*****《ある町の退任人権擁護委員のメモ》*****

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【生きる羅針盤の提案(28):育ちの良さ】


 人権宣言等から導き出した「人権羅針盤」は,人権という言葉が目指すものに言い換えると人が穏やかに生きるための羅針盤と考えなければなりません。だからこそ,先に示した子どもの育ちを考える羅針盤としても有効になることができたのです。ここでは,「生きる羅針盤」としての様子を描き出しておくことにします。ふと立ち止まって,「生きるとは?」という疑問に出会った際に,その思考のお手伝いができたら幸いです。

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 「私が生きる羅針盤」を考える第28版です。今号では,育ちの良い人がしない6つのことを列挙している情報に接したので,生きる羅針盤に参照してみました。しないことを参考にすれば,育ちの良い人になれるかもしれません。

生きる羅針盤の提案(育ち良さ)です
【育ちがいい人は,他人のせいにしない】
《説明》部下が言うことを聞いてくれない,彼が会う時間を作ってくれない,国が年金を少ししか出してくれないなど自分以外が「〇〇してくれない」という思考になっていませんか? 自分ではどうにもできないことにモヤモヤしていても状況は何も変わりません。
 育ちがいい人は物事を他人のせいにせず,置かれた状況で自分が何をしたらいいか,どうすべきかを考えます。そんな風に前向きな考え方をしていると,おのずと表情も明るく運も上がってくるものです。

※育ちの良いというのは,もう一人の自分が自分の育ちの状態を良い方向に導く力を獲得していることです。自分に関わることは自分が対応しなければどうにもなりません。人のせいにして人をどうにかしようとしても,それは無理です。自分にできることは自分をなんとかすることです。自分のことは自分で決める,それは実現可能性がそこにあるからです。

【育ちのいい人は,夜更かしもしない】
《説明》翌日の予定も考えず,たまった録画番組を夜通し見たり,ゲームやスマホを夜中まで見たり,惰性で飲み会の3次会まで参加するなどして夜更かししていませんか? 夜更かしして目にクマを作り寝坊して出社する姿を思い浮かべてください。育ちがいい人には見えません。
 育ちがいい人は規則正しい生活をして,朝爽やかに目覚めます。ゆったりとバランスのとれた朝食を食べ清楚なメイクをしてきちんとした身なりで出かけます。忙しい現代ですが,せめてぐっすり寝て,朝はスッキリ起きるように心がけましょう。

※育ちの良いというのは,もう一人の自分が自分の体調をしっかりと管理し,良い状態に維持する力を獲得していることです。よりよく生きるためには,よりよい体調であることが基本となります。その当たり前なことを弁えて,心がけている生活態度が,育ちの良さとして現れてきます。体調に心配がないという安心があれば,お互いに信頼を持ち合えることになります。

【育ちがいい人は,否定言葉を使わない】
《説明》会話をしていて,否定されるといい気持ちがしません。育ちのいい人は,相手と違う視点だったとしても一度優しく受け止めてから,自分だったらこうかなという流れで会話をすすめていきます。例えば,育ちのいいCさんはいつもこんな具合。Aさん「私はジンギスカンが好きなんだよね」。Bさん「えー,私においがきつくて嫌い」。Cさん「そうなんだ。私は苦手だけど,北海道で美味しいって有名だよね。」
 また,後ろ向きなことばかり話す人より,前向きに楽しく話す人の方が魅力的です。愚痴や不満をもらされるより,こんなことしたい,あんなこと楽しかったという話しをする人のほうが育ちがいいと感じます。

※育ちの良いというのは,人との関わりを前に進めていく表現ができることです。表現とは,お互いに分かり合うためのツールである信じています。分かり合うとは,必ずしも同じであるとは限りません。それぞれに違いがあり,そのことを認めながら,どこかに納得できる共通点を探していくプロセスが,対話になっていきます。問答無用という表現の封鎖は,関係の破壊のきっかけになるので,育ちの悪さになります。

【育ちがいい人は,食べ放題に行かない】
《説明》お皿にのせきれないほどの食べ物をいくつもテーブルにのせて勢いよく頬張る姿。これも育ちがいい人には見えません。そもそも食べ放題は楽しいですが,元をとれるものではありません。好きなものを自分にちょうどいい量食べればよいのですが,食べ放題となると欲がでて食べ過ぎてしまいます。おいしいものを食べられる量だけ食べる。「お得だから」「安いから」という発想でわざわざなにかを食べる必要はありません。その後太るなと後悔するようなお金の使い方をせず,質がよく身体にいいもの,自分では作ることができないようなお料理にお金を使うのが育ちのいい人です。

※育ちの良いというのは,何事にも程を弁えることができることです。食欲とは人の生きるために大事な欲望です。つい羽目を外して食べすぎるものですが,腹八分という節度を守ることで,自分を守るだけではなく,食の配分という面での気遣いも示すことができます。自他への心配りができてこそ,育ちの良さがその本領を示すことができます。

【育ちがいい人は,無駄遣いをしない】
《説明》お金持ちの家にうまれたから育ちがいいとは限りません。質素な生活をしていても,育ちのよさが現れるのがお金の使い方です。育ちがいい人はメリハリをつけてお金を使います。長く着られそうな質のよい服にお金をかける,交流を深めたい食事会に行く,自己研鑽の勉強やジムに通うなど大切なことで節約はしないのです。同じ節約をしないケースでも,急にリッチになり上がったり,お金に無頓着な育ちが悪い人は勢いにまかせてお金を使います。これでは育ちがよく見えません。お金の大切さを知って使える人は育ちがいいのです。

※育ちの良いというのは,資産の運用に対して,その利用が有効である状況,その後の影響の効果判断をできていることです。今は無駄に見えても,後で効果を生むものであれば,投資として有効になります。一時的な状況判断で消費をするのではなく,計画的な消費であることを,ごく自然に実践できると,育ちの良さと認められます。同じ冷静な消費をしていても,それが私欲につながっていると見透かされると,育ちの悪さとなります。

【育ちがいい人は,遅刻しない】
《説明》部屋の片づけ,季節の変わり目の衣替えなど,時間がないと言い訳して後回しにしていませんか? 育ちがいい人は時間を大切にして,しなければいけないことはすぐ行動に移します。後回しにしません。お金で買えない時間の大切さを知っているので,相手の時間を無駄にしてしまう遅刻はしないのです。 遅刻だけでなく,「準備のぬかりなさ」は相手への気づかいそのもの。忘れ物もせず,段取りよく準備を進めていくため,手帳やメモなど「思い出す工夫」も丁寧に行います。「そんなことしている時間がない」という人もいるかもしれませんが,育ちのいい人は自分をそもそも「キャパオーバーする作業」を引き受けません。自分の身の丈を知り,できないことは角を立てずに丁寧にお断りするよう,小さなときからしつけられているのですね。

※育ちの良いというのは,今できること,今した方がよいことをキチンと見届けて実践できていることです。物事には段取りがあるという原則から逸脱しないように留意し,一つ一つ着実に処理していく淡々とした姿が育ちの良さです。もう一人の自分が,今自分が向き合っている状況の下で,自分にできる最大限のことを,どのようにすれば遂行できるかを導いている,その落ち着いた物腰が余裕のある雰囲気を醸し出します。今しておくことを先送りすると,それは明日の時間を奪う付けになります。後悔は育ちの良さには相応しくありません。

○以上,育ちの良いという状況から見えてくる人の生きる様子を,「生きる羅針盤」に対応させてもらいました。これまでの対応事例と同じように,あまり違和感もなく整理をすることができているはずです。それぞれの想定している世界観における具体的な表現は違っていても,人が思い至る幸せに生きる境地は本質的に同じ構造になっているようです。それぞれを別個にしておかずに,まとめていく作業から,人の生き方について深い理解が得られるのではないかと期待しています。

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 社会に真剣に向き合って生きていくことは,人として誰もが願っていることです。ただ人には本能から派生する弱さもあります。その弱さを押し込めていく意思が必要になります。そしてその意思は目標を必要とします。それが羅針盤なのです。
 人としてすべきことから外れないようにすることは大事であり,それは誰にとってもできることであり,気持ちの良いものです。しあわせは誰かだけにあるのではなく,皆に同時にあるものです。権利を守る,言葉は堅く響きますが,人として生きていく自然な姿であればいいのです。

(2025年08月10日)