*****《ある町の人権擁護委員のメモ》*****

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【明願?】


 ぼくらはみんな生きている,と始まる「手のひらを太陽に」という歌があります。人間も動物も自然と共生していることの喜びを歌ったもので,生命賛歌ともいえます。昭和36年にNET(現テレビ朝日)のニュースショー番組で今月の歌として紹介されました。歌ったのは宮城まり子さんでしたが,それほど評判にはなりませんでした。
 その3年後に,NHKの「みんなのうた」で宮城まり子さんが歌ったが,やはりブームというには及ばないほどで終わりました。ところが翌年,男性4人組のボニージャックスがレコーディングして,暮れの紅白歌合戦で歌ったところ,人気に火がつきました。それ以来,元気がもらえる歌として歌い継がれるようになりました。
 ところで,この歌の作者は人権まもる君の生みの親であるやなせたかしさんです。仕事に目標を持てず,暗い部屋に閉じこもって鬱々としていたとき,たまたま懐中電灯を手のひらにあてたら,血管が透けて見えました。それでハッとして詩が生まれたのだそうです。歌詞のように太陽に透かしてみたのではなかったのです。落ち込んだ中で自分を励ますための詩だったから,聴くほうも元気をもらえたのでしょう。
 歌詞の中にある「まっかに流れるぼくの血潮」が生きている証となっています。普通ではお目にかかれない,痛い傷を負ったときにしか見えないものですが,全身を駆け巡っている血潮に気がつくことで,自分は生きている存在であることを再確認させられます。人権も社会を活かしている温かな血潮であると考えると,普段は見えないところで機能しています。だからこそ,侵犯という傷口に浮かび上がってきた時にしか見えません。
 手のひらを太陽に透かしてみるように,普段の暮らしを人権の光に透かしてみると,幸せに生きていることに気がつくことでしょう。そのような機会を提供することが啓発には必要です。人権侵害の事例を示して,〜しないようにという禁止型の啓発ではなく,人権擁護の事例を浮き彫りにして,元気に生きていこうという推奨型の啓発が,人権まもる君の明るい願いでしょう。

(2022年11月11日)