家庭の窓
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パフォーマンスという言葉が,仲間を増やしています。耳に馴染んだ言葉ではないので,翻訳しなければなりません。辞書を開く代わりに,手元にあるキーボードを叩くと,いろいろ出てきます。とりあえず拾ってみます。
英語の「performance」の意味には,「上演」「演奏」「出来栄え」「成績」「性能」の他,「人目を引く行為」などがあります。ただ,カタカナ語になると,本来の英語の意味とは違った意味を持つことがあります。
ビジネスシーンにおける「パフォーマンス」が意味するのは,「性能」「成果」「価値」。仕事に関しては「成果」「業績」「効率」と判断することができます。商品説明の場では,「性能」や「効率」を指します。ITにおいては「処理性能」や「実行速度」を指すことが多いでしょう。さらにスポーツでは「行為」や「成果」,株式などの経済面では「運用実績」,演劇や演芸では「表現」を意味します。それぞれのシーンで「パフォーマンス」がどの意味で使われるのか,多様性を意識した方がよいようです。
このパフォーマンスがほかの言葉と合体して,若い人を捕まえているようです。コスパやタイパという短縮語に身を装って取り入っています。コスパ(コストパフォーマンス)とは,支払った費用(コスト)に対して得られる効果や満足度(パフォーマンス)の高さを意味し,その意味は費用対効果であり,価格・費用を重視し,できるだけ少ない費用で,できるだけ高い価値や満足度を得ることを目指します。「安くて良いもの」「お買い得」と感じるものは,コスパが高いと言えます。タイパ(タイムパフォーマンス)とは,かけた時間(タイム)に対して得られる効果や満足度(パフォーマンス)の高さを意味し,その意味は時間対効果であり,時間・効率を重視し,できるだけ短い時間で,できるだけ高い価値や満足度を得ることを目指します。「時間をかけずに効率よく目的を達成できた」「時間を有効活用できた」と感じるものは,タイパが高いと言えます。簡単に言うと,コスパは「お金」に対する効果,タイパは「時間」に対する効果を測る指標です。
「時間対効果」の実際として,映画やドラマを早送りしながら見る「倍速視聴」が若い世代を中心に広がっているそうです。「2倍速で見れば,1本分の時間で2本観られて得」「2時間の映画を2時間もかけて観るなんてもったいない」というわけです。倍速視聴の理由を聞くと、「お金を払ったんだから、どう観ようが勝手」「倍速でも内容を100%理解できているから問題ない」「普段から大学の講義も2倍速で聞いてるから、ドラマや映画が等倍速だとまどろっこしい」ということのようです。
映画は筋立てではなく,場面の時間展開に人の感性が絡まって鑑賞するものでしょう。「分かる」というディジタル理解ではなく「感じる」というアナログ理解が,醍醐味をもたらしてくれます。人は時間軸の中で生きて五感を働かせています。時間を間引いていると,それは経験という形ではあり得なくなります。
背景には,映画やドラマが過去から今日までの製作の結果新旧作品がたくさんあって,見たいものが多いので,忙しい中では見切れないという状況があるという指摘もあります。また,ネット投稿の無数の映像もあります。ただ自分の持ち時間の中で可能な分量だけに限らざるを得ない実情を受け入れる方が正しい鑑賞法です。真っ当な時間流れを前提として制作されているからです。
効率とは,ある基準によって取捨選択をすることです。その基準を適用するのが適切であるのか,特別な対応が必要なのか,よく考えることです。例えば寝る時間がもったいないとして3時間睡眠といったタイパをすることもあり得ますし,さらには人生わずか50年というタイパも出てくるかもしれません。効率を選ぶと,一方で失うものもある,その得失の判断を見失わないことが大事です。
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