《必需品 無ければないで 知恵が出る》

 書類をバインダーに綴じ込むときに,パンチで穴を開けます。正しい位置に穴を開けるにはセンターを出さなければなりません。若者が定規を使って中心位置に小さな印をつけています。書類を二つ折にして端だけに折り目をつければ,手軽にセンターが決められることを話してやると,なるほどという顔をしていました。折り紙を楽しんだことがあれば,この方法はなんでもないことでしょう。
 私たちは仕事や暮らしの中でさまざまな道具を使います。設備の整った生活に慣れると作業と道具が不可分に思えてきます。道具がなければ作業ができないと思うようになります。例えば紙の厚さを普通の定規で測ることなんてできないとあきらめてはいませんか。もっと精密な物差しが必要なようです。手近にある本を取り出して200頁分を測ると11ミリです。紙の厚さが計算できます。
 普通の暮らしでは最小限の道具があれば,たいていのことは工夫すれば用が済ませられます。道具に使われるのではなく道具を使うようにすれば,知恵が蓄えられていきます。手が脳につながっているというのは,そういうことです。
 お金がなければ幸せになれない。ものがなければ豊かではない。確かに皆無であればどうしようもありませんが,欲張る必要はないでしょう。あり余るものに使われているのではなく,ものを使いこなす積もりになれば,結構豊かで幸せな暮らしが可能です。
 何かが足りない。そんな状況で子どもを育てると,何とかしようと考えます。そうすることが創造性を育みます。「必要は発明の母」とことさら大げさに構えなくても,生きた知恵とは何とかしようと努力した成果なのです。

(No.48:リビング北九州:98年6月6日:1258号掲載)