伸ばした手は、さみしく虚空をつかんだ。 明日への蓄えが必要だった。微々たる毒だが。
ガソリンを、黒いエネルギーへと切り替えるためのスイッチが必要だ。早急に。
指の先で探り当てた軽い感触を引き寄せる。
つかんだ瞬間、くしゃ、と砕けた手ごたえのなさに、ため息がもれた。
気づかれないように、低い舌打ちは闇の中へと隠す。
戻しかけた肘がベッドサイドをかすめて、ぴ、という軽快な音を鳴らした。
しまった。
目に鋭い痛みが走り、血の色をにじませる。
電気スタンドに照らし出された輪郭をなぞって、影がとらえた。
光のあと。
泉のように湧き出た涙が、小さな川を作ってシーツまで流れていた。
知らずたどっていた親指で、その余韻をぬぐい取った。
罪は白日のもとに晒される。
泣き疲れて眠った表情は、年齢相応、やわらかく幼い。
後悔はニコチンよりも苦々しい。
そっと顔を近づけて、涙に毒を混入する。
声もなく身じろぎをして、わずかに乱れた呼吸にどうしようもなく煽られる。
毒が足りないのだ。
染み付いた煙のにおいを嫌うように、眉を寄せる顔がいとおしくてたまらない。
きっと、この少女の頭上を覆う暗雲を吹き飛ばすような風は吹かないだろう。
あたたかな昼間の日差しはここまで届かない。
人工物の光に照らされるだけで。
布団からはみ出したこの細い腕は、はたして育っていけるものだろうか。
ほっそりとした手首をつまんで、布団の中へともぐらせた。
外気を感じた身体が、ぶるっと震える。
まぶたを閉じた裏、夢の中にいてもまだ泣いているのだろうか。
さみしい、とよく鳴く。口癖のように。
なぐさめの言葉さえ摘み取って、代わりに種を植えつけてきた。
水の代わりに毒を、日光の代わりに電気スタンドの光を。
そして花開いた少女は、きれいだろうか。
今はまだ。
震える肩を抱き寄せて、閉じ込める。
光など射さなければいい、シーツの下、誰にも見つからなければいい。
閉じた目を二度と開かなければいい。
その罪は深い夜のもとに晒される。
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