*****《ある町の人権擁護委員のメモ》*****

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【知らなかった?】


●昭和34年のことです。神奈川県の女性が,東京新宿で1枚の第226回東京都宝くじを拾いました。確かめると1等100万円の当たりくじでした。慌てて交番に届けましたが,期限が過ぎても落とし主は現れませんでした。普通なら当たりくじは拾い主のものになるのですが,その当時は宝くじの賞金は買った人にのみ支払われるものでした。しかし,これはおかしいと,翌年法律が改正され,宝くじの落とし主が現れないときは,拾った人でも当選者とみなすことになりました。同時に,落とし主が分かるように,宝くじには住所:氏名欄が付けられるようになりました。
●硬貨には製造年が記されています。硬貨は2種類以上の合金であり,長く流通する間に金属の価格が変動するために金属の配合の割合が変わることがあり,製造年を判別するために必要になります。一方で,お札には製造年は記されてはいません。通し番号が印刷されていますが,その番号から印刷されたときが分かるようになっています。因みに,硬貨の発行元は日本政府で製造元は大阪造幣局,お札の発行元は日本銀行で製造元は財務省印刷局です。
●硬貨の表はどちらでしょうか。特に決まりがあるわけではありません。明治初期は元首の象徴とされる竜の絵柄がある方が表,明治中期から戦前までは菊のご紋が入っている方が表とされていました。菊のご紋が使えなくなってから,決め手になるものがなくなってしまい,それまで製造年は常に裏面に入れられていたという事実にしたがって,絵柄と日本国の字が刻んである方を表とする見解がとられているそうです。
●以上のような事柄は,知らなくてもどうということはありません。しかし,世の中には知っていると得をすることや,知らないと損をすることもありますので気をつけなければなりません。特に,法を知らないからといって弁解にはなりません。車を運転していて,一方通行の道を知らずに逆行すると,罰せられます。気がつかなかったという不知は通りません。このところの中学生のいじめ問題も,法的な内容は不詳ですが,不知であったとする局面がみられます。
●刑法 (故意)
第三十八条 罪を犯す意思がない行為は、罰しない。ただし、法律に特別の規定がある場合は、この限りでない。
2 重い罪に当たるべき行為をしたのに、行為の時にその重い罪に当たることとなる事実を知らなかった者は、その重い罪によって処断することはできない。
3 法律を知らなかったとしても、そのことによって、罪を犯す意思がなかったとすることはできない。ただし、情状により、その刑を減軽することができる。
●人権に関する不知は,侵害につながります。人権について知っておかなければならないことは,たくさんあります。それに気付き整理をし正確な情報にして啓発する役割が人権擁護委員には期待されています。当面する人権課題,それは相談として受け止めた事例から読み取られるはずです。
(2012年09月09日)