*****《ある町の人権擁護委員のメモ》*****

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【出番?】


 フランスの実存主義哲学者のサルトルは,ボーボワールに出会うまでは,女性は男性よりも一段劣る生物と考えていました。彼女と知り合って初めて,この女性は自分と対等だと思い,それまでの男性至上主義を改めました。
 二人は50年以上にもわたって,夫婦といってよい間柄でありながら,一緒に暮らしたことがありません。第二次世界大戦中,同じ下宿に住んでいたときも部屋は別であったし,その後は歩いて10分ぐらいの所に住んでいます。そして,ときにはボーボワールがサルトルのために料理をしたり,サルトルがボーボワールのために目玉焼きを作ったりしています。
 大事なことはお互いの自由を保つことで,浮気も,偶発性のものなら許し合うことにしました。ボーボワールは「それが私たちの関係がうまくいった非常に重要なカギだと思う」と言っています。
 二人が誰よりもお互いを尊重し合っていたことは,自分の著書が刊行される前,必ず原稿の段階で見せては批判し合い,さらに内容を深めていったことです。「切磋琢磨」という言葉がぴったりの二人でした。
 市井の凡夫には偉大な哲学者の発想や行動を理解するのは無理のようです。単純に思うことは,お互いの自由を保つこと,それが取りあえずお互いの尊厳を大切にすることらしいということです。例えば浮気をするかどうかなどはそれぞれの勝手であると尊重し,相手の自由に異を唱えるといった野暮な判断をしなければいいんでしょうと開き直りましょう。その距離感を保った上で,さらにお互いに向けて信頼という絆を伸ばし合うことで,自由な関係が人としての共生となります。このバランスの壊れたときが,悩める人に寄り添うべき人権擁護委員の出番となるようです。
(2019年10月03日)