【梗概】

 青少年の健全育成を図るための社会教育的活動にとって最大の難関は,今目の前にいるこの子どもたちにとってどんな活動が必要なのかという社会的なニーズの把握です。もちろん情報化され入手できる一般的な課題はたくさん提供されています。しかし,それは目の前にいる「この子どもたち」のものではなくて,「あの子どもたち」のものです。つまり自分たちの課題は自分たちの情報からしか見つけられません。そのために,親の養育や子どもの実体に関する基礎的な調査を継続的に自前で実施しなければなりません。そのデータを経時的かつ地域的に比較分析をすれば,自らの課題は自然に浮き上がってきます。
 調査を実施してきた経験の中で,最も大きな壁は調査の内容でした。何を調べたら課題が見えてくるのかという問題です。そこで生まれたのがこの「すこやか処方箋」です。子どもが健やかに育つためには,不可欠な養育要素があるはずです。植物の育ちには種,豊かな土壌,太陽,水,温度に生命力などが不可欠なことと同じです。
人の育ちには6つの要素が欠かせないと考えました。その根拠は完結している5W1Hの疑問で育ちを解き明かすことができるからです。すなわち,誰が育つのか,どこで育つのか,いつ育つのか,何が育つのか,なぜ育つのか,どうして育つのかという設問について考えています。養育要素をもれなく把握したとき,全体像が構築できます。この6要素を調査することで,現実の養育に潜むバランスの弱点を見つけることができます。
 的確な調査をするための要素分析ですが,この「すこやか処方箋」は同時に養育者の指針でもあります。親が子育ての自己チェックをし問題点を自覚しさえすれば,課題は簡単に解決できるはずです。養育がバランスを獲得できたら,何よりも子どもには幸せなことでしょう。そこで,この論文は親が養育を自ら考えることを想定して,例題的な設問に答える形で論が進められています。