*******  あ た ら し い 風  *******

〜 風 と 共 に 生 ま れ る 〜

【6】 風を捕まえる
 明治維新は文明開化と特徴づけられています。蒸気船という技術の力に圧倒され、力を移入する努力が進められました。技術の差があるとき、強い方から弱い方へ力が働くのは自然の摂理です。先に述べたエネルギーを下げる方向、秩序化への動きです。その後の日本が経験した20世紀という時代は技術の時代であったと言うことができます。その華やかさに魅せられて豊かな文明社会を築いてきましたが、そこここに行き詰まりが見えてきて、不安ばかりが湧き上がってきます。文明に対する文化の相対的な沈下がアンバランスとして顕在化しているためです。人の心を安らかにし豊かにするのは文化の真髄です。なぜなら文化は決して力による無理強いをすることがないからです。確かに表面的には流行の変遷のような変動は見られますが、人智が進展しているようには思えません。
 ビッグバンとは高温下での混沌です。技術のような力による動きとは逆の、エントロピーに起因する動きです。そこから生まれる新しい風を真っ向から受け止めるためには、従来の動きとは逆の動きの必然性を感じ取る知恵が必要です。それが文化の正しいイメージです。コストや労力を下げようとするのが文明の方向性なら、資財を浪費しわざわざ苦労を捕まえようとするのが文化の方向性です。バランスとは逆方向の動きが均衡するときにのみ成立するものです。文明が求めようとした安定が行き詰まり停滞したのは、文化の働きが地盤沈下したことに原因があります。もちろん、逆方向の動きの導入は文明の動きにブレーキをかけることになり、その結果として利便性や快適性などに失うものが出てきます。しかしそこに空きが生まれ、新しい風が吹き込んできます。
 経済の力に支配されている文明社会が競争や自己責任を求めるなら、隣人を大事に思い命の連鎖を敬い縁ある人をつなぐ機能を文化が担うべきでしょう。本来文化とはそういうものであったはずです。新しい風とは文化のビッグバンなのです。