《有難い 人にできても 我は我》

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 1850年代のアメリカに,縫い物好きの一人の採鉱夫がいました。ゴールドラッシュに沸くカリフォルニアで,一旗揚げようと思って採鉱夫になったのですが,激しい労働をするために作業中にしばしばズボンが破けてしまって,いつも腹を立てていました。「クソッ,何とか丈夫なズボンは作れないものか」。
 ふと宿泊用のテントが目につきました。「よし,この厚いテント生地で、絶対破けないズボンを作ってやる」。もともと縫い物好きなので,なんなくズボンを縫い上げました。その丈夫さが,採鉱夫たちの間でたちまち大評判になり,「オレにも縫ってくれ」「ワシにもだ」。引きも切らぬ注文に,採鉱夫はついにズボン屋に商売替えをしました。アメリカ・リーバイス社の創業者が,この男リーバイ・ストラウスです。芸は身を助くという諺を地でいったような成功物語です。
 芸は身を助く,は江戸いろはかるたの一つで,身についた技芸があれば何かの折に役に立ち,時には生計を立てる元になることもあるという意味です。ただ,相手に直接言うのは失礼にあたるので,注意が必要のようです。本筋の生きる技ではない,余計な技を芸として持ち合わせていると,思わぬ所で役に立つこともあります。実のところは,したことがあるということで,役に立てるチャンスを掴むことができるからです。
 ストラウスの成功は,確かに入口は芸は身を助くでしたが,出口としてズボン屋に転職したことによります。転職しなかったら,器用に丈夫なズボンが縫える採鉱夫に止まっていたはずです。テント生地でズボンを縫うというアイデアを別の人が始めたら,そちらが創業者に名を残していたでしょう。思いつきの価値に気付く先見の明を持ち合わせているかどうか,それが成功のカギです。
 人生の途中にある何気ない日常の節目で,自分にできる些細なことに出会ったとき,そこに新たな道が開いているかもしれません。側にいる人がすごいじゃないと認めてやれば,チャンスと知る助けになるかもしれません。そのアドバイスでチャンスかも思ったところで,やってみようと決心するかどうか,思い込むことができるか,新しい道へ道しるべに出会えるかなど,たくさんの関門が控えています。未知の物事を動かすには,数多くの扉を開けていく鍵を入手する必要があります。
 様々な成功者は自らの成功への道筋でどれほどの扉をくぐり抜けてきたか,自覚はできていないでしょう。いくつかの苦労の壁はあったでしょうが,ごく自然に達成できたと感じているでしょう。同じプロセスを余人は辿ることはできないはずです。成功者の真似をしようとしても,それは無理です。人それぞれに辿ることのできる道は違っているからです。

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(2023年09月17日:No.1225)