戻る

前ページへ

〜75000HIT記念リクエスト小説<HU7様へ>〜

アトリエ大王 Vol.4


Part−7 本番

不敬罪

「よぉし、そろそろ盗賊の出番よ。用意はいいわね」
おぅよ! まかしとけってんだ!・・・野郎ども、わかったな!
「あ、ああ」
「うむ・・・」
「どうしちゃったんだろう、ノルディス君、すごい迫力・・・」
「・・・ちょっと効き目がありすぎたかしら」
「アイゼル? 何をしたの?」
「さっき、ノルディスに飲ませたお茶に、『白と黒の心』を混ぜておいたんです」
「あ、なるほど。アイゼルちゃん偉い!」
「それはいいのですが、大丈夫でしょうね」
「何よ、クライス」
「設定では、盗賊は門番を殴り倒して城内に侵入することになってましたよね。もちろん、殴るふりをするだけですが」
「ええ、そうよ」
「粗暴な性格になった今のノルディス君に、抑えが効くでしょうかね。『門番』役のブレドルフ国王を、本当に殴ったりしたら・・・」
「・・・!!。わ、わーーっ! ノルディス君、抑えて、抑えて!」

無意味

「今度は宮廷の場面だね。エリー、『国王』役のルイーゼさんのセリフを書いたカンペを用意しておいてね」
「あ・・・」
「どうしたの、エリー?」
「ダメですよ。ルイーゼさん、眼鏡かけてないですもん」
「あ、そういえばルイーゼさんって・・・」
「すごい近視。カンペなんて読めないですよ」
「あっちゃあ、しまったあ!!」
「あ、もう幕が上がっちゃいますよ」
「うわ、ダメだあ」
『ああ、何ということだ、魔法の護符が盗まれてしまうとは・・・。姫も、なんという無残な姿に・・・』
「あれ?」
『皆の者、国中に触れを回せ! 魔女と戦うことのできる勇士を、草の根分けても探し出すのだ!』
「ルイーゼさん、すらすらセリフをしゃべってるよ」
「本番に強いんですね・・・」

たまりません

「さあ、次は街道の場面よ。勇者の一行が、木に登って動けなくなったねこを助けるシーン。『街路樹』役のハレッシュさん、『ねこ』役のフレアさん、スタンバイして!」
「ああああ」
「ちょっと、ハレッシュさん!」
「フレアさんフレアさんフレアさんフレアさん」
「こらぁ! 街路樹がしゃべっちゃダメよ! それに、ちゃんとフレアさんを支えてあげて!」
「フレアさんフレアさんフレアさんフレアさ〜ん!!」
「だめですね」
「そうね。フレアさんを抱いてるようなものだもんね」

乱入

「こらぁ! なんだこれは! こんな話は聞いてなかったぞ!」
「あれ? 何だろ? 客席が騒がしいなあ」
「こ、この不届き者!! フレアから離れろ!」
「あ、ディオさんだ(汗)」
「こいつめ、引きずり下ろしてやる!」
「兄貴、落ち着け!」
「うるさい! 止めるなクーゲル!!」
「わあぁ、ディオさんが!」
「誰か、止めろ〜!!」

練習したのに

「あ〜あ、ディオさんが乱入したせいで、ずいぶん時間をくっちゃったなあ」
「この劇場の今日の出し物は、私たちの劇だけではありませんからね。少し“巻き”を入れないと」
「う〜ん、仕方ないなあ、よし、こうしよう!」
「ふふふふふ。そろそろわたしの出番のようね。役者としての格の違いをイングリドのやつにたっぷりと見せつけてあげるわ」
「あ、ヘルミーナ先生。あの・・・申し上げにくいことなんですが」
「何よ」
「時間がないので、『村人B』の出演シーンは、カットすることにしました」
「え・・・?」
「あの〜、ですから・・・」
「・・・・・・くっ」
「あれ、なにかあったんですか、マルローネさん。ヘルミーナ先生、すごく落ち込んだ顔してましたけど」
「失敗だったかなあ(汗)」

勇者参上

「さあ、いよいよクライマックスシーンよ! 勇者パーティと『黒騎士』率いる魔物集団との対決! みんな、気合入れていってね!」
「おぅ! 目一杯盛り上げてやるぜ!・・・『魔物どもめ! 正義の刃を受けてみやがれ! おめぇらもぬかるんじゃねえぞ!』
「あの〜、親父さん、微妙にセリフ回しが違うんだけど・・・。勇者なんだから、勇者らしい口のきき方をしてほしいんだけどなあ」
「あの人にそこまで期待するのは無理ですね」
『ふふふふ、貴様ら虫けらがいくらいきがったところで、所詮は蟷螂の剣。冥府魔道に陥ち、永遠の苦痛にのたうつがいい!』
「それに比べて、『黒騎士』役のミルカッセって・・・」
「意外な才能ですね・・・」
「ダークシスター?(汗)」

暴走

『出でよ、わが魔界の手下たちよ!』
「さあ、出番よ。妖精さん軍団、出動!」
「わ〜っ!!!」
「やっぱりギャグにしか見えませんね」
「ふっふっふ。そう言われると思って、秘密兵器を用意したのよ。・・・シア!」
「は〜い! さあ、アポちゃん、行くのよ」
「マルローネさん! 何ですか、あれは!?」
「本物のアポステルよ」
「な、なんてことをするんですか!」
「だいじょぶだってば」
「あっ!」
「どうしたの、シア?」
『はたき』が折れちゃった。どうしよう、コントロールできないわ」
「えええ!? ちょっと、勇者パーティ! 真剣勝負よ、やっつけちゃって!」
「そ、そんなこと急に言われても・・・。杖も持ってないし」
「俺にまかしとけ! どりゃああ!!」
「親父さん!・・・すごい、一撃で倒しちゃったよ」
「どうでぇ!」
「ナイスまぐれ当たり!!」
「まぐれじゃねぇ!」

お約束

「さあ、『黒騎士』軍団を撃破した勇者パーティ、『悪の魔女』と最後の対決よ!」
『おーっほっほっほっほ、飛んで火に入る夏の虫とは、おまえたちのことさ! わが魔力のすさまじさ、思い知るがいい!』
『くっ、いかなる攻撃を受けようと、わが心に燃える正義の炎は消えぬ!』
『緑の大地を、人々の平和な暮しを、おまえのようなやつに渡すわけにはいかない!』
『くらえ! 超熱血斬り!!』
『う、うおおおお! なぜだ・・・わが結界が破られるとは・・・。くそ、覚えておれ! この恨み、いつか必ず晴らしてくれようぞ!』
「あの〜、マルローネさん、この場面、あなたの指示通りにセリフを書いたのですが」
「ん? どうかした、クライス?」
「あまりに“お約束”なセリフが多すぎませんか?」
「まあいいじゃない。大衆が求めているのは、高邁な思想じゃなくて、陳腐でも“燃える展開”なのよ。ほら、聞こえるでしょ、あの拍手喝采」
「正論ですね・・・」


Part−8 カーテンコール

読んでない

「で、この後どうなるんだっけ?」
「マルローネさん! あなたは台本を読んでいないのですか」
「いや〜、全部読もうと思ってたんだけど、途中で寝ちゃってさ。まあ、あと一幕だし、なんとかなるかなって思って」
「まったく・・・あきれましたね。いいですか、ラストシーンでは、呪いが解けて美しい髪の毛と声を取り戻した王女が喜びの歌を歌い、宮廷の全員で歓喜の舞を舞うのです」
「ふ〜ん、そう・・・って、ちょっと待てぇい!!」
「な、なんですか、そんな大声出して」
「王女が・・・王女が歌うんですって!? 王女ってことは、武器屋の親父さんよね。親父さんが、歌う!?

非常識

「はい、それがどうかしましたか?」
「あ、あんたって人は・・・なんてことするのよ!?」
「はあ? 何のことです?」
「武器屋の親父さんの歌のこと、聞いたことないの!? あの、“歌う殺戮兵器”の噂を!」
「はあ、私はそのような世間の俗事には疎いものですから」
「ああん、もう、この非常識男!! こんなやつにシナリオをまかせるんじゃなかったわ!」
「あなたのような非常識な女性に言われたくはありませんね」
「そんなことよりも、大変だぁ! なんとかしなきゃ」

危機

「ストップストーップ!! その場面、待ったぁ!」
「ダメですよ、マルローネさん! もう幕が上がります。あなたが出ていったりしたら、舞台がぶち壊しになってしまいます」
「観客全員が廃人になるよりはましよ!!」
「そんな大げさな」
「大げさじゃな〜い!!」

時間よ止まれ

「どうかしましたか? そんなに騒いで」
「あ、エリー、大変よ、なんとかして! このままじゃ、親父さんが歌っちゃう!!」
「ええっ!? やっぱり台本通り歌わせるつもりだったんですか!? 自殺行為ですよ!」
「あああ、どうしよう」
「どうするんですか? 幕が上がっちゃいましたよ」
「そうだ! クライス、あたしの荷物取って!」
「は、はい」
「よぉし・・・」
「マルローネさん、それは・・・!」
「お願い、当たって! 時のぉ・・・石版!!」
「なんでそんなもの持ち歩いてるんですか・・・」

くちパク

「やったぁ! 命中しましたよ、マルローネさん」
「見事に固まってますね」
「ふう・・・。危機一髪ってところね」
「でも、歌はどうするんですか? 歌がなかったら、舞台全体が間の抜けたものになってしまいますよ」
「クライス! あんたの責任なんだから、あんたがなんとかしなさい」
「そんな理不尽な・・・」
「そうだ! エリー、あなた、代わりに舞台裏で歌いなさい」
「ええっ!? そんな、いきなり言われても・・・」
「のど自慢大会の優勝者なんでしょ!? やればできる!!」
「そんなあ」
「はいはい、イントロが始まっちゃってるよ。このお芝居の成否はあなたにかかっているのよ、行きなさい!」
「理不尽大王ですね・・・」

無我

「やったぁ! お芝居、大成功」
「あ、親父さんの『時の石版』の効果が切れてきたみたいですよ」
「ん? あれ? なんだ? どうしたんだ? 俺の歌は? どうなってるんだ?」
「親父さん、お疲れ様でした。素晴らしい歌でしたよ」
「何だとぉ? 俺は歌った覚えはねぇぞ! マリー、どうなってるんだ?」
「ははあ・・・。それは“無我の境地”ってやつですよ。すべてを忘れて浸ってらっしゃったんですね。さすがです。常人にできることじゃありませんね」
「そ、そうか? そりゃまあ、俺ぐらいの天才ともなれば、そのくらいのことはな。がっはっは」
「ふう・・・。なんとかごまかせたよ。単純な人でよかった」
「よっしゃあ! 期待に応えてアンコールと行くか!」
「やめてくださいっ!!」

リベンジ

「お疲れ様でした〜」
「おう、お疲れ」
「裏方、ご苦労様」
「楽しかったわ〜」
「また今度やろうね」
「フレアさんフレアさんフレアさん・・・」
「いや〜、終わったわねえ。よかったよかった」
「成功したのは奇跡に近いですね」
「ふ・・・ふふふふふ」
「あれ、ヘルミーナ先生」
「来年・・・来年こそ」
「どうしたのかな?」
「来年こそ、特等を引いて、主役を演じてやる・・・。ふふふ。ふふふふふ」
「来年の福引には、特等はないんじゃ・・・(汗)」

恐怖の大王

「それでは、『アルケミィ・クエスト』の公演成功を祝して・・・」
「かんぱ〜い!!」
「あああ、フレアさんフレアさんフレアさん」
「こらぁ! ハレッシュ! おまえがなぜここにいる! おまえは出入り禁止だ!!」
「お父様、落ち着いて」
「くはあ! お酒がおいしい!」
「マルローネさん、あんまり飲み過ぎないでくださいよ」
「お〜い、誰かなにか芸やれ〜」
「よっしゃぁ! 一番手は俺だぁ!!」
「お、親父さん」
「気分がいいから思いっきり歌うぜ! 『喜びの歌』だぁ!」
「うわぁ、やめさせろぉ!」
「クライス! 『時の石版』出して!」
「もうありませんよ」
「誰か、耳栓、耳栓!」
「逃げろ〜!!」
「あああ、間に合わない〜!!」
「助けてくれ〜!!」
「みなさん、さようならーーーーっ!!」

〜THE END〜


<キャスト>

勇者:武器屋の親父
貴族出身の騎士:エルフィール・トラウム
平民出身の騎士:アイゼル・ワイマール

王女:武器屋の親父
国王:ルイーゼ・ローレンシウム
大臣:ロマージュ・ブレーマー
侍女:ダグラス・マクレイン
踊り子:ルーウェン・フィルニール
門番:ブレドルフ・シグザール

悪の魔女:イングリド
黒騎士:ミルカッセ・フローベル
黒の乗り手A:ピコ(紺妖精)
黒の乗り手B:ピエール(紺妖精)
黒の乗り手C:ペーター(紺妖精)
黒の乗り手D:プリチェ(青妖精)
黒の乗り手E:ピノット(緑妖精)
黒の乗り手F:パコ(緑妖精)
黒の乗り手G:ポポル(黒妖精)

盗賊(頭領):ノルディス・フーバー
盗賊(中堅):ナタリエ・コーデリア
盗賊(パシリ):シュワルベ・ザッツ

村人A:エンデルク・ヤード
その妻:“アレ”
村人B:ヘルミーナ
街路樹:ハレッシュ・スレイマン
ねこ:フレア・シェンク

<スタッフ>

企画・原案・製作総指揮・監督:マルローネ

脚本:クライス・キュール

AD:エルフィール・トラウム
衣装:フレア・シェンク
衣装協力:『職人通り』婦人会
音楽:『飛翔亭』楽隊
振付:ロマージュ・ブレーマー
協力:シア・エンバッハ
協力:ミュー・セクスタンス
協力:キルエリッヒ・ファグナー

提供:『職人通り』商店会

協賛:シグザール王室
協賛:ザールブルグ・アカデミー


○にのあとがき>

お待たせしました〜。「ふかしぎダンジョン」75000ヒットのキリリク小説(小説か?)をお届けします。
今回キリ番をゲットされたHU7さんからいただいたリクのお題は、「武器屋の親父が活躍するハチャメチャギャグ」というものでした。しかも、普通の(笑)では満足できないという・・・(汗)。

で、いろいろと悩んでいた同時期にハマっていたのが「あずまんが大王」(笑)。
そうか! このノリでやったらいいじゃん!・・・といういたって安直な発想からできあがったのが、今回の形式です。4コマ1本に該当する小話をいくつも積み上げて、全体としてひとつのストーリーを組み上げる、しかも、情景描写は排して会話だけで成立させる、という制約まで課してみました(そんなに自分を苛めて嬉しいか)。

こうして完成したネタはアトリエ、手法はあずまんがという作品ですが、いかがでしたでしょうか? それぞれの小話のタイトルにも頭を悩ませましたので、お楽しみください。なんか、親父さんじゃなくてクラマリが主役になってしまった感じですが(いや、親父さんが“主役”だということは間違いないのですが)。
ちなみに、最多登場はマリーで44篇。クライスとエリーが同点2位で26篇。肝心の親父は14篇と第4位でした(汗)。

ここで使われている“劇中劇”というネタは、ずっと以前からあたためていたものです(あああ、とうとうネタのストックが尽きようとしてる・・・)。キャスト(いかにアンマッチなものにするかがポイント)を考えるのは楽しかったです。

感想など、お聞かせいただければ、嬉しいです〜(^^)

[12月21日の追記]
さっそくというか、この作品に妄想を触発された絵描きさんから、いただきものがありました〜。ひろえさんからいただいた「ねこみみ」ネタです〜。


前ページへ

戻る