*** 子育ち12章 ***
 

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「第 56-05 章」


『子育ちは 思想を語る 力にて』


■子育ち12能力■

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『子育ち第5能力』

【子育ちは,思いを正しく表現することができることである】

《まえがき》
 この子育て羅針盤では,子どもの育ちを6つの視点と2つの領域から理解することを目指しています。6つの視点とは,誰が育つのか,どこで育つのか,いつ育つのか,何が育つのか,なぜ育つのか,どのように育つのかという問に沿うものです。また,2つの領域とは,自分自身の育ち(私の育ち)と他者と関わる自分の育ち(私たちの育ち)という育ちの領域を想定しています。6つの視点にそれぞれ2つの領域を重ねると,12の論点が生じます。これが羅針盤の方位構成となります。
 この56版では,子どもが育ちの中で獲得すべき「12のできる力」を考えます。子どもが発揮する可能性を拓いていく営みが育ちだと想定します。ここで述べていく力は,人が生きていく上で必須とされる基本的な力であり,バランス良く獲得されなければならないものです。

《表現するのはいつですか?》
 子どもが社会を安心できる居場所であると認めるのは,人間関係の信頼を通してであるというのが,第4の能力でした。その人間関係を組み上げているのが言語です。人としてのあらゆることが言語によって可能になっています。もう一人の自分は言葉を記憶し理解していくことで知恵を獲得していきます。その知恵が自分に向かうとき,もう一人の自分は自分を理解し他者を理解することができます。
 子どもは周りに飛び交う言葉を聞き,その意味を推し量り,まねをして話してみて,どう伝わるかを確認します。このような言葉の習得能力を子どもは持ち合わせています。人間を含めた環境との交流の手段を持つことが,生きていく上で必要なことなのです。母の言葉としての母国語によって,もう一人の子どもは自分と環境の両方に交流をすることができます。母はそばにいるときは寸暇を惜しんで,子どもが生きている世界に必要な言葉をしっかりと口移ししてやらなければなりません。
 人は感情の動物という一面があり,その生活には随所に喜怒哀楽が埋め込まれています。その感情表現を言語化できなければ,共感を通した社会生活を送ることができなくなります。特に欲望に起因する感情は極めて個人的,自己中心的なものなので,生のままの表現はもう一人の自分を押しのけて,必ずトラブルを引き起こします。いったん言語を主とした形に整えようとする作業工程を経ることによって,もう一人の自分の抑制が可能になります。誰かに話すことで気持ちが安らいだという経験は,そのよい例です。

 情報社会で育つ子どもたちは,自分の意見を明確に言語化する能力は持っています。時にはこましゃくれた物言いと思うこともあります。しかし,言葉そのものを批判しない所があり,結果として考え方が単純になっています。現実に対面することなく,言語で語ればすべてを言い尽くし理解したと思い込む傾向が見られます。「やばい」,「かわいい」という言葉が多用されて,その現実の多様さが意識されていません。また,人は言うこととすることにギャップがあることにも気づいていないので,誤解が多発しています。

 子どもたちに対する指導や教育がこれ程ふやけてしまったのは,子どもを人生のお客様にしたからといわれます。この世にはどんなに避けようとしても事故や危険がついて回るものです。その現実の厳しさを子どもに教える大人が少なすぎました。子どもに途方もない夢を与える一方で,厳しい現実感覚を伴っていません。極端な場合として,正義のために死ぬこともありうるという思想など,誰も正しく表現してみせようとしません。命は大事という言葉を教えても,命を守る行為の尊さは他人任せで脇に置かれています。

 学問・思想は声の無い無声文化です。本を読んでも背後に著者の声を聞くのは稀でしょう。文字を中心とした今の情報は,頭から入ってくるので,肌で感じる部分がありません。漢字は,象形文字であり,男性的,書くので目の言葉であり,男の名に使われると見れども口にはしませんでした。名ではなく,○○の守とか部長,先生など役職で呼ばれます。また,漢字は視覚的思考の表現であり,論理,遠近法の形になります。一方で,仮名は,音標文字であり,女性的,話すので耳の言葉であり,女の名に使われると呼ばれるものとなります。かなは,聴覚的思考の表現であり,非論理,立体性の形になります。このように頭から出てくる言葉に生命の重みはありません。腹から湧き出る言葉を持ちましょう。



 高校生が帰宅して,空の弁当箱を渡しながら母親に言いました。「お母さん,今日の弁当,おいしかったよ」。「おいしかった」の言葉は,母親にとって言葉の最高の御馳走と感じられます。ところで,お宅のお子さんはお弁当がおいしかったと言いますか? そう尋ねられたひとりの母親が,自信なさそうに答えてくれます。「おいしかったと言ってくれることはありません。しかし,毎日一粒も残さず食べて来ます」。言葉に出さなくても,きちんといただく形を返す,これも美しい表現だと思いませんか?

★落書き★

 夏になると働き者のアリが,行列を作って精を出しています。昆虫の死骸やお菓子のくずを見つけたアリは,カケラを口に咥えて巣に戻ります。そのときに,腹の先の発香腺から出る「道しるべフェロモン」を,地面にチョンチョンとつけていきます。近くにいたアリがこのフェロモンに出会って,餌運びに参加することになり,行列ができていきます。このフェロモンは揮発性なので,自然に消えていき,行列も解散となります。アリの能力はすごいですね。


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