*****《ある町の退任人権擁護委員のメモ》*****

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【人権羅針盤の応用2(7):部落差別】


 人権宣言等から導き出した「人権羅針盤」は,下図のようにまとめられました。この図を使って,いくつかの人権侵害を診断してみようと思います。何か新しい分析の展開ができれば,人権擁護の助けになるはずです。

幸せの人権羅針盤です
 この図では,中央に位置する私の周り(黄色部分)が幸せの権利を表します。その外側,他者との間(緑色部分)が「人権」といわれるものが機能しているところであり,お互いに擁護されるべき領域となります。この人間関係に備わっている人権を尊重することによって,私の幸せが完成するのです。この構成図によって,他者との関係にある人権と,それにつながる私自身の幸せの相関が明確になりました。

 人権羅針盤の応用2(7)は,令和4年8月に内閣府で実施された「人権擁護に関する世論調査」の結果を参照することで,世論が持ち合わせている人権感覚の傾向を導き出してみることにします。
 参照:https://survey.gov-online.go.jp/r04/r04-jinken/gairyaku.pdf

 先ずは,人権問題に関する関心として,「あなたが,日本における人権問題について,関心があるのはどのようなことですか」という調査結果です。割合の上位から並べてみます。
○インターネット上の誹謗中傷などの人権侵害・・・・・53.0%
○障がい者・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・50.8%
○子ども・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・43.1%
○女性・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・42.5%
○風評偏見や差別など災害に伴う人権差別・・・・・・・32.6%
○高齢者・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・30.1%
○部落差別・同和問題・・・・・・・・・・・・・・・・17.0%
○外国人・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・16.7%
などと,続いていきます。これら関心の高いものについて,以下に個別に各号で詳しく見ていくことにします。今号では,「部落差別」を「人権羅針盤」に投影してみましょう。災害に伴う人権差別の調査については省略します。

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 ○部落差別・同和問題に関する人権問題

R4世論調査:部落差別の人権問題の結果です
○「身元調査をされること」が24.3%です。人としての尊厳を危うくする対応が向けられるという認識はとても憂うべきことです。人となりを特定の場所に結びつけることは何の意味もないことです。いたずらに過去の虚構を受け継ぐのではなく,現在の状況に照らした人間関係を構築していく意図を共有すべきです。

○「差別的な落書きや貼り紙などをされること」が12.5%です。差別する言葉を間接的に文字情報として告知することによって,社会的な関係の破綻を強要されていきます。孤立無援な境遇を強いて安心な場の剥奪をもたらすことで,何を得ようとするのか理解に苦しみます。

○「差別的な言葉を言われること」が32.3%です。直接に差別的な言葉を向けられることで,理解し合うことを目標とする表現の交流が阻害されます。差別という行為が健全な人間社会にはあってはならないという了解を明確にすべきです。

○「就職・職場で不利な扱いを受けること」が27.5%です。職場といった社会活動の場では,協力し合うことが基本です。不利な扱いとはその協力に対する理不尽な妨害行為になります。その不遜な行為はやがて跳ね返ってくると考えてみるのが大人なのですが。

○「交際や結婚を反対されること」が40.4%と高率です。明日への希望につながることが失われるのは大変辛い思いを強いられます。結婚は憲法にも明記されている幸福追求の権利です。正当な理由があればまだしも,部落差別は反対の理由にすべきではありません。

○「ネットで差別的な情報が掲載されること」が14.9%,「えせ同和行為が行われること」が12.0%です。社会に流れる情報として部落差別やえせ同和による被害の発生は,世間が願っている共生に逆行するものでしかありません。浄化することが望まれます。

 このように人権侵害と考えられる選択肢を人権羅針盤に振り分けることによって,それぞれの侵害事象が被害を受けている人に対してどのような被害をもたらしているのか,侵害の意味,侵害である理由,被害の形が明らかになります。

(2025年01月19日)