*****《ある町の人権擁護委員のメモ》*****

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【慈言?】


 花の香りには誰しも癒やされることでしょう。花を原料とした香水は数種の花の香料を混ぜ合わせたもので,時間が経つと香りが変わってしまいます。また,使っている人はどの花の香料を使っているのか嗅ぎ分けることができます。ところで,シャネルは女心をときめかせる謎めいた香りを求めていました。香りが変わらず,使っている香料が嗅ぎ分けられない香水を一種類だけ作ろうと決めました。
 高名な香水化学者エルネスト・ポオに調合を依頼し,神秘的な液体作りが始まりました。最終的には八十種類に及ぶ原料が混じり合う,深い神秘性を秘めた香水が誕生しました。この新しい香水は新しい香水瓶にということで,シャネルはそれまでの手の込んだ装飾を施した香水瓶を避けて,シンプルなクリスタル製の角瓶を使用しました。クリスタル容器の中に魅惑的な黄金色の液体が,人の感覚に刺激的に映えることがねらいでした。さらには,レッテルのデザインも黒と白のシンプルなコントラストの印象的なものにしました。
 容器やレッテルだけではなく,斬新な感覚で人々の心にアピールしたのは,シャネルと5を組み合わせたネーミングであり,5の数字が不思議な魔力をかけることに成功し,発売と共にベストセラーになりました。
 素敵な香水はたくさんの香料から生まれました。人権という素敵な概念もたくさんの権利が融合したものです。香水が香りを通して人を癒やしてくれるように,人権が人間らしさを通して人を幸せにしてくれます。良いものは皆で共有したくなります。素敵な香水であるから素直に届けることが最も相応しい方法になりましたが,同じように人権という素敵な概念を心に響くように届けるためには,人を慈しむ素直な言葉に託すことが最良の方法と思われます。
(2020年05月16日)