家庭の窓
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アップル社の創業者スティーブ・ジョブズ氏が亡くなって,しばらくは彼に関する話が紙面や画面上に登場します。これまで通りすがりの人という存在でしかなかったのですが,無意図的キャンペーンによって,断片が接近してきます。
「Think different」(発想を変えてみよう)。これがアップル社の有名な広告キャンペーンのキャッチコピーだそうです。ジョブズ語録として,「デザインとは,見た目や感触のことではない。いかに機能するか,それがデザインだ」とも紹介されます。かくして,発想の転換が勧められます。
発想の転換は,ことある毎に言われます。コペルニクス的転回とか,ヘーゲルの正反合の弁証法的論考とか,武芸の守破離とか,分野毎にその軌跡が数えあげられます。目から鱗が落ちるという言葉も思い出されます。発想の転換が新しい世界に飛び込む契機になるという経験知を,洋の東西を問わず,人はいろいろな形で持ち合わせています。それを使わなければ無用の知識になります。
仕事のできる人は,知恵の使い道を弁えています。その一つが,「Think different」です。違った風に考えよ,という命令形にしていることです。知恵は名詞の形に整理されますが,それを役立てるためには,自らに命令できる動詞形に改める必要があるのです。使うという行動は動きです。動かす形にしたときに,知恵は準備が整います。
目から鱗が落ちる。そういうことが起こりうるという可能性を示唆しています。そのままでは,偶然を待って居るだけになります。目の鱗を落とせと言えば,努力目標にかわり,自分を動かすことができます。自分を動かす言葉を使える人は,自分が関わる世界を動かすことができ,世界を変えていく力を発揮することができます。
発想の転換,その言葉が意味するところは驚くほどの発見ではありません。その程度のことは誰でも言えます。誰にでも言えることを,自分に向けて使える命令にしたこと,そのことにより知識を知恵に変える発想の転換を実現したことが偉大なのです。
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