【生きる羅針盤の提案(33):時間無駄5】
人権宣言等から導き出した「人権羅針盤」は,人権という言葉が目指すものに言い換えると人が穏やかに生きるための羅針盤と考えなければなりません。だからこそ,先に示した子どもの育ちを考える羅針盤としても有効になることができたのです。ここでは,「生きる羅針盤」としての様子を描き出しておくことにします。ふと立ち止まって,「生きるとは?」という疑問に出会った際に,その思考のお手伝いができたら幸いです。
******************************************************************
「私が生きる羅針盤」を考える第33版です。今号では,忙しい毎日を送っていて,「今日は何をしたのかな」と思うとき,時間を無駄にしてしまったと感じることがあるかもしれない5つのことを解説している情報に接したので,生きる羅針盤に参照してみました。日常の同じ出来事に出会っても,それを幸せに感じることができるような手がかりになるかもしれません。
【補足項:本当に大切なものを見落とす】
《説明》ムダな時間の使い方を見直し,日常生活に少しずつ取り入れることで,より満足感のある毎日を過ごすことができます。時間を有効に使うためには,まず自分自身を大切にする意識から始めることが必要です。アメリカの詩人,ヘンリー・デイヴィッド・ソローは「忙しさの代償は,真に大切なことを見失うことにある」と教えてくれています。日々の中で「何が本当に大切なのか」を見つめ直し,大切なものにフォーカスしながら豊かな毎日を送っていきましょう。
※時間の無駄に気付くためにできることは,もう一人の自分が日常の暮らしの中で自分にとって大切なことを意識していることです。何気ない当たり前なことであっても,その意味を考えてみる余裕を持つようにすると,時間の有効性を確認することができます。なんとなくあれこれをしている,その日常を一日の終わりにもう一人の自分が振り返る機会をもうけるといったことを実践してみることも,良い習慣になるでしょう。もう一人の自分を眠らせたままでは,自分を導くことはできません。
【5. 脳や心を「休めること」ができていない】
《説明》「忙しくしていないとダメだ」と感じ,休むことに罪悪感を持っていませんか? 脳科学によると,定期的な休息は創造性や集中力を高め,幸福感を向上させることが明らかになっています。「生産性がある時間ほど価値がある」という考え方にとらわれすぎていると,身体を休めている間も焦りや不安に駆られ,結局は脳や心を休ませることができずに時間だけが過ぎてしまうことになります。休むことは決してムダではなく,むしろ活動時間を効果的に使うための重要なステップであることを覚えておきましょう。
※時間の無駄に気付くためにできることは,周りの皆と活動のペースを同じにしなければと自分を追い込むことをしないことです。休んでいると皆からサボっていると思われるのではないかと気になるかもしれません。そのような余計な気遣いが無駄であることを,皆と理解し合う関係が大事です。お互いを信頼することが,時間の有効活用につながるのです。
【1.スマホを「だらだら」見続けてしまう】
《説明》スマホをなんとなく見てしまう時間は,無意識のうちに積み重なっています。特に,SNSやインターネットサーフィンに費やす時間は,脳を疲れさせ,集中力を低下させることが明らかになっています。一度手に取ると,何時間もスクロールしてしまい,気がつけば大切なことに使うべき時間を失ってしまうことにもなります。スマホを見続ることが直ちに深刻な問題を引き起こすわけではありませんが,そのせいで確実に時間が失われ,「できなかったこと・やらなかったこと」が増えてしまうのです。
※時間の無駄に気付くためにできることは,欲求を程ほどに抑える習慣を維持することです。したいことを野放しにすることが限られた時間を使いすぎることにつながります。情報を知りたいという欲求は,最近の無限のネット環境では際限なく続けることができます。人が付き合う能力では処理が遅いために,時間を浪費することになります。身の丈に合った付き合い方を早急に獲得すべきです。次から次に連鎖する情報の罠に捕まらないような落ち着きが必要です。
【4.負担に感じている「人間関係」を続けている】
《説明》無理に続けている人間関係が,時間とエネルギーを消耗させる原因になっていることがあります。お互いに負担になるような関係を続けることは,精神面にも健康面にも悪影響を及ぼすことが研究結果でも分かっているのです。ストレスもムダな時間も増えてしまうことは,非常にもったいないですよね。断るスキルを身につけて自分の時間を確保できると,やりたいと思っていた趣味を楽しむなど,自分を満足させる時間を持てるメリットがあります。
※時間の無駄に気付くためにできることは,社会的なつながりに基づく活動の優先度・必要度を適切に判断することです。今しなければならないのか,必ずすべきことなのかといったことの評価をして,選択することが大事になります。お互いに無理して社会的活動をし続けることは不可能です。余裕を含ませることによって,共同生活を無理なく続けることができます。その結果として,無駄な時間を無くして,有効な時間をそれぞれに過ごすことが実現されます。無理を引き受けると、他にも無理を押しつけるようになり,窮屈な社会,逃げ出したい社会に落ち込んでいきます。
【3.「完璧主義」にとらわれている】
《説明》完璧主義は時として,大きな妨げになることがあります。すべてを完璧にしようとするあまり,行動を起こす前に面倒になってしまい,時間を無駄にしてしまうことがあるのです。心理学の研究では,完璧主義が強い人ほどストレスを感じやすく,物事を完成させるのに時間がかかる傾向にあることが示されています。「まずは60%達成できたらOK」という新しい定義で取り組んでみましょう。60%達成した時点で,完璧を目指すかどうかを決めても遅くはありません。面倒だとか,頑張れないと感じたときは,完璧を求めすぎていないか自分の思考を見直してみることです。
※時間の無駄に気付くためにできることは,取り組む物事の目標を現状に結びつけて設定することです。今できることから取り組むようにしないと,した方がいいことをあれこれすべて考えていくと膨大な作業量にふくらんでしまい,着手が遅れていきます。とりあえずここまで今日中に,この段階で終えてみて,この程度の出来で,と間に合う段階を設定します。一事が万事完璧な最高品質が求められているわけではありません。状況に応じた完成度があるはずです。最高品質ではなくても良い品質であればいいという現実を受け入れた方が,時間を有効に使えるはずです。活動には状況に応じた程良い完成度があります。将来への宿題を残しておくことも人間らしさです。
【2.「先延ばしグセ」がついている】
《説明》「明日やればいいや」と思い,物事を先延ばしにするクセはありませんか? これが習慣化してしまうことで,やるべきことが山積みになり,ストレスが増えることになります。先延ばしは,不安や自己効力感の低下につながることが心理学の研究でも明らかになっています。その結果として,後悔を招くことになるのです。「まずは立ち上がって〇〇をひとつだけしておこう」など,自分に指示を出すだけでも,脳がフォーカスするものが変わります。毎日ひとつでも良いので,先延ばしにしているものを片付ける習慣を身につけましょう。
※時間の無駄に気付くためにできることは,手持ちの時間で何をすることができたかを見届けることです。時間の無駄ではなく,無為な時間をなくすことです。休養といった積極的な意味のある無為は別です。今日できることをしないで残すと,明日の時間を奪うことになります。すべきことはもちろんのこと,しておけることはしておけば,明日の使える時間が増えていきます。やるべきことを一つ一つ処理していく,その歩みが時間を大事に過ごしていく人生の積み重ねになります。継続は力になります。
○以上,時間の無駄に気付くためにできることを,「生きる羅針盤」に対応させてもらいました。これまでの対応事例と同じように,あまり違和感もなく整理をすることができているはずです。それぞれの想定している世界観における具体的な表現は違っていても,人が思い至る幸せに生きる境地は本質的に同じ構造になっているようです。それぞれを別個にしておかずに,まとめていく作業から,人の生き方について深い理解が得られるのではないかと期待しています。
******************************************************************
社会に真剣に向き合って生きていくことは,人として誰もが願っていることです。ただ人には本能から派生する弱さもあります。その弱さを押し込めていく意思が必要になります。そしてその意思は目標を必要とします。それが羅針盤なのです。
人としてすべきことから外れないようにすることは大事であり,それは誰にとってもできることであり,気持ちの良いものです。しあわせは誰かだけにあるのではなく,皆に同時にあるものです。権利を守る,言葉は堅く響きますが,人として生きていく自然な姿であればいいのです。
(2025年09月21日)