*******  平面的無時間思考からの救出  *******

〜 いまどきの若者を読み解く 〜

【3】 期待される課題
 情報機器,交通機関の発達によってもたらされた豊かな世界に育った若者の時空間感覚は,「今ここに」という一点にブラックホールのごとく収斂しています。今が楽しければいいという刹那主義しか,若者に与えられた選択肢はあり得ないのです。このような若者に対して,大人は何がしてやれるのでしょうか?

 まず,子どもたちを学校空間に閉じこめてきたことを反省すべきです。それが学校週五日制の目的でもあります。学校は元々は社会のシミュレーションの場であったはずです。その仮想空間しか知らないままに育った若者は,仮想であることを弁えていません。知的世界は仮想世界です。現実世界と並立することで,人間社会が歴史を刻むことができます。子どもたちがどれほど実社会に関わってきたでしょうか? 学校,家庭,地域の連携という言葉が飛び交わざるを得ない状況とは,家庭,地域が子どもの世界になっていないということです。実世界から隔離された環境を与えてきたことが,最大の誤謬です。
 開かれた学校,体験重視,生きる力,総合学習などのキーワードに共通するのは,現実社会への復帰に他なりません。家庭や地域の教育力が喪失したとされる根元は,毎日あくせく生きている人間としての経験欠損です。暮らす環境を育つ環境にすることが,最も急務で望まれる課題です。そこで培うべきことは,事物や人物の立体的および時間的イメージの再構築です。具体的目標は言語生活の構造改革になります。

 あらゆる知的育ちの素材を入学試験に出るかどうかで選択してきた愚かさも脱出すべきです。日常の暮らしに関わる身近で具体的な事柄を廃棄処分にしてきました。人を育てることを忘れた所業が,大人の過失です。いい会社に就職して金を取れる人材育成を目指すのではなくて,金を生み与えることのできる人材を輩出しようとする育成こそが,社会に課せられた次世代に対する責務です。

(2002年09月10日:耐久教育論文賞応募論文)