*****《ある町の退任人権擁護委員のメモ》*****

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【生きる羅針盤の提案(25):怒鳴る(2)特徴】


 人権宣言等から導き出した「人権羅針盤」は,人権という言葉が目指すものに言い換えると人が穏やかに生きるための羅針盤と考えなければなりません。だからこそ,先に示した子どもの育ちを考える羅針盤としても有効になることができたのです。ここでは,「生きる羅針盤」としての様子を描き出しておくことにします。ふと立ち止まって,「生きるとは?」という疑問に出会った際に,その思考のお手伝いができたら幸いです。

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 「私が生きる羅針盤」を考える第25版です。今号では,何かと怒鳴る人の特徴を取り上げます。怒鳴る行為が人間関係に及ぼす特徴を考察している論考を,生きる羅針盤に参照してみました。

生きる羅針盤の提案(怒鳴る特徴)です
【些細なことで感情的に】
《説明》怒鳴る人の特徴として,些細なことで感情がすぐに爆発してしまうという傾向があります。普通の人なら軽く注意する程度の状況でも,怒鳴る人は怒りを抑えきれず,大声で激しく反応してしまいます。
 例えば,職場でちょっとした伝達ミスがあったとき,多くの人は冷静に対応します。しかし怒鳴るタイプの人は,「なぜこんな簡単なことができないんだ!」と感情的に怒鳴りつけてしまうのです。

※怒鳴るという行動が人間関係に及ぼす特徴の一つは,もう一人の自分が自分の感情を抑制しようとせず,他者にぶつけて解消しようとする幼さです。怒鳴りたい感情を,周りに振りまくことで,逃げようとしています。もう一人の自分が周りの人との関係で負の感情を押しつけることの理不尽さを弁えていないことに気付けないのです。もう一人の自分の弱さが表れてしまっています。

【態度が威圧的に】
《説明》怒鳴る人は,言葉だけでなく普段の態度や表情にも威圧感があります。特に怒りを感じると,相手をにらみつけるような鋭い視線や,腕組みをしたり,ため息をついたりするなど,明らかに威嚇的な態度をとります。職場で,いつもイライラした雰囲気を醸し出し,周囲の人が話しかけづらくなるという状況もよくあります。このように,怒鳴る人は常に周囲に緊張感を与えてしまうのです。

※怒鳴るという行動が人間関係に及ぼす特徴の一つは,もう一人の自分が自分の周りを支配しているという錯覚に囚われていることです。自分が支配できる範囲は自分だけであるという平等概念を習得できていません。怒鳴るという強さによって,理不尽な強権を発している自分の未熟さを露呈していることに気付かなければなりません。

【大声で威圧的に】
《説明》怒鳴る人は,意識的に大きな声を出して相手を威圧し,自分の立場を優位にしようとします。これは職場でも家庭でもよく見られる特徴です。
 例えば,部下がミスをした際,本来なら穏やかに指摘すれば済むところを,「何度言ったらわかるんだ!」と大声で怒鳴ることがあります。大きな声で相手を萎縮させることで,自分の主張を相手に無理やり通そうとしているのです。
 また,怒鳴る人の中には,他人がいる場所でも構わず大声を出す人がいます。職場のオフィスや店舗,公共の場など,周囲の人がいる状況でも平気で怒鳴るため,周囲の人にも強いストレスを与えてしまいます。
 例えば,お店で店員に対して怒鳴りつけたり,会議中に他の社員がいる前で特定の部下を怒鳴ったりする場面がこれに当たります。このような行動は,怒鳴られた人だけでなく周囲にも心理的な負担を与えてしまいます。

※怒鳴るという行動が人間関係に及ぼす特徴の一つは,今自分に起こっていること,自分が置かれている状況を認識するために必要な情報を収集し理解することができずに,場を弁えないストレス発散をしてしまうものです。時と場所を弁えることはあらゆる行動の前提ですが,怒鳴るという形の表現行動は他人には迷惑なものでしかありません。ましてや,怒鳴ってストレスが解消するという思い込みは,人として恥ずかしいことだと学ぶべきです。

【相手により態度の変化が】
《説明》怒鳴る人は,上下関係や相手によって態度を大きく変えることがあります。自分より立場が強い上司や取引先には穏やかで丁寧に接しますが,自分より弱い立場の部下や新人に対しては厳しく怒鳴ります。
 例えば,新入社員の些細なミスには激しく怒鳴りつける一方,上司が同じミスをしても何も言わない,といった状況です。こうした態度の使い分けは周囲から不信感を抱かれやすく,人間関係に悪影響を与えます。

※怒鳴るという行動が人間関係に及ぼす特徴の一つは,自分の怒鳴る立場が完璧であるべきとの思い込みをすることで,社会的存在感を持とうとしていることです。人には社会参画をしている責任のある人間としての自覚が必要なのですが,その妥当性が他者との関係のありようを通じて確認されなければなりません。怒鳴ることが立場を示す役柄であるという思い込みが,強すぎます。反省を込めた,指導につながる言動のあり方を学ぶべきです。

【他人の話を聞かない】
《説明》怒鳴る人の特徴としてよく見られるのが,他人の話をほとんど聞かず,自分の意見だけを強く主張することです。相手が説明や反論をしようとしても,「言い訳するな!」と遮ってしまいます。
 例えば,職場で報告をしようとした部下が途中で話を打ち切られ,何を言っても「聞きたくない」と拒絶されるような状況です。この特徴により,相手とのコミュニケーションが成立せず,問題がさらに悪化してしまうこともあります。

※怒鳴るという行動が人間関係に及ぼす特徴の一つは,怒鳴る事柄に関わる人たちの中で,今後の対応をどうするかという向きに進むことを放棄することになります。対応が分かれば,怒鳴りの元は解消されるはずです。怒鳴っている人は,状況を完全に把握しているというおごりが生まれています。怒鳴る行為を始めた途端に,客観的な認識を逸脱しています。聞きたくない,それは私はすべてを分かっているという思い込みです。そのことを危うくする新事実を持ち出されるのを恐れているだけです。先行きの変化を受け入れる余裕のなさは,事態を硬直させてしまいかねません。

【他人のミスを責める】
《説明》怒鳴る人は自分のミスを絶対に認めようとしませんが,一方で他人のミスには非常に厳しく接します。職場の会議で資料に間違いがあった際,自分が作成した場合は言い訳を並べますが,他人が作成した場合は怒鳴りつけるということが起こります。このような態度は周囲から見ると理不尽ですが,本人にとっては自己防衛の一つの方法なのです。

※怒鳴るという行動が人間関係に及ぼす特徴の一つは,ミスをすることは絶対に許されないと信じていて,自分のミスはあり得ない,だから他人のミスも許さないと責め立てます。人の弱みを見つけて責めることで,自らの優位性を保つ積もりかもしれませんが,ミスがあることを前提として物事に対処する余裕が仕事を進める良い進め方です。できる人ができてない部分を補って協働していくことが,関係の強みになります。先を見た関係を維持することが大切です。ミスによって明らかになった弱点を克服するチャンスを生かすことです。

○以上,怒鳴るという行動が人間関係に及ぼす特徴に関する考察を,「生きる羅針盤」に対応させてもらいました。これまでの対応事例と同じように,あまり違和感もなく整理をすることができているはずです。それぞれの想定している世界観における具体的な表現は違っていても,人が思い至る幸せに生きる境地は本質的に同じ構造になっているようです。それぞれを別個にしておかずに,まとめていく作業から,人の生き方について深い理解が得られるのではないかと期待しています。

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 社会に真剣に向き合って生きていくことは,人として誰もが願っていることです。ただ人には本能から派生する弱さもあります。その弱さを押し込めていく意思が必要になります。そしてその意思は目標を必要とします。それが羅針盤なのです。
 人としてすべきことから外れないようにすることは大事であり,それは誰にとってもできることであり,気持ちの良いものです。しあわせは誰かだけにあるのではなく,皆に同時にあるものです。権利を守る,言葉は堅く響きますが,人として生きていく自然な姿であればいいのです。

(2025年07月20日)