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【私言?】
慶應義塾大学の創設者である福沢諭吉は,大の酒好きで,とりわけ当時は珍しかったビールがお気に入りでした。「西洋衣食住」に「ビィールと云う酒あり。是は麦酒にて,其味至て苦けれど,胸郭を開く為に妙なり」と書いています。飲みニケーションには最適の酒ということでしょう。一方で,健康面を気遣って何度も禁酒にも挑戦しています。
ところが,禁酒は失敗の連続で,禁酒で口寂しくなって,タバコを吸い始めてしまいます。あれこれがあったその揚げ句,ある言葉を残して禁酒に成功をしました。「ビールは酒にあらず」。ビールはアルコールではないと豪語し,強引に禁酒に成功したことにしたのです。
禁酒中も毎日ビールを飲み,メーカーに味のことでクレームの手紙まで出していました。分かっていながらも止められない自分に対して,無理矢理に納得させてしまう諭吉。誰のせいでも,誰に及ぶものでもなく,我が事限りとして,見事に完結しています。
ビールは酒にあらずとは,口ではなんとでも言うことができます。もちろん,この言葉は正しくはなく,他人の住む世間では通用しません。言葉は言っている人に拠るので,私にとってビールは酒にあらず,となります。大事なことは,自分だけの言葉であることを自覚していることです。
コミュニケーションの研修などでは,メッセージは,アイ(I)メッセージとユウ(You)メッセージに分けられると教わります。言葉は話す人に拠るので,基本はアイメッセージですが,それを意識しないままにユウメッセージにして使うから,混乱をします。私はこう思う,考える,感じると表現し,あなたはそう思って,考えて,感じているんだと聴き取るようにすることが,今流行りの多様性に通じる作法になります。
(2022年11月30日)
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