返すな。名前呼ぶから順番に前に取りに来て。……市川」
クラス委員長・市川さんが立ち上がって、ちらりと視線を寄越してきた。 ナオは、教卓の前でパリッとした淡い色のスーツを着ている人を見つめた。 「河合、久野、野呂……」 番号順に生徒の名前を読み上げる。 (第一、ずっと知ってた) 「平井、堀池……」 (ずっと知っていて、ずっと知らないフリしてた) 「町田」 ナオはゆっくりと、机と机の通路に一歩を踏み出した。クラス中が息をのみ込む音が聞こえた、気がした。 一人の生徒を特別扱いなんてダメで。ひいきする先生なんて生徒に嫌われるナンバーワン候補で。 (でも、先生だし) ナオは教卓の前に立って、手を差し出した。 「ごめん、な」 ナオはびっくりして顔を上げた。 昨日のコーヒーのこととか。 ナオはくるりと180度回転して、自分の席に戻ろうとした。 なんだかすごくダメダメだった。 いつも授業中、レーダーにひっかかるもの。 なのに、ごめんって。 |
「……ナオ?大丈夫?」 気遣わしげな声は二種類。 「ごめ……」 「もうっ先生!!女の子泣かしちゃダメでしょう??!!」 一際高い声が、教室中に鳴り響いた。 市川さんの雷に撃たれて、教室は静まりかえった。 「……町田泣いてるの?」 って優しげな、間の抜けた声で。 「ありがと。ごめん、もう大丈夫だから」 「敵討ちしてやる」 黒板の大きさをフル活用して、カツカツカツ、と手を大きく動かしていく。 ナオは席に座るのも忘れて、口をぽかんと開けた。 「……河合、これなに?」 自習。3組は、今からグランドに出てサッカー。 「ええっ?だってこれから、テスト返し終わったら、解説して、授業もやるよ?」 先生は、何か言おうとして、やめた。 「私、職員室行ってグランドの使用許可とってくるわ」 がたがた、と立ち上がる音が複数形でした。 |
気が付いたときには、二人きりだった。 |
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