*****《ある町の退任人権擁護委員のメモ》*****

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【人権擁護機関の報告から(1)家族】


 法務省の人権擁護局から,人権擁護機関における人権相談件数および人権侵害件数とその救済処理状況についての年次報告がされています。そのデータを使って独自の分析をすることから見えてくるものを,提示していきます。
 分析に使った報告数値を取りまとめた数表は***こちら***です。

 先ずは相談内容の内訳を概観してみます。そのグラフを示しておきます。

相談の種類割合図です

 図に見えるように,相談のうちで「その他」が55%と半数以上です。そこにはマイナーな人権問題を含ませています。ここでは,主な人権問題の中で,「家族間の侵害」に着目してみます。人間関係において最も安心できるものであると思われる家族が人権問題になっている現状は着目すべきと考えます。そこで人権侵犯の実績を同じ種類別で見ておくと次の図のようになります。

侵犯の種類割合図です

 「家族間の侵害」は14%とかなりの割合になっていることは明らかです。そこで,家族間の問題として分類されている侵害事案を見ると,「暴行・虐待」及び「強制・強要」という侵犯種別に行き着きます。
 暴行・虐待では,夫の妻に対するもの,妻の夫に対するもの,親の子に対するもの,子の親に対するもの,その他の家族間のもの,家族間以外のもの,と分けてあります。強制・強要では,上記の分類に加えて,セクハラやストーカー,ホームレス,性指向や性同一障害,北朝鮮拉致等が含まれています。ここでは,この追加分を家族間以外のものとして,以下の分析を進めていきます。
 人権相談における暴行・虐待及び強制・強要の推移の年毎の推移,暴行・虐待と強制・強要それぞれの家族間割合の年毎の推移を下図にまとめます。

相談の暴行・強制家族等内訳です

 暴行・虐待及び強制・強要の相談件数は,両方共に減少傾向にあります。
 次に,暴行・虐待の家族間別の割合グラフでは,「夫の妻に対する割合」は減少の傾向です。「親の子に対する割合」は増加しています。その他は目立って変化をしていません。夫婦間は穏やかになる一方で,親子間は厳しい状況に向かっているようです。
 強制・強要の家族間別の割合グラフでは,一般的な関係上の人権問題を含めている分類の事情から,家族外の割合が半数ほどになっています。家族間では,「夫の妻に対する割合」と「家族間」とがほぼ同じ割合になっています。夫婦,親子以外の家族の間での強制・強要が起こっているようです。家族間とは兄弟や親族という人たちとなるのでしょう。

 人権侵犯における暴行・虐待及び強制・強要の推移の年毎の推移,暴行・虐待と強制・強要それぞれの家族間割合の年毎の推移を下図にまとめます。

侵犯の暴行・強制家族等内訳です

 年毎の推移や家族間の割合の状況については,相談の結果と重なっていると言えます。相談から侵犯に移行している流れであるので,似ているのは仕方がありません。
 以上の分析から,夫婦や親子という関係から構成される家族は本来は良い関係であるはずなのですが,拗れると危ない関係になることもあるという結果が示されています。家族であるということが別れる離れるという逃げ道を封じていることを思い起こしておきます。信頼し合う関係であるからこそ,反動は大きくなるのでしょう。
 夫婦関係は離婚という手続きによって解き放されることが可能なので,減少傾向に寄与していると思われます。しかし,親子関係は解消できないこともあり,侵犯が増加傾向であることはとても気がかりになります。ただ,全体の件数の減少傾向を期待します。

(2024年04月14日)