 家庭の窓
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アメリカ合衆国の第３２代大統領ルーズベルトは，異例の４選を勝ち得たが，その栄誉には演説のうまさも寄与していました。あるとき，新聞係の補佐官がルーズベルトに「明日，歓迎会で演説していただけないかと，主催者が依頼してきましたが，どうなさいますか」と伺いを立てました。「明日か。あと２０時間あるな。１５分くらいならやれるだろう」と承知しました。
彼は１枚の原稿を仕上げるのに１時間かけていました。何度も考えて推敲を重ねるのです。１枚の原稿は彼の演説時間にして１分掛かるので，１５分話すためには１５枚の原稿，すなわち１５時間が必要になるのです。あとの５時間は睡眠のために取っておくのです。その夜，彼は面会を一切断り，翌日の演説のために夜明け近くまでかけて原稿を作り，５時間ほど眠りました。
歓迎会にのぞんだルーズベルトの演説は，いつもの生彩をはなち，聞き入る人たちを感銘させました。語られる言葉は皆がよく知っている言葉です。そうでなければ話が通じません。しかし，その言葉がどのようにつながっているかによって，伝わる意味の深さが違ってきます。演説は第一段階では伝えようという意図によって言葉が紡がれます。それを第二段階で伝わるように推敲をしているのです。下手な演説とは伝えたけど伝わらないというものなのです。
人は言葉を使ってコミュニケーションをします。お互いに分かり合うためです。その言葉は部品に過ぎないことを，伝える方が意識していないといけません。例えば，「犬がいた」という言葉は，話す方は具体的なイメージを持っていますが，聞く方は勝手に自分なりの犬を想定してしまいます，よく聞きたいという聴き方では，大きい犬か小さい犬か、どんな種類の犬か，情報は不足しています。どのような犬かという追加の言葉がないと，分かり合うことはできません。
子育ての場面では，同じことを何度も言わせないで！と嘆きが聞かれます。それは伝えようとだけ焦っているからです。同じように，ＳＮＳの発信者は伝えようと焦っています。受信者は自分のイメージで勝手に補って受け取ってしまいます。お互いに伝えた伝わった気になっていますが，思い込みでしかありません。
生活の大事な場面では，伝わらないと感じることがあるでしょう。ちゃんと話し合うということが言われますが，それは伝えてもらおうと待っているのではなく，伝えられる言葉をオウム返しに話し手に返していくことです。伝えた言葉をそのまま返されることで，聞かされる立場になることで，話し手は伝わり方を確認する機会を持つことができます。そこで，次の補足の言葉を推敲できるようになります。伝わったということが共に実感できたとき，会話をしてよかったという小さな感動が共有されるはずです。
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