*** 子育ち12章 ***
 

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「第 8-01 章」


『落ち着いて そう言われても どうすれば?』


 ■はじめに

 既にご案内をしておきましたが,今号から第8版に改まります。3ヶ月ごとに改版してきましたので,2年目を締めくくることになります。いろいろなことをお伝えしてきましたが,少しは気持ちを楽にして頂けたでしょうか?

 どちらか言えば長めのマガジンで,読み応えがありすぎるのではと思っています。それでも,登録してくださっている皆様の数が減らないのは,とてもうれしく励みになっております。実のところ書く方は書き応えがあるといった生やさしいものではないのですが,読んでくださる皆様の無言の圧力に屈しないようにがんばっております。

 また,この版からスタイルを変えました。子育ての全体イメージを持って頂くために書き始めたマガジンですが,そのことを一層明確にするためです。したがって,読み切り形式に近づいたとも言えます。

 繰り返しになりますが,子育ちを考える指標として「5W1H」を採用しています。つまり,「誰が育つのか,どこで育つのか,いつ育つのか,何が育つのか,なぜ育つのか,どのように育つのか」,この6つの視点から考えるのが「子育て羅針盤の基本方針」でした。この6つの視点を抑えておけば,必要な検討が完成するはずです。それさえ弁えていれば,大丈夫ということです。

 子育てに安心して取り組んで頂くチェックポイントを提示していますので,これからのマガジンを例題として読んでくださるようにお願いいたします。やがて,ご自分の課題に向き合うとき,どのようにチェックすればいいか,その分析力が付くはずです。



【質問8-01:あなたのお子さんは,落ち着いていますか?】

 《「落ち着く」という内容について,説明が必要ですね!》


 〇だれ?

 ママは誰を育てていますか? もちろん我が子ですね。確かにその通りなのですが,その思いは子どもが赤ちゃんである時期にとどめておいてください。物心付くようになったら,○○ちゃんを育てるつもりになって下さい。自分のことを○○ちゃんと呼ぶ頃になると,自分を呼ぶもう一人の自分が誕生してくるからです。育てなければならないのは,その「もう一人の子ども」なのです。

 幼い子どもは落ち着きがないものです。それはもう一人の子どもがまだ十分に自分をコントロールできるまでに育っていないせいです。焦らないで,ゆっくりと育ちを待ってやって下さい。

 子どもが遊びに夢中になっているとき,ママが話しかけても聞いていませんね。一心不乱と言いますが,もう一人の自分が遊びの世界に旅をしていて,そこには居ないからです。我に返ると言いますが,もう一人の子どもが自分の元に帰宅したことです。

 子どもを産むのが産みの親,その我が子の中に○○ちゃんというもう一人の子どもを育ててやる,それが育ての親の役割です。私は○○である,その育ちが自尊心につながります。

 ママは,○○さんの奥さんではないでしょう? 私には○○という名前があると思うはずです。ママの中には,もう一人の自分がいるはずですね。あるときは自分をママらしく,あるときは妻らしく,あるときは子どもらしく,あるときは女らしく・・・,自分を思い通りに変幻させているアナタです。

 もう一人の自分が自分をどう扱ったらいいのか分からないとき,落ち着きを失います。何に気をつければいいのかというと,いつもママがこうしなさいと指図漬けにしていないかを反省することです。ママの言うとおりにする,それがもう一人の子どもの育ちをないがしろにするからです。

・・・落ち着くとは,もう一人の自分が自分を統御することです。・・・


 〇どこ?

 ママはどこで育てていますか? もちろん我が家ですね。確かにハウスという意味ではその通りですが,育ちの場はホームでなければなりません。ホームであるためには,どんなことが必要なのでしょうか? それは「安心」です。不安になれば,育ちどころではないからです。

 ママは子どもが保育園や幼稚園,あるいは学校に行くとホッとしていませんか? 子どもがいない間だけが落ち着ける時間と思ってはいませんか? 子どもやパパはうちに帰るとホッとしていますが,ママはヤレヤレと思ったりして?

 もう一人の子どもは自分が子どもだということを自覚しています。未熟であることから不安を抱いています。その不安をなんとか持ちこたえているのは,親との温かなつながりです。親の懐にしっかりと抱かれているという信仰にも似た思いこみが頼りです。私はこのパパやママの子どもであるという帰属意識です。虎の威を借りる必要があるのです。

 子どもはたとえ親と離れている時間があっても,その間親はいつも自分のことを気遣ってくれていると思えば,勇気が出てきます。あなたなんかうちの子ではありません,あなたなんか産まなければ良かった,たった一度の繰り言は子どもとの絆を断ちきります。

 ママが自分の知らないところに居るということほど,子どもを不安にさせるものはありません。ママはあそこにいる,その具体的なイメージを持たせておいてください。パパが子どもから縁遠くなる一因は,パパが働いている会社を見たことがないからイメージが描けないせいです。あそこにいる,行けば会える,その確かな実感が子どもの育ちを促します。安心するからです。

・・・落ち着くとは,安心の現れです。・・・


 〇いつ?

 ママはいつ育てていますか? 子どもが傍にいるときですね。傍にいるときに子どもとどんな風に関わっていますか? 別に? 子どもが帰ってきたとき,「今日はどうだった?」と話しかけると,「別に」。最近どうも子どもは何も話さなくなったと嘆くことになり落ち着きませんね。

 「どうだった?」という問いかけは,返事のしようがありません。何が尋ねられているか分からないからです。大きな子どもであれば,「何か変わったことがなかったか」という意味らしいと見当をつけて,「別に何もなかったよ」と答えているはずです。ちゃんと話の辻褄は合っているのですが,もしかしたらママの方は何を聞いていいか分からないままに尋ねているのかもしれません。

 近所の奥さんがお出かけしているのに出会うと,「お出かけですか?」,「ええ,ちょっとそこまで」,「そうですか,お気をつけて」。何のことでしょう? おしゃべりであれば,それでも構いません。でも,子どもとの会話ではもう一工夫が要りようです。女性がおしゃべりの能力を与えられているのは,子どもに対する言葉の先生だからです。

 もう一人の子どもはママの言葉という二番目の母乳,つまり母国語によって育ちます。優しい子に育てたければ,優しい言葉を口移しで与えてやらなければなりません。優しい子だから優しい言葉を使うのではなくて,優しい言葉を使うから優しく育つのです。

 ワールドカップに湧きました。応援の熱気がわき上がってきたとき,それを解放する手だてがなければ闇雲な狼藉に及ぶでしょう。わーっと叫びたい気持ちを発散する必要があります。そこに「日本,チャ,チャ,チャ」というかけ声が出てきました。その一言で集団の熱気が燃え上がると同時に,共感という喜びに昇華することができました。言葉の助けで完全に燃焼できれば,落ち着きが訪れます。

・・・落ち着くとは,思いに相応しい言葉を持つことです。・・・


 〇なに?

 ママは何を育てていますか? 早く自分のことは自分でできるようになって欲しいですね? ちゃんとできる,さっさとできる,そうなって手が掛からなくなればうれしいですね。でも,子どもはママのそんな願いなど「ズバリ半額」と値切ってくれます。ちゃんと育ってくれません?

 「そんな石を集めてどうするの? どこから拾ってきたの? 汚いから捨ててしまいなさい!」,「イヤ」,「どうしてママの言うことが聞けないの,かしなさい,ママが捨ててくるから,何を考えているのかママには分からない!」。こうして未来の岩石博士は押し潰されていきます?

 子どもはたくさんある石の中から,その石たちを選んで拾ってきました。面白い形をしている,きれいな色をしている,この石はパパ,これはママ,これがボク,そしてこれは弟,そんなイメージを重ねたのかもしれません。何か子どもなりに訳があったはずです。石は子どもによって価値を与えられたのですが,汚いというママの判断基準によって無価値に貶められています。価値観の衝突です。

 汚いと思ったら,「洗っておいで」の一言で済むはずです。子どもらしい価値観を持とうとしているのを邪魔してはいけません。自分が選ぶという確かな選択を体験することは大事だからです。自分の選択が間違っていない,その自信が行動にも落ち着きとなって現れます。何をしてもいちいち否定されていたら,自分の判断が信じられなくなり,おどおどと落ち着かない子どもに育ちます。

 ママが大人としてのちゃんとした価値基準を教えたい気持ちは十分に分かりますが,悪いことではない限り,見守ってやってください。まず子どもなりの考えを持たせてやらないと,良いと思う価値観に従う癖が身に付かないからです。子ども用の自転車に慣れていれば,大人用には楽に乗り換えができることと同じです。

・・・落ち着くとは,自分なりの判断に自信があることです。・・・


 〇なぜ?

 ママはなぜ育てていますか? 子どもが可愛いからですね。できちゃったから育てなければならない,なんてことはないはずです。たまにはそんな感想を漏らすことがあるかもしれませんが,落ち着いて考えれば本心ではないはずです。ママにも落ち着いてもらわないと恐いですね?

 貧しくて栄養状態が悪いと,女性の身体は多産体勢に入るそうです。人類種の存続が危ういので生き延びる確率を増やそうとする,遺伝子に込められた秘密機能です。貧しいとすることがないから子沢山になる訳ではありません。もちろん稼ぎ手を増やそうという親の経済的な意思も重なってはいますが。

 豊かな社会では子どもを育てる理由が明確ではなくなる傾向があります。少子化はある意味で自然な趨勢です。親にとって子どもは将来への希望でした。今は親は親,子どもは子どもと,人生を切り離す考え方が強くなっています。親は長寿になり子どもに譲る訳にはいかないという切実な理由が出てきたこともあります。豊かな時代の子育てはよくよく考えないと,道を踏み外すことになるかもしれません。

 ほんの十数年前までは,子どもにとってママとは自分を理解してくれる人でした。ところが,最近は理解してくれる人というよりも,指導してくれる人というイメージが強くなってきました。その違いは,ママとの気持ちのつながりに微妙な亀裂が入ってきたことです。母親として無条件に受け入れてくれる存在から,第三者としてあれこれ指導する存在にシフトし距離感が現れたということです。

 育てたいという気持ちより,育てなければという義務感の方をママが強く抱くようになってきたのです。だからこそ,思い通りに育たないと見捨てたり,自信を無くしたりしていきます。育てるという意識が強すぎて,育ちへの期待に寄り添うという余裕を見失っています。

 「ほら,ママ,ボクはここまで育ったよ,見てごらん」,「よく育ったね」。それが,ママと子どもの自然な間合いだということに気付いて欲しいと願います。育てなければ,育たなければ,そこには親子共に落ち着きは生まれません。育つのが楽しい,素直な親子の情を取り戻しませんか?

・・・落ち着くとは,楽しみに向かっている状態です。・・・


 〇どのように?

 ママはどのように育てていますか? あれこれ用事に忙しいママですから,さっさとしなさいと急きたててしまいます。「ぐずぐずしないの,ママは出かけなければならないんだから。毎日同じことを言わせないでね!」。「忘れ物はないわね?」,「あっ」,「だから,寝る前にちゃんと用意しておくようにいったでしょ,もう一年生じゃないんだから自分のことぐらいちゃんとしてね」。

 子どもの育ちのペースは,どうしてもママのペースからは遅れていきます。無理に引っ張ろうとすると,子どもは落ち着いて育つことができません。ママの前だけ取り繕うことを覚えていきます。それが積もり積もれば,やがて子どもの負担になります。結局はママが知らないうちに子どもを追い詰めていくことになります。

 ご飯を炊くときに,はじめチョロチョロ,中パッパ,赤子泣いても蓋取るな,と言われていました。一事が万事という言葉があります。この二つを結びつけると,子育てにおいても,はじめはチョロチョロでいきましょうとなります。では,子育てにおいて中とはいつでしょう? 中学生以降になったらパッパとハッパをかけます。十分に耐えるだけの素地が育っているからです。二十歳になるまで,蓋は取らないで,蒸らします。

 子育ての流れを見ていると,急ぎすぎています。幼稚園時期にはもうパッパとして,小学生時期には蒸らそうとしています。これでは半煮えのご飯状態になります。火加減が全くタイミングを外しています。さらに困ったことは,中学生時期には炊きあがったと早とちりをして育ての火をすっかり引いてしまうことです。人としての育ての仕上げを手抜きしてしまうことになります。

 育ちに相応しいペースを守っていれば,子どもは落ち着きます。まず,ママがじっくりと落ち着いて,育ちのペースを見定めてください。取りあえず気をつけることは,はじめからちゃんとできなくてもいいと思うこと,そのうちにできるようになると待つこと,ただし放置するのではなくて,こうしたらいいよとしてみせること,そこから取りかかってみてください。

・・・落ち着くとは,育ちのペースを保っていることです。・・・



《落ち着くとは,順調な育ちをしていることです。》

 ○うちの子は落ち着きがない,そんな心配をさせてしまったかもしれませんね。見た目に落ち着いているかどうかということにはあまり拘らないでくださいね。大人から見れば,子どもは少しもじっとしていません。いきおい落ち着いていないと思ってしまいます。

 ここで取り上げたのは,気持ちが安定しているかという側面での落ち着きです。また,10歳前後には反抗期もありますので,落ち着きを失っているように見えることでしょう。それはまた別の育ちの局面と考えて,子どもを見守ってやってください。原則は踏まえながらも,一筋縄ではいかないのが子育てです。


 【質問8-01:あなたのお子さんは,落ち着いていますか?】

   ●答は?・・・もちろん,「イエス」ですよね!?

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