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名探偵クライス 番外編

狙われたマリー:解決篇


<クライス・キュールとマルローネの 漫才 会話>

「さあ、早く真相ってやつを聞かせてもらおうじゃないの!」
「まあ、そう興奮しないでください。真相は逃げて行きはしないのですから」
「なに言ってんのよ。あたしは燃えてるのよ!」
「いったい、何に燃えているというのですか。あなたがそんなふうに張り切ると、ろくなことがありませんからね」
「むっか〜! あたしはね、正義の鉄槌を下したいだけなの! 白昼、善良な市民を背後から襲って、逃げ隠れしている連中には――」
「どこが善良な市民ですか」
「ん? なんか言った?」
「いいえ、空耳でしょう。で、もし真犯人がわかったら、何をしようというのですか」
「決まってるじゃない、これをたっぷりとお見舞いしてやるのよ」
「マルローネさん、街中で爆弾を投げてはいけないと、イングリド先生から教わりませんでしたか?」
「だいじょぶよ。ちゃんと街の外に連れ出すから」
「そういう問題ではありません」
「さあ、お説教はいいから、さっさと犯人の名前を言いなさいよ」
「そこまでおっしゃるなら仕方ありませんね。犯人は――」
「うん、犯人は――?」
「・・・・・・」
「ちょっとクライス! 何を空を指差したりしてるのよ! ・・・あ、そうか、犯人は屋根の上にいるってことね。ということは、犯人はナタリエだったのね!」
「違います」
「そうか、あの子なら身軽だし、爆弾だって手に入れられるだろうし、あたしに正体を暴かれたことを根に持ってたとすれば、動機も十分だし。よぉし、それじゃさっそく、近くの森に呼び出して――え、違うの?」
「早とちりしないでください。まったく、これですから、あなたには迂闊なことを言えないのですよ。話は最後まで聞いていただきたいものですね」
「だから、さっきからさっさと話しなさいって言ってるじゃない」
「ですから、私は犯人は空の上にいる、と言っているのです」
「どういうことよ? あたしが神様から天罰を受けたとでもいいたいわけ?」
「まあ、そうは言いませんが、あなたの日常の生活態度からして、それに近いのかも知れませんね」
「ちょっと、ふざけないでよ! あたしは真面目に犯人が誰か知りたいのよ。――ああっ、わかった! あんた、もったいぶってるけど、実は誰が犯人なのか全然わかっていないんでしょ! だから、適当なことを言ってごまかそうとしてるんだわ! そうでなきゃ――あっ!」
「どうしました!」
「わかったわ、クライス! あんたが犯人なのね!
「ど、どういうことですか、マルローネさん」
「ふふふふ、策士、策に溺れるとはこのことね。探偵=犯人てのは、意外なようで、実はありきたりな設定なのよ」
「何の設定ですか」
「言い訳はみっともないわよ。そんなことでごまかせると思ったとは、あたしも甘く見られたものね」 「わけがわかりません」
「よく考えてみれば、動機がいちばんあるのはクライス、あんたじゃない」
「はあ?」
「工房でもアカデミーでも、顔さえ合わせればイヤミばっかり言って、あんたがあたしに恨みを持ってるのはよくわかってたわ。それでも飽き足らなくて、ついに実力行使に出た、と」
「マルローネさん、あなたは根本的に誤解しています。確かにメディアの森で手許が狂ったあなたのメガフラムの直撃を受けたり、ヴィラント山であなただけ先に逃げてウォルフの群れの中に取り残されたり、へーベル湖に突き落とされたり、腐ったミスティカティを飲まされたり、依頼の品を半年以上待たされたり、工房の掃除をさせられる羽目になったり、いろいろありましたけど――」
「復讐の動機には十分すぎるじゃない」
「でも、そんなことは何とも思っていません 私は、あなたのそばにさえい――」
「へ?」
「――い、いえ、何でもありません」
「どしたの? 顔、赤いよ」
「と、とにかく、あなたの推理は予断と偏見に満ちた、真実のかけらも含まれていない妄想に過ぎません」
「妄想で悪かったわね」
「とにかく、落ち着いて聞いてください。いいですか、これまで集めた証言から推理して、考えられる真相はただひとつです。マルローネさんの工房で起こった出来事は、人間の故意によるものではなく、天然自然の現象によるものだったのです」
「へ? どういうこと?」
「あなたも、昨年の秋、ザールブルグ近郊に大きな流れ星が落ちたことは覚えているでしょう」
「うん、あの時はショップで売ってる『星のかけら』が安くなって、ずいぶん助かったよ。でも、そのこととどんな関係が――え、まさか!」
「そう、そのまさかです」
「それじゃ、流れ星が天から降ってきて、それがあたしの工房を直撃したってこと?」
「それしか考えられません。ルイーゼさんの証言では、ここ数日『熊猫座流星群』の活動が活発化していたということです。つまり、あちこちで頻繁に流星が落ちていたということですね」
「でも流れ星って、夜しか落ちないものじゃないの?」
「あきれた人ですね。昼間だって、見えないだけで星は空に存在しているのですよ。日食の日には、昼間でも星が見えるでしょう。それと同じことです」
「う〜。そっか、そうだよね」
「証拠は他にもあります。ナタリエさんの証言では、工房のガラスが割れる音がする直前、突風のようなものを感じたということですが、これは流星が落ちてきた時の風圧を感じたのでしょう。また、ルーウェン君の証言でも、工房の周囲には人影はなかったということですから、事件が人為的なものではなかったことが間接的に証明できます」
「・・・・・・」
「更に証拠が必要なら、工房に戻って、工房内にある『星のかけら』の量を調べてみるといいでしょう。事件が起きる前と比べて、量は増えているはずです。それがすなわち、空から降ってきた流星が砕けてできた分です。おそらくショップで売られているものと比べて、不揃いなかけらになっていると思います。ピッコロ君の証言にもありましたね。片付けようとしたら、ずいぶんと不揃いな『星のかけら』が増えていた、と」
「う〜ん」
「どうしたのですか? まだなにか疑問な点でも?」
「でも、どうして、よりによってあたしの工房が直撃を受けないといけないのよ。いい迷惑だわ」
「イングリド先生がおっしゃっていたように、日ごろ無茶をやっているから、少しは生活態度を改めなさいと天誅がくだったのではありませんか?」
「なぁんですってぇ?」
「い、いえ、――そうだ、ものは考えようですよ。タダで『星のかけら』を入手できたと思えば・・・」
「そっか、そうだね! 儲かったと思えば――」
「(やれやれ、相変わらず単純な人ですね・・・)」
「ああっ、忘れてた!」
「ど、どうしたのですか」
「騒ぎですっかり忘れてたけど、ディオさんに頼まれてた『星の砂』の調合、もうすぐ期限なんだよね」
「な、何ですか、その目は・・・」
「ふふふふ、クライス〜。あんた、こんな探偵の真似事をやってるくらいだから、当然ヒマよね〜」
「い、いえ、私には研究が――」
「そんなの後でいいじゃない。ねえ、『星の砂』の調合、手伝ってくれるわよね、もちろんタダで!」
「勝手なことを言わないで下さい」
「こんな乙女の細腕で、『星のかけら』をごりごりすりつぶせって言うの?」
「誰が乙女で、どこが細腕ですか」
「いいからいいから、行こ」
「でも、その前に、工房の中を片付けなければいけないのではありませんか?」
「あ、だいじょぶよ。ピッコロがちゃんと片付けてくれてるわ」
「やれやれ、ピッコロ君に同情しますよ」
「それに――」
「それに――?」
「ピッコロの作業が終ってなくても、あんたがいるもんね、クライス」
「私は妖精さんではありません。認識を改めていただきたいものですね」
「それにしちゃ、あんた、けっこう嬉しそうね」
「そ――そんなことはありません!」
「ま、いいか。――そうだ、仕事が終ったら、シチューでも作ってあげようか」
「それだけは勘弁してください!」
「なぁんですってぇ!」

<果てしなく・・・続く?>


○にのあとがき>

はい、このお話は、あるふぁさん主宰の「クライス&マリーアンソロジー:眼鏡と爆弾とわたし」に掲載されたものです。

当初より、アンソロの在庫がある限りはサイトへの掲載を差し控えておくつもりでいました(ネットで無料で読めるのでは、わざわざお金を出してアンソロを買ってくださった方に失礼ですから(^^;)。ですが、2005年の夏コミにてアンソロは完売し、再版も不可能ということになりましたので、編集長(笑)のご許可を得て、アップすることにしました。

文字数の制約や、本の版型に収めるために、コンパクトに工夫した跡がしのばれます(笑)。


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