*****《ある町の退任人権擁護委員のメモ》*****

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【生きる羅針盤の提案(27):7美徳】


 人権宣言等から導き出した「人権羅針盤」は,人権という言葉が目指すものに言い換えると人が穏やかに生きるための羅針盤と考えなければなりません。だからこそ,先に示した子どもの育ちを考える羅針盤としても有効になることができたのです。ここでは,「生きる羅針盤」としての様子を描き出しておくことにします。ふと立ち止まって,「生きるとは?」という疑問に出会った際に,その思考のお手伝いができたら幸いです。

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 「私が生きる羅針盤」を考える第27版です。今号では,7つの大罪と美徳というものがあるようで,生きる羅針盤に参照してみました。ここでは美徳を表に位置づけて,裏として大罪を見ていきます。

生きる羅針盤の提案(7美徳)です
【美徳=忍耐  大罪=憤怒】
《説明》美徳:忍耐
 忍耐は,苦難にこらえて耐えることです。

 大罪:憤怒
 憤怒は,他人に対して感情的に怒って攻撃することを指します。思い通りにならないときに他人のせいにして怒ったり,腹いせに物を壊すことなどを指します。

※生きているといろいろなことが舞い込んでくるものです。もう一人の自分が自分にこうあってほしいと思うのに,実際にはそうはならない状況も起こります。そのときに選ぶ決断によって,その後の展開も変わることは自明でしょう。まずは,思い通りにならない状況に直面した自分を,もう一人の自分がどう導くかです。我を忘れて暴走したりしないように,じっと状況を受け止める忍耐をすることです。次のステップは,思わない状況が他人のせいであるとして,感情の爆発をしないことです。憤怒を避けないと,新たな問題を追加することになります。自己抑制は自分でしかできないことです。

【美徳=慈善・寛容  大罪=強欲】
《説明》美徳:慈善・寛容
 慈善は,他人を思いやり情けや哀れみをかけることで,災害の被災者や経済的に困窮した人へ救済をすることです。また,寛容は,広い心を持って他人の意見を受け入れ,他人の過ちや欠点を厳しく指摘しないことです。

 大罪:強欲
 強欲は,金銭や権利などを必要以上に欲しがることを指します。適正価格をはるかに超えた金額でものを売りつけたり,地位や権威を弱者に対して振りかざす行為をすることです。

※生きていく上では,人との関わりが避けて通れないというより必須です。その関わりの時に,それぞれの個人状況に差があることがあります。相手に不足がある時には,困っているという場合,慈善による補填をしたり,相手の状況を受け入れる寛容の発揮が望まれます。逆に自分の方に不足がある場合,その穴を埋めるために無理な強欲を向けたりすることは,人の関係としては不適切であり,関係を壊すことになります。人として平等であることを忘れてはなりません。

【美徳=謙虚  大罪=傲慢】
《説明》美徳:謙虚
 謙虚とは,素直に他人の意見へ耳を傾けられることを指します。控え目で,慎ましく自身を客観的に捉えられている状態です。

 大罪:傲慢
 傲慢は,外見を飾り立てて,実際の状態が伴わないうわべだけの栄誉を指します。自分のことを実力以上に優れていると思い込んでおり,他人を見下している状態です。

※人は生きていくためには,今の状況を正しく認識する必要があります。落ち着いて理性的に正確な表現で理解していれば,人と共にしている場の運用を円滑に進めることができます。他人の意見を謙虚に受け止め,正直な意見を表明し合うことが,良い結果に向かう要件です。自分を無理に持ち上げようとするごまかしは虚言を産み,相手に誤解を与えるだけでなく,自分にもいずれ跳ね返ってきます。真実から逃れることがなければ,まっすぐな判断ができます。

【美徳=感謝・人徳  大罪=嫉妬】
《説明》※美徳:感謝・人徳
 感謝は,他人からしてもらったことや恵まれている状況を再確認し有難い気持ちを表すことです。また,人徳は,他人から信頼を得ていて,認められていることです。

 大罪:嫉妬
 嫉妬は,自分よりも優れている他人を認めず,うらやみ,妬んでいる状態を指します。他人が努力して得た成果を認めることができず,成果を得た人物はズルいと思い込んでいる状態です。

※人は自然だけではなく人という環境に寄り添って生きています。そこでは大きな集団活動が機能しているので,人それぞれには揺らぎという差異が生じます。すべての人が今現在という時に同じ境遇とはなりません。恵まれていないときは助けてもらいます。そのことを感謝することで,支援という触れあいが社会に定着します。もしも,今は他者が優れている状況を不当なものと思い込み素直に受け入れずに嫉妬すると,互恵によって生きていく社会という体制を否定することになります。人それぞれが思い描き態度に示していく人間関係のありようによって,社会という生きる環境が実現されていきます。

【美徳=純潔  大罪=色欲:美徳=節制  大罪=暴食】
《説明》美徳:純潔
 純潔は,清らかな心を持っているということで,必要以上にみだらなことをせず,心身を清潔にすることです。

 大罪:色欲
 色欲は,異性愛や性行為に溺れている状態を指します。パートナーがいるにも関わらず,異性をもて遊んでいる状態です。

※美徳:節制
 節制は,必要最小限の限度をしっかり守り,控え目にすることを指します。食事では腹8分目と定めて身体を労わることです。

 大罪:暴食
 貪食は,必要以上の食事を行い肥え太ることを指します。食料を独占し他人へ分けずに自分だけで消費することです。

※人は今を生きるだけではなく,明日に向けて生き続けるという意識を持つことができます。その一つとして,世代交代という本能に基づく行動をすることがあります。パートナーと生きるという選択をどのように実現するか,その形は異性間だけではなくなっていますが,純潔が守られべき,色欲まみれは忌避されるべきという社会通年は配慮すべきです。
 また,生き続けるためには,常に明日への可能性を意識しておかなければなりません。今日必要なことだけに節制し,必要以上の暴食,独占などは抑制する知恵が,生きていく知恵になります。明日の皆の生きる糧に配慮することが,人間らしさの証です。

【美徳=勤勉  大罪=怠惰】
《説明》美徳:勤勉
 勤勉は,やるべき仕事に一生懸命なことを指します。対価に見合った働きをし,仕事をやり遂げることです。

 大罪:怠惰
 怠惰は,やるべき仕事を怠ける状態のことを指します。仕事に対して対価を得ているにも関わらず,サボっている状態です。

※人が生きていくために構築した社会生活,そこではそれぞれが構成員としてその維持に役割を果たさなければなりません。そのシステムは,働きに応じた対価を得るという契約により,人それぞれに生きていく糧が配分されるものです。皆が生きる活動,それが自分が生きる可能性を得ることになります。もし怠惰にふけるということになると,自らの生きることを他者に押しつける不義理となり,社会責任を放棄することになります。社会の一員であること,それが社会の発展を支えて,自らの成長につながります。その大きなつながりを理解し実行できるものが,成人なのです。

○以上,人が生きていく上で目指す美徳,その裏である大罪と言われるものを,「生きる羅針盤」に対応させてもらいました。これまでの対応事例と同じように,あまり違和感もなく整理をすることができているはずです。それぞれの想定している世界観における具体的な表現は違っていても,人が思い至る幸せに生きる境地は本質的に同じ構造になっているようです。それぞれを別個にしておかずに,まとめていく作業から,人の生き方について深い理解が得られるのではないかと期待しています。

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 社会に真剣に向き合って生きていくことは,人として誰もが願っていることです。ただ人には本能から派生する弱さもあります。その弱さを押し込めていく意思が必要になります。そしてその意思は目標を必要とします。それが羅針盤なのです。
 人としてすべきことから外れないようにすることは大事であり,それは誰にとってもできることであり,気持ちの良いものです。しあわせは誰かだけにあるのではなく,皆に同時にあるものです。権利を守る,言葉は堅く響きますが,人として生きていく自然な姿であればいいのです。

(2025年08月03日)