*****《ある町の人権擁護委員のメモ》*****

 

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【歌覚え?】


 会津には,元禄時代に書かれた農業の本があるそうです。「会津歌農書」は、農作業や気象・土壌に関する「会津農書」をまとめた佐瀬与次右衛門さんが書いたものです。この本は評判になり,お役人からご褒美をもらったそうですが,読んだ人から「書物は退屈するので,覚えやすいように日常使っている言葉の和歌にしてほしい」と薦められ,約1600首の和歌にしたのが「会津歌農書」だそうです。

 「苗代は 肥えたる土に 風の淀 絶えぬ流れを 受けてこそよき」。田んぼの稲が風にそよいでいるのは,心和む田園風景ですが,稲はまっすぐ立っている方がよく,風の淀,すなわち風が淀んで吹き抜けていかないところがいいということです。さらに,引き込んだ水が耐えずに流れていくのがよいようです。

 「日照りには 朝夕はらえ 畑の草 日のなか取るな 作りいたむぞ」。日が照っているときは暑いので,朝夕の涼しいうちに草を取れ,と言っているのではありません。後の句が大事です。昼間は土が乾いていて,雑草を根から取ると,小さいながらも土にヒビが入ってしまいます。それが集まると,そこから水分が蒸発して,やがて不作になるという教えなのです。

 「たね蒔時(まきす) 知らずば桃の 花に聞け 半ば咲きする 折が蒔きなり」。桃の花が半開の時が,苗代にはいいということです。年によって花の開きに遅い早いがあっても,花は正直ですから,その年の天候を教えてくれます。それに応じて苗代に種をまくのは,自然のことわりです。
 「五月乙女(さおとめ)のつらねし袖や匂ふらむ いばらの花のひらく田面(たのも)は」。早乙女の田植えを詠んだ歌ですが,それがいばらの花の季節なのを示しているのがミソです。
 「種ひたす 時さえさらに 違えねば 稲のみのりは いつもよろしき」。
 「卯の花の つぼめる時に 初植えぞ 盛りの頃は 末田なりけり」。
 「にんじんの 蒔時(まきす)知らずば 朝顔の 花咲き初むる 頃とおぼえよ」。
 「糸萩の 花もそろそろ 散ると見ば 小麦のたねを 蒔けよかならず」。

 また,常陸(茨城県)の農書「東郡田畠耕方并草木目当書上」でも,草木の状態を農耕の目印にしている様をつぶさに書き記しています。すなわち,水田を耕し始めるのは「木々の葉が芽を出し,双葉になった」ころを目安とし,苗代へ種籾を播くのは「柿の葉の茂るころ」または「彼岸桜の開花」を目安にします。里芋を植付ける目安は「菜種の花盛り」だし,うりやすいかの播種の目安は「彼岸桜が散るころ」です。八十八夜前後とか彼岸前など,いちおう暦を基準に農耕を考えてはいるのですが,暦はいわば絶対時間,季節の移ろいはその年の気候によって差異が生じるから,実際に農作業の目安にするのは草木の様子の方,というわけです。

 理念という絶対概念がありますが,暮らしの中では日常の言葉で表現されたものでなければ,生かされないというのは,あらゆる分野で真理でしょう。人権の分野でも,考えて見る必要がありそうです。

(2011年08月14日)