*****《ある町の退任人権擁護委員のメモ》*****

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【子育ち羅針盤の提案】


 人権宣言等から導き出した「人権羅針盤」は,子どもの育ちを考えることにも有効となるはずです。そこで一部を改正して「子育ち羅針盤」を作ってみました。それが,下図に示すものです。

子育ち羅針盤です
 この図では,中央に位置する私の周り(黄色部分)が子ども自身の育ちを表します。その外側,他者との間(緑色部分)が「人権」といわれるものが機能しているところであり,お互いに擁護されるべき領域となります。この人間関係に備わっている人権を尊重することによって,私たちの育ちが完成するのです。
 図に示している12の指針は,子どもの育ちを6つの方向と2つの領域から考察しています。6つの方向とは,「誰が,どこで,いつ,何が,なぜ,どのように育つのか」という問題視座です。また,2つの領域とは,「自分の育ち(私の育ち)」と「他者と関わる自分の育ち(私たちの育ち)」の領域を表します。6つの方向にそれぞれ2つの領域を重ねた12の指針が基本的な構成となっています。
 この子育ち羅針盤をある施設での活動の目標に設定するために,12の指針それぞれについて若干の説明を付しました。以下にその説明を示しておきます。

指針1 自分で考えて決断することができる子ども

物心つく頃から自分を見るもう一人の自分が誕生してきます。もう一人の自分が自分を見つめて、自分のことを決めていけば、もう一人の自分である自我の発育につながります。子どもが自分でしたいと思うことができるように任せて待ちましょう。大人が細かい指図を控えて、子どもに考える機会を与えると自分で決めることができるようになります。
言われなければしないという指示待ちに育つのは、もう一人の自分が考えて決めるという経験が少なかったせいもあります。子どものことは年齢に応じてできるだけ子どもの裁量に任せるように見守りましょう。

指針2 他者を慈しみ尊重することができる子ども

 子どもに決めさせたら、わがまま勝手に育つのではと心配されるかもしれません。もう一人の子どもが自分と周りの人を同じと見ることができれば、わがままをいうことはなくなるばかりか、自分を抑えて優しい気持ちを相手に向けるようになります。
 自立が順調に進むためには、他者を対等に受け入れられるかどうかがポイントになります。人は皆同じという意識が育てば、社会で他者を慈しみ自分を生かすことができます。
 毎日の生活の中で譲るという経験をする機会を持たせます。家族や友達が楽しく生きるためにはお互い様の気持ちが大切であることをいろんな場面ごとに気付かせてやりましょう。

指針3 居所を見つけ安心することができる子ども

 子どもが育つ場は安心できる居場所です。もし不安な場に置かれたら、自分を守るために閉じこもり育ちは滞ります。居場所とは、現実の場所ではありません。例えば、夕食後に子ども部屋に追いやられると、隔離されてひとりぽっちになり、窓際の不安にさいなまれます。自分のことをしながらも家族とのつながりを感じられるリビングが安心の場になります。
 人とのつながりが豊かであるところが居場所です。今、子どもたちはクラスメートとの横のつながりに片寄っていて育ちの場が貧弱になっています。いろんなタイプの友達の輪や、近所や地域の大人たちとの斜めのつながりを持つようにした方がいいでしょう。

指針4 共存を願って信頼することができる子ども

 子どもの居場所とは人とのつながりですが、知り合っている、遊び仲間といった程度では十分ではありません。共に生きて喜怒哀楽を共有できる深いつながりを持つことが大切です。苦しいとき、寂しいときにそばにいてくれる人があれば、道を踏み外すことはありません。
 自分を生かすための社会化とは、求められる自分になり他者と信頼関係を結ぶことです。お互いに相手を必要としている五分五分の関係が人としてのつながりです。子どもは母親を必要としています。もう一人の子どもが、母親も子どもを必要としているということを分かると、信頼関係を持つことができます。子どもを受け止める一方で、子どもに頼ってみましょう。

指針5 思いを正しく表現することができる子ども

 子どもの安心できる居場所は信頼関係であり、それを組み上げているのが言語です。人としてのあらゆることが言語によって可能になっています。もう一人の自分は言葉を取り込むことで知恵を獲得しつつ、自分をきちんと認識し、他者や環境を理解することができます。
 子どもは周りに飛び交う母の言葉である母国語を聞き取り、意味を推し量り、まねをして、どう伝わるかを確認しながら覚えていきます。
 喜怒哀楽の自己中心的な感情表現を言語化しようとする過程で、もう一人の自分による抑制が可能になり、共感を基盤とした社会生活を送ることができるようになります。

指針6 真実の言葉を理解することができる子ども

 人間関係では、言葉遣いに気配りすることが必要になります。子どもたちは、言葉をただ伝えるだけで、伝わるようには使い切れていません。テレビから出てくる言葉は一方的に伝える言葉です。言葉は相手を意識し伝わるように選ぶ必要があります。
 乱暴だから乱暴な言葉遣いをするのではなくて、乱暴な言葉遣いをしているから乱暴になります。言葉遣いが品格を作り上げます。
 真実の言葉は、生きることへの共感を支えるための言葉です。赤ちゃんに優しい言葉をかけるのも、赤ちゃんの健気に生きようとしている命に共感するからです。

指針7 能力を発揮し実行することができる子ども

 もうひとりの子どもはできるようになりたいと願っています。その思いを実現することのできるチャンスを与え続けなければなりません。子どもが何かをしようとしているとき、なるべく気の済むまでやらせておきましょう。うまくいってもいかなくても、その動きに馴染むことで力の発揮の仕方を身につけていきます。子どもの行動は何事も練習なのです。練習できなければ、できるようになりたいという思いは出口を失います。
 すればできると思うだけで実際にはしないことがあります。したことがあるという実績が大事です。経験したことがないことは実行できるはずがありません。

指針8 優しい心情で協力することができる子ども

 子どもは成長するにつれて様々な能力を獲得していきますが、それは自分の思う通りにしたいという欲に導かれています。能力の望ましい発揮に導く心情を育むことが必要です。
 人の厚意を受けてうれしいからアリガトウと言います。この時のうれしさは誰からかもらうまで待っているうれしさです。ちょうだいといううれしさです。
 一方で、ちょっとした厚意を示してアリガトウと言われるとうれしくなります。このうれしさは自分からいつでも招き寄せることができます。アリガトウと言ってもらうにはドウゾという言葉が必要です。自分の優しさを引き出し協力関係を実現する大事なキーワードです。

指針9 現実を直視し希望することができる子ども

 しなければならないことがあるとき、自分の気持ちにそぐわないからと逃れることなく、きちんと直視し自らの能力で受け止める忍耐が必要です。
 しようと思っても物事はすんなりとは進みません。あきらめないという前向きな気持ちが希望であり、そこから工夫する力が引き出されてきます。何とかならないかと今この場でできることを見つけるようにしましょう。現実を見る力とは目的を持って真剣に見つめることです。
 できることを見極め、自分の力を信じてやってみます。やっていけば状況は変わってくることを信じることです。希望という上り坂の先に可能性が拓けていきます。

指針10 明日の幸せを期待することができる子ども

 毎日を漫然と暮らすのではなく、目標を思い定め側にいる人と共有できると適度の緊張感が気持ちを励ましてくれます。どんなことでもいいから明日への展望を持ち、そこにいたるステップとなる目標を定めます。今日は、今週は、今月は何処まで進むという目標を設定します。もちろん計画は進み具合に応じて変更を余儀なくされますが、そこは柔軟に対応します。
 何処に行こうかという状態では足を踏み出せませんが、あそこに行こうとなると歩きだすことができます。継続は力なり。その継続を促すのが目標です。
 明日に楽しいこと、うれしいことを見つけると、今日をがんばることができます。

指針11 失敗を分析し自認することができる子ども

 できないことに出会ったとき、何処までできたかを自覚すると自信がつきます。自信というのは、自分は何処までできるかということをきちんと理解していることです。できるつもりであるのはうぬぼれです。何ができて何ができないか、自認することが育ちを確実に前進させます。失敗を反省することが大事ですが、何を反省すればいいかを曖昧にしていると、できなかった自分を責める方に向きます。まずできたことを見極めることが正しい自認です。
 育ちは経験の積み重ねであるという原則を生かすために、失敗を許容した上でやらせることが必要になります。失敗の一歩手前まではちゃんとできていると励ましてやりましょう。

指針12 課題を学習し挑戦することができる子ども

 失敗を反省して自分の弱点が見えたら、どうすればできるかを考えなければなりません。自分の経験の中に手がかりはありません。自分以外の人にヒントを探し、真似るのが普通です。
「まねる」が「まねぶ」になり「まなぶ」に変わりました。学ぶというのは、できる人の真似をすることです。特に年長者は良き先生になるので、異年齢集団は育ちに不可欠な環境です。
 子どもは、知っているという学習の段階で止まることがあります。知っているからできるかというと、そうはいかないのが現実です。自分の力になるように何度も繰り返し挑戦する必要があります。挑戦しているポイントが、今最も大事な育ちのポイントになります。

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 以上の12指針は,本ホームページの他の掲載項目である 「子育ち12章」につながるものです。関心のある方はそちらも参照していただければ,より詳しい内容が得られるはずです。また,同じ内容でメールマガジン 「子育て羅針盤」を発行していますので,ご購読ください。

(2025年01月12日)