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恋のアトリエ・ドミノ Vol.15


第15章 第二の物語(8)

「く・・・」
強烈な向かい風を防ぐかのように、ローラントが腕を盾のようにかざして前傾姿勢を取る。音が物理的な衝撃力を持つことは、ヴィオラートも『三叉音叉』を使った経験からわかってはいたが、それ以上に心をすくませたのは、その叫びにこもった激烈で攻撃的な意志だった。ヤクトベアやドラゴンが戦いに臨んで発する雄叫びをはるかに越えて、戦いたくてたまらないという欲求に満ちあふれている。
「ヴィオ、この先の通路の構造は? どうなっている?」
素早く剣を構え、ロードフリードが早口で言う。
「ええと、すぐそこを右へ曲がると宝物庫で、その奥を右へ行くと――」
ヴィオラートの言葉が途切れた。大きく目を見開く。
「どうした、ヴィオ」
「奥を右へ行くと、“センセイ”の部屋です。あの叫びの主は、もしかすると・・・」
「“センセイ”? それは何者だ!?」
同じく剣を抜き放ったローラントが振り返る。
「ええと、盗賊団の用心棒らしいんですけど、すごく強い剣士です。とにかく、人間離れした――」
ヴィオラートは、簡単に自分の体験を語った。以前にアイゼルやカタリーナと共にテュルキス洞窟を探索したときの話だ。ヤグアールの首領が捨てゼリフを吐いて逃げ出した後、洞窟の最奥部の通路へ足を踏み入れると、ひとりの剣士――『究極の用心棒』が待ち受けていたのだ。人間離れした巨体を持ち、その巨躯にふさわしい剛剣を振りかざして、一筋も表情を変えずに襲い掛かってきた。精神攻撃や魔法攻撃は一切通用しない。防御にも攻撃にも優れ、長期戦になることは避けられなかったが、3人がかりでなんとか倒すことができた。しかし、それから数ヵ月後にもう一度来てみると、復活した『究極の用心棒』が涼しい顔で待ち受けていた。しかも、前に戦ったときよりも一段と強くなっており、倒すのははるかに大変だった。理由はわからないが、倒されれば倒されるほど、いっそう強大になって甦るのだろう。
「ですから、間違いなく、前よりも強くなっていると思います」
「ふ・・・、剣士か。ならば、相手に不足はない。正々堂々、正面から対決してやる」
ヴィオラートの心配をよそに、ローラントは不敵な笑みを浮かべた。敵が、幽霊や悪魔のような超自然の存在ではないとわかって、安心したのだろう。剣を構えなおし、前方をそろそろとうかがう。
「で、そいつは、奥の部屋に陣取っているのかい、ヴィオ?」
ロードフリードが問いかける。
「はい、あたしが以前に来たときは、そうでした。戦かったのは部屋の中だけで、そこからは出て来ようとしませんでした」
「しかし――」
ロードフリードは眉をひそめる。
「どうしたんですか、ロードフリードさん」
「つまり、ヴィオの話だと、その強い剣士は盗賊団の味方というわけだね。だとすれば、おそらく洞窟に侵入した“悪魔”と戦ったはずだ」
「はい、そうですね」
ボヤッキーの話では、脱出しようとした際、洞窟のいちばん奥から、誰かが戦っているらしい物音が聞こえてきたという。まさに『究極の用心棒』の居室からだ。
「どっちが、勝ったんだろう?」
その言葉に、数歩先に立って奥へ進もうとしていたローラントの足が止まる。ヴィオラートは、ロードフリードと顔を見合わせた。
「それじゃ、ロードフリードさん、あの叫び声は――」
「“悪魔”か、『究極の用心棒』とやらか、ふたつにひとつというわけか」
戻って来たローラントは、身をかがめて前方に延びる通路を見透かす。宝物庫へ向かう分岐はすぐそこだ。そして、その向こうの突き当たりで、通路は右へ直角に曲がり、その先には『究極の用心棒』が――または、正体不明の“悪魔”が――潜んでいるはずだ。
再び、洞窟内の大気を震わせて、激しい咆哮が轟く。伝説の狂戦士さながらだ。ローラントに代わって、ロードフリードが岩陰から通路の奥を見張る。
「ふむ、今のヴィオラート嬢の話からすると、相手が『究極の用心棒』ならば、奥から出て来られないはずだな。ここで待ち構えていても、進展はないというわけか。そうでなかった場合は、相手がどう出てくるか予想がつかない」
「はい」
ローラントの真剣な表情をまじまじと見詰め、ヴィオラートがうなずく。大きな瞳を間近に覗き込むことになって、ローラントはかすかに頬を染めた。なにか言いたげに、口元が震える。
そのとき、ロードフリードが呼んだ。やや早口になっている。
「ヴィオ、その『究極の用心棒』というのは、ストレートの銀髪を長く伸ばしているのかい?」
「あ、そうです」
「赤い鎧に青いズボン、丈夫なブーツをはいている?」
「はい、たしかそうでした」
「左手で銀色の大きな盾を構え、右手で抜き身の大剣を振りかざしている?」
「はい、その通りです。でもロードフリードさん、よくわかりましたね。戦ったこともないのに」
「ああ、簡単なことさ」
ロードフリードは、いったん言葉を切って、不自然なほど静かに言った。
「――本人が、その先に出てきているからだよ」
「へ?」
ヴィオラートはぽかんとし、間の抜けた声を出す。ローラントが身をひるがえしてロードフリードに並んだ。
「あやつが――」
「はい、ヴィオが言っていた『究極の用心棒』のようですね」
松明の揺れる炎に照らされて、巨大な剣士が岩壁を背景に仁王立ちしていた。ロードフリードが描写したままの姿で、左手に構えた銀白色の盾は新品のようにきらめき、右手で握る剛剣は血を求めるかのようにぎらぎらと輝いている。整った端正な顔立ちだが、血が通っていないかのように蒼白で、怜悧な光をたたえた双眼は無表情にこちらを見すえている。だが、何よりも強い印象を与えたのは、天井に頭がつくほどの上背だ。
「うそ・・・」
ヴィオラートが目を丸くする。
「前に戦ったときは、あんなに大きくなかったですよ」
「やつも成長しているってことだろう」
初めて見たため、比較の基準がないロードフリードは、さほど驚いてはいない。ローラントも冷静に状況分析をしている。
「うむ、この通路は狭い。身体がでかい分、やつは動きが取りにくいかも知れんな」
「でも、どうして――? あの、奥の部屋から出てくるなんて」
ヴィオラートはまだ、釈然としないようだ。だが、その疑問に答が出るはずもない。
パワーアップした『究極の用心棒』が、口を大きく開ける。今度の咆哮は、真正面からまともにぶつかってきた。先ほどの数倍の圧迫感に、3人とも思わず足を踏ん張り、前傾姿勢で耐えようとする。雄叫びだけで、圧倒されてしまいそうだ。無表情なだけに、かえって無気味だ。
ゆっくりと、巨大な剣を振り上げる。切っ先が岩の天井につかえそうになるが、気にもとめていないようだ。えぐられた天井から岩屑がぼろぼろと落ちる。並みの冒険者なら、この光景を見ただけで背中を向けて一目散に逃げ出してしまうだろう。
だが、ローラントにもロードフリードにも、えり抜きの竜騎士として鍛えられた矜持がある。ヴィオラートも、修羅場を踏んだ経験値だけは引けを取らない。
「まず、俺が」
先輩をちらりと見やり、ロードフリードが一歩踏み出す。ローラントは逆らわない。並んで長剣を振り回せるほど、通路は広くないからだ。それに、ロードフリードが先陣を切れば、自分はヴィオラートを守る役割に専念できる。当のヴィオラートは、背後で『秘密バッグ』を探り、爆弾を手に取ろうとしている。
「ロードフリード――行きます!」
ロードフリードの突進と同時に、『究極の用心棒』も一歩を踏み出した。巨体からは想像もできない俊敏さで、突進してくる。振り下ろされる剛剣を、ロードフリードの両手に握られた剣がまともに受け止める形になった。
「うわあっ!」
弾き飛ばされたロードフリードの身体が、岩壁にたたきつけられる。角度がなかったのが幸いし、直撃はまぬがれ、壁をこするようにずるずると倒れた。
「ロードフリードさん!」
「そっちは頼む!」
倒れているロードフリードに駆け寄るヴィオラートにひと声かけ、ローラントが通路に立ちはだかった。
「この先には進ません!」
両脚を踏ん張り、しっかりと腰を据えて、振り下ろされる剛剣を受け止める。
「ぐっ」
鋭い金属音とともに、わずかに剣のかけらが宙に舞った。ローラントの端正な顔が紅潮し、額に血管が膨れ上がる。勢いに押され、踏みしめた両脚が地面をずるずると滑ったが、なんとかローラントは敵の突進を食い止めた。二本の剣ががっきと組み合い、ぎらぎらと輝く刀身がすぐ目の前にあるが、ローラントはひるまず押し返した。だが、力比べで勝てないのはわかっている。呼吸をはかると、相手の剣を押し返すようにして、一気に飛び退った。
「ローラントさん!」
「おう! 無事だったか」
ロードフリードは既に立ち上がっている。ヴィオラートの『エリキシル剤』が効いたのだ。
『究極の用心棒』は、再び雄叫びを上げ、前進を再開しようとしている。ロードフリードとローラントは目を見交わすと、うなずきあった。言葉はなくとも、相手の考えていることはわかる。
「ヴィオ! やつの足を止めてくれ!」
「わかりました!」
下がるふたりを背に、ヴィオラートは『秘密バッグ』から――すなわちヴィオラーデンのコンテナから取り出した『メテオール』を発動させた。
空気をつんざく鋭いうなりとともに、次元の壁を越えて現れた無数の流星が『究極の用心棒』に降り注いだ。岩の天井があろうが関係ない。轟音と、飛び散る岩の破片の中、敵の巨体がたじろぐのが見える。
「ヴィオ! もういいぞ!」
「下がれ! 後は任せろ!」
背後からの声に、
「えい! もう一発!」
再度、流星の雨を降らせると、ヴィオラートは身をひるがえして走る。ローラントとロードフリードが並んで剣を縦に構えている間をすり抜けると、後方で振り返った。ふたりの構えは、もう知っている。竜騎士隊ドラグーンの最終奥義、合体技『ドラグーン・ノヴァ』が発動されようとしているのだ。
ふたりの竜騎士は目を閉じ、一心に気を集中させている。やがて、剣が虹色の光を帯び始めた。周囲の大気も、雷雨の直前のようにぴりぴりと緊張の度を高める。
前方では、立ち直った『究極の用心棒』が、涼しい顔でこちらへ向かって来る。『メテオール』の流星雨をくらっても、ほとんどダメージは受けていないようだ。
「うおおおおおおおっ!!」
気合のこもったふたりの声が響き渡り、竜騎士の長剣がクロスするように振り下ろされる。剣先に集中した“気”が、紅蓮の焔となって解放される。方向を絞り込んで放たれた強烈な“気”の流れが、『究極の用心棒』をまともにとらえた。
さすがの怪物も、もんどりうって後方へ倒れ、『ドラグーン・ノヴァ』の衝撃で崩れた天井が、岩の雨となって降り注ぐ。瓦礫の山が巨体を埋めつくした。
「やったあ!」
ヴィオラートの歓声を聞いて、ローラントとロードフリードは構えを解いた。油断なく、前方を見やる。
「やったか・・・」
「手応えは、ありました」
息をはずませながら、ロードフリードが答える。『ドラグーン・ノヴァ』は強力な分、体力の消耗も激しい。鍛え抜かれたごく少数の竜騎士にしか使えこなせないのには、理由があるのだ。
「あ――あれを!」
背後で、ヴィオラートが悲鳴に近い声をあげる。
前方の通路に積み重なった瓦礫が、動いている。声も出せずに見つめるうちに、人の頭ほどもある岩塊が弾け飛び、太い腕が現れた。なにかをつかもうとするかのように伸びる腕に続いて、銀髪を振り乱した頭部、そして瓦礫が崩れる激しい音とともに、『究極の用心棒』の全身が現れる。ほとんど傷ついている様子はない。
「く・・・」
ローラントはくちびるをかんだ。
「どうします?」
ロードフリードが振り返って訊いた。あわてている様子はない。
その間にも、立ち上がった『究極の用心棒』は剛剣を構えなおし、咆哮を響かせている。突進して来るのは時間の問題だ。
「よし、もう一度だ!」
気力を奮い立たせるように、ローラントが叫ぶ。
ヴィオラートが飛び出し、『メテオール』の連発で敵の出足を抑えているうちに、ふたりは数歩下がって、身構える場所を確保する。
「よし、いいぞ!」
ヴィオラートが下がると同時に、再び『ドラグーン・ノヴァ』が発動し、紅蓮に渦巻く焔が『究極の用心棒』を包んだ。轟音の中、敵の雄叫びが響く。
「だめですね」
数瞬の後、ロードフリードが静かにつぶやいた。
何事もなかったかのように、『究極の用心棒』は向かって来る。
「われらの切り札が・・・」
ローラントはがくりと膝をついた。必殺の気をこめた『ドラグーン・ノヴァ』の連続発動は、鍛え抜かれた竜騎士にとっても苛酷なのだ。『エリキシル剤』を手にしたヴィオラートが駆け寄る。


いつの間にか、戦いの場は第一層へ通じる階段の近くへ移っていた。それだけ、押しまくられていたことになる。狭い通路で正面切って一騎打ちを挑んだのでは、勝てないのはわかっている。そこで、ローラントとロードフリードは交替しながら、一太刀浴びせては下がるヒットアンドアウェイ戦法を繰り返し、間隙をついてヴィオラートが爆弾を投げる――そういった手段で戦ってきた。しかし、じわじわと前進してくる『究極の用心棒』を止められないでいる。
「くそ、もし、こやつが外へ出てしまったら――」
「とんでもないことになります」
ふたりの竜騎士の言葉に悲壮感が漂う。これまでの戦いで多少のダメージは与えたかも知れないが、味方の消耗度に比べればはるかに小さいだろう。まがりなりにも戦いを続けられているのは、ヴィオラートの回復アイテムのおかげである。この強大な敵を、普通の手段で倒せるとは思えない。
「絶対、そんなことはさせません!」
ヴィオラートが叫んだ。
「ローラントさん、ロードフリードさん、すぐに上へ避難してください!」
「どういうことだ?」
「ヴィオ、まさか!? 自爆する気か?」
「何だと?」
ロードフリードの言葉に、ローラントの顔から血の気が引く。
「ならん!――ならんぞ! わが身を犠牲にして刺し違えようなど、私が絶対に許さん!」
「へ?」
ヴィオラートがきょとんとする。ローラントはさらに言い募った。
「死ぬも生きるも、われらは最後まで一緒だ!」
「やだなあ、違いますよ」
ヴィオラートは『秘密バッグ』をまさぐり、テラフラムを取り出そうとしている。ヴィオラートが錬金術で創り出せる、もっとも強力な爆弾だ。
「倒せない相手なら、閉じ込めるしかないじゃないですか」
「なるほど、そうか」
ロードフリードの声に希望が宿った。
「洞窟ごと爆破して、生き埋めにしてしまおうというわけだね」
「はい、出口をなくしてしまえばいいわけですから」
「うむ・・・。やむを得ないか」
ドラグーンの公式見解としては、文化遺産や古代遺跡を破壊することには賛成できない。しかし、緊急事態である。ローラントは、しぶしぶ承認を与えた。
「階段を登りきったら、一つ先の部屋に隠れてください。――早く! あいつが来ます!」
切迫したヴィオラートの声に重なるように、『究極の用心棒』の咆哮が響く。ロードフリードとローラントは、険しい岩の階段を駆け上がると、北に向かう通路へ飛び込み、広くなった空間の壁際に身を潜めた。ローラントは右、ロードフリードは左だ。すぐに、軽い足音をたててヴィオラートが転げ込んでくる。
「もうすぐ爆発します!」
ヴィオラートの声に合わせるように、下から重低音の振動が響く。次の瞬間、階段部屋の床を突き破って、火柱が上がった。爆風が第一層を駆け抜ける。ローラントは思わず、隣に伏せていたヴィオラートの上に身体を投げ出してかばった。続いて、すさまじい轟音をたてて階段部屋の岩天井が崩れ落ちた。土埃が舞い上がり、岩の細かな破片が降り注ぐ。
ようやく振動が治まり、岩の崩壊が一段落すると、ローラントはそろそろと顔を上げた。爆風にあおられた背中がひりひりと痛むが、大きな傷は受けていないようだ。はね上がったヴィオラートの前髪が鼻をくすぐり、ひとつ、大きなくしゃみが出る。自分の下で、柔らかで温かな身体が、もがくように身じろぎした。
「お・・・重いよぉ」
「す――済まぬ」
あわててローラントは身を起こした。反対側の壁際でも、なかば岩屑に埋まったロードフリードが、そろそろと起き上がろうとしている。こちらを向き、状況を見て取ると、にやりと笑ってウインクをよこした。
「けがはないか」
起き上がるヴィオラートに手を貸し、ローラントは尋ねる。
「あ、はい、大丈夫です。ありがとうございました」
ヴィオラートはぴょこんと頭を下げた。
洞窟の中は、しんとしている。
3人は、あらためて階段部屋を――いや、階段部屋だった空間を見つめた。テラフラムの爆発の衝撃が真上に向かったためか、天井がドーム型にえぐれ、そこから崩壊した大小の岩の塊が、第二層と第一層とをつなぐ唯一の通路を埋め尽くし、積み重なって山のように盛り上がっている。
「どう・・・なったのかな」
ヴィオラートがぽつりとつぶやいた。
『究極の用心棒』は、テラフラムのすさまじい爆発の直撃を受け、倒れたのだろうか。爆風に吹き飛ばされたのだろうか。それとも、崩れた岩塊に埋まっているのだろうか。
「わからぬ。だが、この洞窟は永久に封印すべきだな」
「ええ、事情を知らない誰かが、発掘しないとも限りませんからね」
ロードフリードが、ヴィオラートをちらりと見やりながら言う。
「あ、あたしのことを言ってるんですか?」
「はは、冗談だよ」
ロードフリードはなだめるように幼馴染の頭をなでた。だが、ヴィオラートは反応しない。魅入られたかのように前方を凝視している。
「あ――あれ・・・」
「ん?」
ロードフリードもヴィオラートの視線を追う。
積み重なった瓦礫の山のてっぺんから、小さな岩屑がぽろりと転がり落ちた。続いて、それよりも大き目の岩が。そして、次の岩が――。やがて、山全体が、そこだけに地震が起きているかのように大きく揺らぎ始めた。
今や、大きな音をたてて岩が崩れ始めていた。そして、崩れた岩の隙間から、ぎらぎらと光る巨大な剣の切っ先が突き出る。
「うそ・・・」
「まさか――」
「いかん、下がれ!」
ローラントの指示で、3人は一つ先の通路へ後退した。その間にも、瓦礫の山を崩し、大きな岩の塊を弾き飛ばしながら、『究極の用心棒』の巨大な上半身が姿を現そうとしている。犬のように首を振って、髪にこびりついた岩屑を振り払うと、無表情な目をこちらに向けた。
またも、戦いを求める咆哮がテュルキス洞窟を揺るがす。
「来るぞ! なんとしても阻止するんだ!」
「しかし――」
「やつを、地上へやるわけにはいかん!」
「わかりました! 爆弾の在庫を使い切ってでも――」
ついに、『究極の用心棒』の全身が、派手に岩を跳ね飛ばしながら第一層に出現した。
「行くぞ、油断するな」
「はい!」
ローラントは、ヴィオラートに目を向ける。
「いざとなったら、おまえは脱出しろ」
「どうしてですか?」
怒ったように振り向くヴィオラートに、ローラントは静かに言った。
「誰かが生き残って、このことを皆に知らせなければならないだろう?」
「できません! 逃げるときは、みんな一緒です!」
「わかったよ、ヴィオ」
ロードフリードが、頼もしそうに見つめて、言った。
「ローラントさん、ここはヴィオに従いましょう」
一瞬ためらった後、ローラントはうなずいた。
「承知した。――では、行くぞ」
そして、剛剣を振りかざして迫る『究極の用心棒』に向き直る。ヴィオラートは『メテオール』を発動させるべく身構えた。
「うおおおおおっ!!」
こうして、舞台を第一層に移し、戦いはいつまでも――果てしなく続いた。


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