+救いの人+ ++TOP
1 いつも、朝の風景は、唐突に階段から始まる。 気持ちだけ身体から抜け出して、先に階段を駆け下りていくのが見えた。 (待って!) 足がもつれて、気がついたらコンクリの地面に頭突きをくらわしていた。 また、遅刻だ。 お前次遅刻したら、どうなるかわかってんだろうな。 電車はゆるやかに加速を始めて、手の届かないところへ。 こういうときだけは、自分の生まれを呪う。 |
「ちい子さん?」 空から降ってきた声は、頭のてっぺんで溶けて消えた。 朝の眩しい太陽を背にしていて、顔がよく見えない。 「ちい子さん、大丈夫ですか?」 伸びてきた白い手袋をした手が、肘を掴んで、立たせてくれる。 「駅員さん?」 帽子のつばの影で隠れた顔が、こっそりと微笑む。 駅員さん。 冬柴さん。 と、右目で至近距離の名札を映しながら、思う。 いつも、絶望の淵から私を救いあげてくれる人。 |
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