*****《ある町の退任人権擁護委員のメモ》*****

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【人権擁護機関の報告から(2)侵犯相談対比:その1:暴行・虐待】


 法務省の人権擁護局から,人権擁護機関における人権相談件数および人権侵害件数とその救済処理状況についての年次報告がされています。そのデータを使って独自の分析をすることから見えてくるものを,提示していきます。
 分析に使った報告数値を取りまとめた数表は***こちら***です。

 人権擁護局による活動では,相談を受けて,その内容に侵犯の疑いがあるものについては調査を行って救済に繋いでいます。そこで,相談のうちで侵犯事案になる割合をみておきたいと思います。ただ,留意しておくことは,侵犯事案となるものは相談の中からだけではありません。直接の相談からではなく情報提供や報道内容などをきっかけとする侵犯調査も含まれていることを断っておきます。あくまでも目安ということです。
 先ずは単純に相談件数に対する侵犯件数の比を、年毎にグラフにしてみます。

侵犯の相談対比の私人間での推移図です

 図に示すように,平成の間は侵犯/相談の割合は7%ですが,令和に入って4%にまで減少しています。この全体に現れている傾向が個別の種類毎にも当てはまるのかは,後ほど見ていくことにします。
 内容の種類が私人間と公務員に関するものに類別されているので,後者についてもグラフを見ておきます。

侵犯の相談対比の公務員職務での推移図です

 こちらは,平成25年頃をピークとして,その後減少して,令和2年から激減しています。割合は最大20%であり,令和でも10%となっており,私人間よりも侵犯の割合が倍になっています。公務の中での侵犯には厳しく対応しているということでしょう。

 次に,事案の内容別の結果を順次見ていくことにします。前号で対象にしていた暴行・虐待について侵犯/相談対比の推移は以下の通りです。

侵犯の相談対比の暴行:夫が妻にです

 夫から妻に対する暴行・虐待については,割合数値は全体の7%に対して40%と大きくなっています。暴行・虐待の相談はかなり侵犯性が高いということが窺えます。令和に入って減少していますが,令和5年の結果が注目されます。

侵犯の相談対比の暴行:親が子にです

 親から子に対する暴行・虐待については,割合数値は30%となっていて,最近では半減する傾向が見えています。虐待に対する社会の関心や取組が高まって、他機関による相談・救済が整ってきたことも影響していると思われます。

侵犯の相談対比の暴行:子が親にです

 子から親に対する暴行・虐待については,割合数値は30%で,最近は半減する傾向が見えます。

侵犯の相談対比の暴行:家族外です

 家族間以外における暴行・虐待については,割合数値は25%で,最近は減少となっています。

 以上,暴行・虐待の相談はほぼ30%ほどが侵犯として扱われているという結果が見えてきます。相談を受けるときには,その侵犯性をしっかりと見極めることが求められています。
 平成の10年間に割合数値がほぼ一定であったものが令和になって減少していることについては,コロナ禍による相談者側の事情の変化だけではなく,相談を受けて侵犯性を見届ける人権擁護局側の対応の変化の可能性も検証しなければなりません。コロナ禍が落ち着いた令和5年からの結果を注視していく必要があります。

(2024年04月21日)