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クライス空白の時間 Vol.10

作:マサシリョウさん


(最終章)#6.マリーのアトリエ

「もう! 緑の中和剤なんて、いちばん簡単な調合じゃないの! 何回失敗したら気が済むのよ! あ〜あ、また材料がむだになっちゃったじゃない・・・」
マリーがピッコロに怒鳴っていたちょうどその時・・・
「なんですかこの騒ぎは。外に居る私にまで聞こえましたよ。こんにちは。来たくはなかったのですが、来ましたよ。相変わらず、足の踏み場もありませんね。これが女性の仕事場かと思うと、あきれてしまいます」
約束通りクライスが来た。

「・・・ははーん。調合に失敗した様ですね。マルローネさんが。」
「・・・本気で言っているの?」
「冗談です。やはりその妖精さんが・・・」
ええ、雇っている妖精さんはこの子だけだから。
その言葉を聞いたクライスはニヤリとして、その妖精さん(ピッコロ)を見た。

「おいクライス。この子にまでイヤミを言う気か? こんな小さな子にまで・・・」
ルーウェンがクライスを止める。
「違いますよ。(さてと・・・どうやってこの場からマルローネさんを・・・)」
クライスが考え込んでいると・・・
「どうしたのクライス?難しい顔になっているわよ。ルーウェンの言った事が図星だったのでしょう? うぷぷぷぷ・・・、ポーカーフェイスが下手ねぇ」
「(・・・この人を助けるのが嫌になってきた。)違いますよ。この工房のあまりの汚さに顔を歪めただけですよ」
で、話は「工房の清潔さについて」という流れに変わってしまった。

そして・・・
「やれやれ、あなたには何を言ってもむだのようですから、エネルギーを浪費するのはやめましょう。さて、本題ですが・・・」

「ちょっと待ってよ、クライス。お茶ぐらい入れるから」
と、マリーは妖精さんに向かって声をかける。
ピッコロ! ミスティカティをみっつ入れてくれない?」
それを聞いたクライスは閃いた。
「マッ!、マルローネさんっ!、緑の中和剤の調合に失敗するような妖精さんに、ミスティカティを作らせる気ですか?」
急にクライスが叫んだ。そして・・・

「・・・それに、みっつではないでしょう。よっつです。この妖精さんにも休憩させてあげるべきです。」
「よっつも?誰が入れるのよ?」
いま、アトリエにいる人物は・・・
クライス(お客様)
ルーウェン(同上)
ピッコロ(休憩中の妖精)
マルローネ(工房主)

「聞くまでもないでしょう。」

「・・・解かったわよ、作ればいいんでしょ作ればっ!!・・・あーもうっ、ミスティカの葉は何処なのよ!!」
マリーが荒れた工房をひっくり返しているのを見たクライスは、
「そこのケムイタケやぷにぷに玉のある棚の辺りじゃないですか?」
「本当に?えーと・・・あった!!。こんな所に隠れていたなんて・・・ん?隠れて・・・」
マリーは何かに気づいた。
「ちょ、ちょっと待ってクライス。なんであなたが工房の勝手を知っているのよ!? あっ!!もしかして、最近私の下着が無くなったのは!!
名探偵マリー?

「・・・ミスティカの葉は湿気と火気のある所には置かないものです。ぷにぷに玉は湿気を吸収し、ケムイタケは火気厳禁の所に保管する。簡単な推理ですよ。しかし・・・ふん、その様子では寝室も散らかっているようですね。
名探偵クライス。
「ゴチャゴチャ言っていないで、早くお客様にお茶を出してください。」
「くっ、解かったわよ!!」
そう言って、マリーは部屋の奥へ消えていった。

「さてと・・・ピッコロ君、ルーウェンさん、マルローネさんはしばらく来そうにありませんので、少し世間話でもしましょうか・・・」
「へぇ、あんたが世間話ねぇ。(世間から隔離されて生きてるのかと思っていたが。)」
「どうかしましたか?」
「いや、何でもない。」
「僕、外のお話聞きたいです。」
「ところでピッコロ君、きみは私が何故ここへ来たか知っていますか?」
「うん、アカデミーの泥棒を探す相談でしょ?お姉ちゃんに聞いた。」
そう言ったピッコロは、少し暗い顔になった。

「どうしました?」
「う、うん・・・、そんな危険なことしてお姉ちゃん大丈夫かなぁ、心配だよ・・・。」
「そうか・・・そうだよな。いざ犯人を捕まえるとなると、それなりの抵抗は考えられるからな。」
「そうですね。でも、私はどうしても犯人を捕まえなければならないのです。」

鎮痛な面持ちで会話が続く。
「ルーウェンさん。」
「なんだい?」
「私は今日あなた達と別れた後、時間が空いていたので捜査・・・と言ってもただの聞きこみですが・・・事件を調べていたのですよ。」
「その話はマリーが来てからしようぜ。」
「ルーウェンさん!!今お願いします。この話はマルローネさんに聞かせたくはないのですよ。」
「・・・・・・」
「その結果、犯人の見当がつきました。名前も、犯行動機も、そして侵入経路も。」

「おい・・・マジか?じゃあなんでマリーに内緒なんだ?」
興奮するルーウェン。
「そ、それじゃあ、お姉ちゃんは危険な事をしなくていいよね」
言葉とは裏腹に、ピッコロは顔色が悪くなった。
そして、聞きこみした事をメモを見せながら順序良く話すクライス。
聞いていくにつれルーウェンは何故クライスがマリーを呼びたくないかが解かった。

最後にクライスは自分の言葉を、血を吐くかのように・・・
まるで噛み潰したいかのように・・・
「犯人は・・・妖精さんに盗みをさせた犯人は・・・、マルローネさんですよ。
「!」
「実行犯はピッコロ君、あなたですね?」
「・・ちがうよ。」
「そ、そうだよ、大体ルイーゼって奴だって怪しいじゃないか。調合に失敗しているし、もしかしたらアウラさんの失脚を狙っていたのかも・・・」
ルーウェンが言った。どうしても信じたくなかったからだ。

「彼女は違います。何故なら・・・(略)」
わけを説明され、納得をしたルーウェンは・・・
「そうか・・じゃあ、じゃあやっぱり・・・。」
ルーウェンはピッコロを見た。ピッコロは・・・
「うっ、うう、ちがうよぉ・・・」
「ピッコロ君!!」
「・・・わたしはこの事件でお姉さんを疑われているのです。・・・だからどうしても犯人を捕まえなければならない。アカデミー当局が犯人を捕まえた場合、重い罰が下ります。私はお姉さんを・・・アカデミー当局に渡すつもりはありません。もちろん私が犯人を見つけた場合、当局に犯人を渡さなければなりません。でも、犯人が自首するならば、あるいは罪が軽くなるかもしれません。」
ほとんど脅しだ。

「・・・ちがう、お姉ちゃんが犯人じゃない。僕が・・・、僕が一人でやったんだ。
「やはりそうですか・・・」
「そうですかって・・・おまえ・・・」
「ええ、ちょと脅しをかけてみたんですよ。ここまでうまく行くとは思いませんでしたが」
「おいおい、ほんとか? じゃあなんでこいつの単独犯だって判った?」
「それはですね・・・(略)」

「・・・なるほどねぇ」
「・・・僕、自首します。」
「駄目ですよ。」
「えっ、なんで?」
「犯人がわかってから、最初私は姉さんの猫に罪を着せようと思ったのですが・・・」
「何でそんな話を今するんだ?」
「今説明します。猫に罪を着せようかと思ったのですが、それでは姉さんが罰を受ける可能性があるのです。管理責任を問われてね。」
「そ、そうか、マリーの管理責任が問われるわけか・・・」
「最悪は自分の罪を妖精さんに着せたと疑われた場合です。罰はさらに重くなるでしょうね。良くて停学、悪くて退学・・・いや除籍処分かも・・」
「除籍処分?」
「最初から在籍していなかった事にされる処分です。」
「ど、どうするんだ。マリーは追試中の身の上だ。しゃれになってないぞ」

「関係ない人に罪を着せるわけにはいけませんしね。」
「・・・それなら時効まで逃げ切るしかないか?」
「いや・・・それもだめです。」
「恐らくあと3日も経たないうちに捜査の手はここまで伸びてくるでしょう。」
「どうして?」
「ああ見えても当局は優秀ですからね。」
クライスは誤魔化したが、なぜ捜査の手がここへ伸びるのか?それは・・・
1.クライスのミスでクライスが捜査をしている事が生徒にばれる
2.生徒から当局に知れる。
3.不審に思った当局がクライスの足取りを捜査。
4.当局がルイーゼから、飛翔亭のことを聞く。クライスの嘘がばれる。
5.事件の捜査という理由で飛翔亭のディオから聞き出す。そしてマリーに到着。

・・・という流れが予測できるからだ。

「おい、八方ふさがりじゃないか。」
「大丈夫ですよ。」
「いい案があるのか?」
「ええ、ただしピッコロ君にも手伝ってもらいます。ルーウェンさん、あなたにも協力してもらいますよ。」
「マリーはどうする?」
「あの人にお芝居ができるとは思えませんので、内緒にしておきます。」
「お芝居?」
「ええ、今回の事件はピッコロ君を我々が取り押さえると言う形で・・」
「ちょっと待てよ、それじゃあ・・・」
「ただ、ピッコロ君は特殊な状況下だったと言う事にしておきます。ピッコロ君は夢遊病だと言う事にします。」

「なるほど、でも説得力が無いんじゃないか?」
「“なぜ夢遊病になったか”その理由はすでに考えています。それを証明する証拠は我々が造ればいい。」
「どうするんだ?」
「店に罠を仕掛けます。星の砂か月の粉を撒くんですよ。盗みに行った時、ピッコロ君はそこに足跡を残していってください。意識がある状態なら、光を良く反射する物に残した足跡は消して行くはずですが・・・」
ピッコロは夢遊病者だから消していかない、というわけか・・・」
「ただしピッコロ君、足跡は残しますが靴についた砂は落としてください。 工房に続く光る足跡を当局に見つけられたら厄介な事になりますからね。

「まてよ・・・盗みに入る前に見つかったらどうするんだ?」
「大丈夫です、もう一つ罠を仕掛けますから。」
「なんだそれ?見えにくいな・・・糸か?」
「これを部屋中に張り巡らせます。」
「こんなものでどうやって当局を誤魔化すんだ?」
「当局に“犯人を捕まえる為の罠を張りますが、あなたがたにはどんな物を仕掛けたかはお教えできません。犯人は内部犯である可能性が高いので。”と言っておきました。ルーウェンさん、あなたは罠と聞いてどんなものを想像しますか?」
「!!、あっ!!」
「この糸はすぐに切れるようにしています。そしてこれを我々の腰の高さに仕掛けておきます。もし犯人がこれに引っかからずに、犯行を成し遂げたとしたら・・・。犯人の身長はどのくらいの高さになりますかねぇ?」
「おまえ・・・・」
「ふふふ・・作戦は今夜決行します。まず・・・」

クライス達が作戦を立てて、しばらくした後・・・
「おまたせー、ミスティカティできたわよー」
テーブルに並べられたそれを見た面子は、
「・・・この浮いているの・・・油?
「・・・何ですか?このブツブツは?
「お姉ちゃん・・・ガッシュの木炭の匂いがするよ。」

文句を言われたマリーは、
「ちゃんと作った人に向かって何てこと言うのよ!」
「ちゃんと?どうやってですか?」
「ちゃんと片手鍋を・・・」
「ティーポット使って下さい!!それにその鍋、使用する前にちゃんと洗ったのでしょうね?」
「あら、そういえば・・・」
「冗談じゃ無い、そんなものとても飲めませんよ。」
クライスが言うと・・・
「いや、俺とピッコロは飲んだぜ。なぁ?」
「う、うん、飲んだよ。」
彼らは、二人が口論している間にお茶を窓の外へ捨てたのだった。

「私は絶対飲みませんよ。」
しかし・・・
「まぁまぁ、マリーもせっかく入れてくれたんだし。」
クライスを羽交い締めにしながらルーウェンはいった。
「ル,ルーウェンさん?」
「荷物運びをサボって一人だけで捜査した罰だ。」(小声)
「そうよー、せっかくクライスの為に作ったんだし。
「ほらクライス、あーんして。あーん。」
「マ、マルローネさん、一体何を・・・」
「あら、私の口から言わせる気? はいクライス、あーん。」
「マリー、クライスが嫌がってるじゃないか。無理やりそんなことしちゃ駄目だよ。」
「だったら離してください!!」
「あっ、飲みこませるときは鼻をつまんだ方がいいぜ。」
「そうね、まぁつまみ易い鼻だ事。」
「お願いですから止めっ・・・
ギャーーーーーーー
鼻声のままクライスの意識は闇へと沈んでいった。

<おわり>


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