お供の双眼鏡たち 

= あるいは双眼鏡讃歌 =





【ニコン8×30EUと10×35】  【ニコンSP=7倍50o双眼鏡】

【フジノン・メイボー=14倍70o双眼鏡】

【メガネのマツモト製=EMS双眼望遠鏡 ミザールFA80mm F8】

【メガネのマツモト製=EMS双眼望遠鏡 SCHWARZ150mm F8】







【ニコン8×30EUと10×35】(2003.07.31)

  新しい双眼鏡を手に入れてからふた月ほど経った。「また?」と言われるのは確実なのでまず言い訳を。
  実は、別のコーナーで話しのネタにしたフジノンの10×70だが、見え味が不満だったので(あくまで星の見え味ですけど…)人に譲ってしまい、そのお金で買ったもの。
  その双眼鏡とはニコンの8×30EU。リンクを貼っている「私のカメラと双眼鏡」の小田さんが絶賛する双眼鏡である。

  購入に到るには伏線があって、じつは同じニコンの10×35を20年ほど前から愛用しているのだが、これを小田さんに見てもらったところ「像に黄ばみが出ている」と言われた。実際ほかのと比べてみると、確かに黄色い。これは古くなったものに多く見られる「劣化」のひとつらしい。
  そんなとき運良く(悪く)目の前にヨドバシ価格の2割引の半新品がぶらさがった!。で、病気が再発。「これを買わなきゃあ男の名折れ!」と、飛びついてしまったのだ。

  でも、他人様の話は聞くものとはよく言ったもので、まず最初、本当にすっきりした明るい像が楽しめて嬉しくなってしまった。
  次に嬉しいのが視界の広さ。実視界8.8度は見かけ視界70度を超える。大げさに言うと「視野の輪っか」が広すぎて見えなくて双眼鏡を覗いているのを忘れるくらい!。天文屋の定番7×50は高級機で7.5度。実視界は52度ほど。これと見比べると7×50は「井戸の中を覗いている」感じだ。
  次は、最短合焦距離。カタログでは3メートルだが、足元のちょっと先にピントが合うと言う感じだ。花や蝶のアップが楽しめる!「望近鏡」である。
  次に倍率。前出の7×50の7倍は実に人間工学的な倍率で、これより高いとブレが気になり、低いと解像度に不満が出るのだ。実際、10×35が今ひとつ気に入らなかったのが高倍率による像の不安定さ。だから7×50より1倍高い8倍にも、あまり期待しなかったのだが、575グラムという軽さがプラス1倍を補って、実に落ち着いた観望が楽しめる。
  それから、双眼鏡の「性能」で天文屋の間でよく言われるのが「周辺像」。この8×30はその点けして良いわけではない。ところが、軽量な双眼鏡を手持ちで覗いていると、見たい対象はいつも中央に置こうとするので、無理に周辺を見つめることはない。ただし、中心での切れ味は絶対譲れないが、コチラは全く文句がない。
  一方、対象を探している間は広い視野は圧倒的に有利なので、両方を兼ね備えていないとうまくない。
  ただ、逆に視野全体が均一な像が望まれる場合もある。それは「固定」して見る場合。どうしたって見えている範囲全部を注視してしまうし、あまりふらふら振りたくないため多少中心からずれていても見続けるので、周辺像が悪いと気分が悪い!。
  実は、ひとつ心配だったのがアイリリーフ。どれだけ目を離して視野全体が見えるかの距離だ。このEUは13.8ミリ。乱視でメガネが離せない私にはちょっと心配な数字。実際「メガネ使用ではムリ」と言う人もいた。ところが私にはちょうど良かった!。平べったい顔に産んでくれた親に感謝しよう!。むしろ、接眼部を顔に押し当て気味に覗くので安定性が増す。これも「8倍」での安定性に大いに役立っている。
  ただし、これにも逆の場合がある。やはり「固定して使う場合」。「固定法」は大体何かに寄りかかるかカメラ三脚。顔が触れれば視野も振れてしまう。触れないためには目を離して見る。そのための「距離」が必要。これが特に天文用に長いアイリリーフが求められる所以ではないだろうか?

  8×30は、小型双眼鏡を作るメーカーなら必ず持っているスペック。6×30、7×35、9×35、10×35・・・似たようなスペックが出てくる中で、連綿と続いているこのスペックには、やはりそれなりの理由があった!・・・と思い知った「無駄遣い」だった。

  ところで、お役目を奪われた10×35だが、よくみれば見掛け視界66度。アイリリーフは8×30と同じ。実は8×30の兄貴分といえる堂々たるスペックである!。このままお蔵入りにするのも忍びなく、小田さんに相談したら案の定、「物自体は優秀な双眼鏡ですから私ならオーバーホールするでしょう。あのクラスの双眼鏡を1万円以下(オーバーホールの相場)で買える訳がありません。」とのお言葉。
  なんとも技術者が気合を入れて作ったものに対する慈しみあふれる発言ではありませんか!?。

  写真は、新品の8×30(上)と古い10×35。一緒に写っている切手は「第50回愛鳥週間記念」切手。絵柄の双眼鏡は、たぶん「通」のバードウォッチャー御用達、ニコン7×35かな?




【ニコンSP=7倍50o】

  ニコンの最高級機種のひとつというだけあって、視野の周辺までほとんど変わらない星像を結んでくれます。
  スペック的には7倍50o、視野7.3度というきわめてなんでもない性能ですが、機密構造で内部には不活性ガスが充填されています。   また、最近気がついたのですが、たいていの双眼鏡は接眼部がついている平らな部分に会社名やスペックが「書かれて」いますが   このSPの場合、文字を凸状に浮き出してありますが、色は付いておらず真っ黒。推測するところ、 この種の双眼鏡は船乗りさんたちのためにあると言っていいほど海で使われていますが、昼間覗いたとき 白い文字は視野の端に映って目障りなのかも知れません。夜間の使用ではあまり問題になりませんが、 こういった気配りはやはり嬉しいものです。
  重さは1.5キロほどあって、手持ちで見るには少々重いのですが、7倍という倍率が人間の体にあっているのか、 結構問題なく使えます。もちろん、三脚に固定して使うと冒頭お話ししたような綺麗な点状の星が 視野いっぱいに見えて本当に嬉しくなってしまいます。





【フジノン・メイボー=14倍70o】
  この双眼鏡は、買ってからすでに20年は経とうかという古いものです。
  今でこそフジノンというメーカーは、双眼鏡の分野でニコンやキヤノンと肩を並べて一歩も譲らない ような高品質の双眼鏡を世に送り出していますが、当時25倍150oという巨大双眼鏡を出していながら、 ニコンの最大機種の20倍120oより像が甘いという、ウソだかほんとうだか分からないような風評の中で 特に彗星観測家の中で苦戦していたように記憶しています。しかも、それを裏付けるように、実績=彗星発見がありませんでした。
  しかし、「反主流」的彗星観測家の中で、少しずつ使う人が増えていて、誰だったかがその双眼鏡で新彗星を発見すると、 まるで堰を切ったように、発見される新彗星のそのほとんどがフジノンという時代が来て今に至っています。
  そんなフジノンが冷や飯を食っていた時代の終わりの頃の器械がこの「メイボー」だと思います。そして、 現在の超一流メーカーになる素質を感じさせるのもこの器械です。もちろん現在の「FMT−SX」に比べたら、 周辺はがた落ち、アイポイントも短いのですが、それを感じさせないほど中心部の像がきりっと引き締まっています。
  また、長年の乱暴な使用であちこち傷だらけ、レンズにもカビやコーティングの浮きのようなものも見られるのですが、ピントも、機械部分も全く異常がないことにはむしろ驚くべきでしょう。





【メガネのマツモト製=EMS双眼望遠鏡 ミザールFA80mm F8】

  EMSは、Erecting Mirror Systemの略。発明者の松本龍郎氏は、鳥取市内で眼鏡店を経営する傍ら、独自の望遠鏡開発に情熱を傾けている人です。
  自宅兼お店の屋上には、自ら設計・製作した天文ドーム。その中には、これもまた自ら設計・製作した15p超高性能アポクロマートレンズによるEMS双眼望遠鏡が設置されています。
  天体望遠鏡はそのまま覗くと像が逆さまに見える“逆像”です。星見人はこれを「当たり前」のことと受け止めるのがいわばステイタスでした。でも、観望会で普通の人に見せたとき「なんで逆さまなの?」と何度も聞かれて閉口していたのも事実。
  これに真っ向から挑戦したのが松本さん。双眼鏡が上下逆さまになっていないのは、プリズムで光路を4回反射することで倒立像をぐるっと半回転させているからなのですが、低倍率の双眼鏡なら問題にならない「像の劣化(=暗くなる)」が、 欲張って「もっと高倍率に」と思うと大きな問題になってきます。そこで何とか反射する回数を減らして正立像を得られないかという問題に挑戦して見事その「解」を見つけたのがEMSでした。わずか2面の反射で、しかも天体望遠鏡としては嬉しい天頂型。さらに極めつけは、曲げ方を逆にした一組を使うと、双眼鏡のように目幅を寄せて、より大きな口径の 双眼鏡として使うことができるという一挙三徳の夢のようなシステムです。
  詳しいことは松本さんのホームページをご覧ください。
  私の80oについているEMSは、10年近く前に製作された2世代目くらいの“初期型”で、角張っているのが特徴です。
  双眼望遠鏡システムも松本さんの製作になるもので、現在のものは目幅調整機構などが、もっとシンプルでかつ精度の高い構造になっていますが、初期型の目幅調整機構も、製作者のこだわりの一局面を見る思いがして捨てがたいものがあります。
  使ってる鏡筒は「日野金属」(ミザール)のフローライトアポクロマートで、Fが7.5とやや明るいにも関わらず シャープな見え味で定評がありました。
  最初これをカートンのTA経緯台に載せていましたが、バランスを取るのに重いウェイトを付けなければならず扱いにくかったので、ドブソニアン形式の木製フォークやテレビューのT2経緯台の載せていました。しかし、なかなか思うような動きがえられず、今は松本さんから平行移動装置を分けてもらい、写真のようにカートン・スーパーノバ赤道儀の極軸を垂直に立てた架台をビクセン・スカイセンサー2000で動かす「自動導入・自動追尾」式双眼望遠鏡として使っています。
  見え味は、完全な色消しで味気ないくらいシャープです。





【メガネのマツモト製=EMS双眼望遠鏡 SCHWARZ150mm F8】
  これは、私のいちばん新しい双眼鏡で、2002年6月に完成・納品されました。もちろん製作は松本龍郎氏。
真っ黒な鏡筒は笠井トレーディングが「SCHWARZ」という製品名で取り扱っている望遠鏡で、台湾のメーカーが中国で製作しているものだそうです。
  アクロマートレンズとはいえ15pの大口径屈折望遠鏡が10万円でお釣りが来る値段で買うことができ、 それでいて目の肥えた望遠鏡マニアも唸るような性能で一躍評判になっています。
  この双眼鏡、他の松本さんが作っている双眼望遠鏡の中では“異色”で、他のものが一方の鏡筒を左右に移動することで目幅の調整をする構造なのに対し、これは鏡筒を両方とも固定してあり(もちろん正確に平行にしてありますが)、 接眼部の手前に配置したヘリコイドを伸縮することで目幅の調整をするようにしています。
  この目幅調整機構は、ペンタックスのヘリコイド接写リングをほとんどそのまま使用しているのですが、 その「コロンブスの卵」的なアイデアが“価値”そのものといえるビックリ超簡単メカです。
  私は、これに敬服・感激してこの器械の購入を決めたと言っても言い過ぎではありません。
また、この巨大双眼鏡を載せている架台も驚きの一品で、一見ビクセンのフォーク式経緯台をそのまま使っているように見えるのですが、実は、要所要所に松本さんの「特注」部分があって、結果としてこのシンプルさが実現されています。
  さらに、左右に飛び出しているのは双眼鏡を振るためのハンドルをかねた、前後のバランスを取るための ウェイトです。楽しいのはこのハンドル。左右に大きく離した形で配置しているため、両手を添えると まるで大型のオートバイのハンドルを握っているような感覚があることです。
  ファインダーはボーグの正立プリズムを組み込んだ「正立タイプ」。松本さんが望遠鏡付属のファインダーを改造したものですが、接眼レンズの取り付けもアメリカンサイズに改造してあって、手持ちの接眼レンズと交換して使うこともできるようになっています。
  ところで肝心の見え味はといいますと、残念ながら納品が梅雨の真っ最中とあってすっかりあきらめていたのですが、数日後幸運にも梅雨の晴れ間が1晩だけ訪れ、月齢10の月と春の星団を堪能することができました。
  まず、月のすばらしさは特筆もので、本当にどんなに細かい地形までも見えているのではないかと思うほど、 土地の起伏と明暗がわかり、正像であることも手伝って、はじめてみるような感覚に陥ってしまいました。
  次に二重星ですが、琴座のイプシロンや牛飼い座のイプシロンが、綺麗に分離できるのはごく当然のことですが、 その模範的な星像と琴座イプシロンの微妙な光度差の違いがはっきりと分かること、そしてかなりの低倍率で それが分かることなどに驚かされます。さらに、低倍率で楽しめる白鳥座のアルビレオや大熊座のミザール、猟犬座のコールカロリなどは周囲の無数の星の輝きとともに眺めることができ、これもまた、はじめてみるような感動を覚えました。







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