《突然のPTA会長就任》

 連れ合いがPTAに関わって数年後,副会長に就任した。健全育成という建前と会員の本音との間の溝を思い知らされている連れ合いに,実現可能な対応を提案しようとするとき議論が白熱してしまう。それまでは我が子の養育は連れ合いにまかせっきりであったが,いきなり数百人の子どもたちの育成という課題に直面させられてしまった。副会長の任期が切れるとき,どういう風が吹いたのか,私に会長をという依頼が飛び込んできた。外野で勝手なことを言ってきたから今度は自分で体験してみたら,という連れ合いのつれない励ましに乗せられてみた。
 最初のハードルは会長の挨拶である。それまで長という名に縁のなかった身が,挨拶をしなければならない。時候,目的,お礼とお願いという挨拶三点セットでしばらくは逃れていたが,やがてむなしくなってきた。自分で話した数度の挨拶を自分が全く思い出せないのである。ということは聞いている方も後に残らないはずである。挨拶で何も語っていないということに気がついた。例えば健全育成のためにという目的を語っても,その健全ということの中身がイメージできないままに言葉を発していた。話す方が分かっていないのに,聞く方に分かるはずがない。伝えたということと伝わったということは違うのである。
 健全とは一言で言えばどういうことか。挨拶というのはその答を一人の親として提示する機会なのだと悟ったとき,子育てが私の意識の上に登場してきた。同時に私の挨拶を覚えてくれる人も出てきた。

(No.1:リビング北九州:96年4月20日:1154号掲載)