*******  あ た ら し い 風  *******

〜 風 と 共 に 生 ま れ る 〜

【3】 風を知る
 風について論じるためには、風を知らなければなりません。そこで自然界の動きを概観することで、風という概念を明確にしておきます。
 身近な水を例にとって動きという現象を考えてみます。雨は降ってきて小さな流れになり川を下り海に行き着きます。水は高い所から低い所に向かって動きます。物体は位置のエネルギーを低くする方向に動くのが、ニュートンの発見以来の自然認識上の原則です。位置エネルギーが減った分だけ運動エネルギーが生じ、速度を獲得することを通して力という概念が派生します。これが水力です。水は上から下へ下るものであるとしたら世界中の川はとっくに干上がっているはずですが、悠久の昔から川は流れ続けています。その川の水はどこから下ってくるのでしょうか。雨雲から雨が落ちてきますが、その雲はわき上がってきます。つまり雲はニュートンの法則に反しています。物体は小さくなると下から上に昇ることもあるのです。その現象をエントロピーの増大する方向に動くと言い表します。ある場合は物体が下り、ある場合には上ります。どちらに動くかを決めるのは温度です。高い温度ではエントロピー項が効いて、物体は上ります。海水が太陽の光で温められて上昇するのはそのためです。低い温度ではエントロピー項が抑制されて、位置エネルギーを下げようとする傾向が際だって物体は落ちていきます。冷えた空気が下がってくるのもそのためです。別の事象で見ると、秩序を獲得するのは位置のエネルギーを下げようとするから、混沌となるのは高温下でエントロピーが増えようとするからです。物体が冷えると結晶になり、温められると融けて蒸発するのは、秩序から混沌への変化と考えることができます。自然界の動きは位置エネルギーを下げて秩序を持とうとする傾向と、エントロピーを増やし混沌に向かおうとする傾向のせめぎ合いに支配されているのです。
 南の海上で発生する台風は、温められた海水と空気が上昇するために希薄な空間が生まれ、そこに周りから冷たい空気が流れ込んでくることに原因があります。この希薄な空間を埋めようとする小さな物体の動きは拡散と呼ばれている現象です。つまり、風は温かな環境に希薄な空間が発生し、そこに周りから空気が拡散するから吹きます。
 もう一つ追記しておく点は、風は窓を開けて外界との障壁を取り払ったときに吹き込んで来るということです。閉じたシステムを開放する勇気が新しい風を迎えるために必要な条件です。