*****《ある町の人権擁護委員のメモ》*****

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【知生?】


 江戸時代の画家円山応挙は,日頃花卉鳥獣の写生に苦心していました。ある日,猪の寝ている姿を描こうと思い,苦心を重ねて一枚の絵を完成させました。写生を重んじている応挙は本物の猪にどれほど似ているか,山の狩人に見てもらいました。
 「誠に申しかねるが,この猪は死んでいます。生きている猪なら,眠っていてもこんなに毛が寝ているわけがありません」。応挙は丁寧に礼を言って,「本物の猪が寝ているところを見ることはできないだろうか」と尋ねました。
 狩人の家に招かれて,数日が過ぎた頃,狩人が山から下りてきて,「見つかりました。上の山に大きなやつが寝ております。目を覚ますと大変ですから,できるだけ静かに,それからあまり近寄らないでください」。応挙は近寄るなと言われたことも忘れ,すぐ側まで近寄って,熱心に写生しました。狩人はもしものことがあってはと,火縄銃に抱えながら,書き終えるのを待ってくれていました。
 このように写生を重んじる円山派の基礎を確立した応挙は,近世の画壇に大きな足跡を残しました。写生とは,文字通り,生きている姿を写し取ることです。
 人は物事を過去の経験を基にして思い描くことができますが,見たことがない,したことがない事柄については,お手上げです。そこで,自分以外の人の経験から学ぶことによって,幾分かを補っています。もちろん何をどのように学ぶかという問題にも出会います。人権を擁護するという組織活動については,皆の経験をデータとして集約し,明らかになった情報を共有し,検証評価をするという学びが必要になります。常に現実に生きている人の様子を知り,皆で寄り添っていくという姿勢が大事です。
(2019年06月21日)